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#9 Adamafalx(アダマファルクス)

#9 Adamafalx(アダマファルクス)

挿絵(By みてみん)

 突然の猛攻に虚を突かれた七海は一瞬霊否達から距離を取った。上星はその隙に七海と霊否の間に素早く割り込む。徐々に七海から引き離していく。絶望的な状況を脱した霊否は「おーし」と言いながら腕をぽきぽきと鳴らし、「これでやっと一対一でお前を倒せるな。」飛来を指さしながら言った。

 「俺を倒すだと・・・?」

 飛来は右手を大きく振った。ガチャンという金属音とともに甲手が上下に分解する。形の変わった甲手を地面に向け、手の平を地面に叩きつける。分解した甲手の溝が周りの空気を吸いあげていき、螺旋状の空気の渦が出来上がる。それが一気に解き放たれ、巨大な竜巻がフィールド上に巻き起こる。


 風塵(エアレイド) 黒雷波(ボルテックス)!!


 竜巻の中でバリバリと雷鳴が響きわたる。突風に巻き込まれた霊否はフィールドの外へと弾き飛ばされてしまった。


***


 写真とクラス名簿を握りしめながた、大宗平善は廊下を走っていた。鞍上 妙子は職員室にはいなかった。他の先生に聞くと2-Bの教室にいるのではという話だった。今日は体育祭なので校舎に生徒は一人もいない。静まり帰った廊下をぜえぜえと息を切らしながら全速力で走る。

 2-Bの教室にたどり着くと扉を勢いよく開けた。教室を見渡しても鞍上 妙子の姿はない。くっそ!くっそ!こうなれば学校中の教室をしらみつぶしに確認するしかない。そう考え後ろを振り返ると

 「あら、大宗君。体育祭はどうしたの?」後ろから鞍上 妙子が現れた。

 セミロングの髪に大きな丸渕眼鏡の妙子はのんきに教室の花瓶の水を取り替えていた。「せんせっ・・ハアハア・・あのっ・・・・・」大宗は教室の扉にもたれかかる。そしてゆっくりと呼吸を整えると握りしめていた写真を妙子の顔の前に突き付けた。

 「これ!これは昭和62年度の2-B組の写真だ・・!26年前の事件があったのは昭和63年2月、当時の2年B組の生徒が起こした事件だった!つまりこの写真の中に犯人の女がいるんだ!」

 写真をのぞき込んだ妙子の表情が急変する。顔はサッと青ざめ、表情は強張り、唇をカタカタと震わせている。大宗は構わず続けた。

 「そしてここ!これはあんただな。」

 写真に写った一人の女子生徒を指さす。

 「あんたの旧姓は工藤 妙子。このクラス名簿と見てピンと来たよ。あんた、犯人の女と同じクラスだったんだな。」

 そのとき妙子の持っていた花瓶がゴトッと音を立てて床に落ちた。「ああああ・・・」情けない声を上げながらその場で膝をついた。欠けた花瓶から水がこぼれ、スカートの裾を濡らす。顔を両手で覆い隠し、「知らない・・・知らない・・・私は何も知らない・・・・」と何かに憑りつかれたようにぼそぼそと言った。

 「26年前、2年B組で一体何があった?なんで火影家は事件のことを隠蔽したんだ!」

 会話にならない妙子に苛立ちを覚えた大宗は、声を荒げどなるように言う。

 「あああああああ!!!!!」妙子は狂ったように叫びながら綺麗に整えられた髪をぐしゃぐしゃとかきむしる。

 「おい、先生!叫んでちゃわかんねえぞ!」

 大宗は妙子の肩をゆすりながら強引に訴えかける。妙子はなおも叫びながら大宗の腕を力づくで振りほどいた。

 「あんた教師だろ!生徒が危険にさらされてるのに何も思わないのか!」

 普段の温厚で人当たりの良さそうな妙子とはまるで別人のようだ。

 この反応まさか・・・!

 あくまで可能性の一つとして考えていた推理が大宗の頭をよぎった。

 少女Aは少年法により死刑にはならなかった。少年刑務所で刑期を終え、社会復帰を果たした少女Aが壇ノ浦学園の教師として戻ってきた――!?

 「まさか、あんたが少女Aなのか・・・・!?」

 大宗がそういうと、先ほどまで荒れ狂っていた妙子の動きがピタリと止まり「違う、私じゃない」と言った。「は・・・!?」なんだこいつ。訳がわからない。妙子は途端にスっと立ち上がると「違う・・・私じゃない・・私じゃない・・」と言いながら廊下を走り出した。「くっそ!」逃げられる。そう思った大宗も急いで追いかける。

 「違うならなんで逃げる!」

 ついにたどり着いた事件の真相。鞍上妙子は事件に関する重要な秘密を持ってる。やっと手に入れた手がかり、そう簡単に逃がしてたまるかよ!

 「待ておい!!」

 叫びながら走っていると突然首根っこを掴まれ、「おい、なにしてる!」という野太い怒鳴り声と共に無理やり妙子から引きはがされる。体育教師の宮尾だ。大宗を遥かに上回る巨体に軽々と持ちあげられる。

 「離せよ!くそ!」

 大宗は手足をひたすらにばたつかせ、宮尾から逃れようとする。しかしこの体格差でこの程度の反発は無意味でしかなかった。くっそ・・・くっそ・・・もう少しで、本当にもう少しで真実にたどりつけそうだったのに!

 「お前ら教師はそうやって、よってたかって、自分たちの都合の悪いことは隠して!てめえらみたいな汚ねえ大人が教師名乗ってんじゃねえよ!」

 悔しくて悔しくてしょうがなかった。今できるだけの力を振り絞ってひたすらに叫んだ。

 「俺はただ真実が知りたいだけだ!この学校の祟りの真相を!!」

 悔しくて涙がこぼれた。どんなに醜くても、どんなに負けそうでもあきらめたくなかった。最後のあがきだ。

 「妙子先生、これは・・・?」

 宮尾が落ち着いた口調で今度は妙子に話かけた。妙子はぼさぼさの髪に顔は無表情で廊下に座り込んでいた。妙子の様子を見た宮尾は何かをを察したように「大宗。俺と話をしよう」と言った。妙子は別の先生に連れられて保健室へ行った。大宗と宮尾は誰もいなくなった2年B組の教室に向かい合って座っていた。

 「妙子先生はな、あの事件を目の前で見てから精神的に参ってしまったんだ。いまでもあの事件を思い出すとあんな風になってしまう。あまり刺激するな」

 2年B組の教室を見渡し、古い思い出を振り返るように宮尾が言った。

 「俺もな、少女Aと同じ学年だったんだ。クラスは違うがな」

 「えっ・・・・!」

 確かに妙子と宮尾は年齢は同じくらいだった気がした。妙子から話が聞けなかったのは残念だが、少女Aと同級生だった宮尾に聞けば、なにか重要な情報が手に入るのではと考えた。それに大宗の頭にある考えがひらめいていた。この男からなら、あの情報が聞けるかもしれない。

 「いじめがあったというのは本当ですか?」

 メモを片手に大宗は質問した。

 「俺は詳しくは知らないけど、本当らしい。当時の2年B組にはこう・・・クラスの中でも目立つグループがいたんだ。確か7人くらいいたかな。そのグループが少女Aともう一人をターゲットにしていじめていた。」

 「もう一人?少女Aのほかにもう一人いじめられていた生徒がいたんですか?」

 「ああ。だがその生徒はいじめに耐えきれず、飛び降り自殺してしまったんだ。」

 「・・・・その情報は初めて知りました。」

 「学校側はいじめの事実はないと否定したが、そのあとの殺人事件との関連も指摘されて、当時は大きな問題になってた。」

 「少女Aはどんな生徒でしたか?」

 「そうだな・・・・暗くて、ちょっと変わり者って感じだったよ。友達もあんまりいなかったんじゃないかな。それに――さんは・・・」

 「え・・・?」

 ――さん・・・?始めて聞く名前に大宗が戸惑っていると、宮尾の顔がスッと青ざめた。とっさに口を押える。

 その反応をみた大宗は確信した。今のが少女Aの名前だ。大宗はクラス名簿と写真を引っ掴んで駆け出した。

 「まて!大宗ェ!!」

 宮尾の怒鳴り声を無視してとにかく全速力でトイレの個室へ入る。やった!ようやく手に入れた少女Aの本名!宮尾め。体だけでかいバカが。同級生なら当時呼んでいた名前を漏らすかと思っていたがまんまとハマりやがった。頭は俺の方が回るってもんだ。さっき聞いた名前はしっかり覚えた。クラス名簿をもう一度確認する。そしてクラス写真を見る。妙子を見つけたときから写真に並んでいる順番と名簿の順番が一致していることは確認している。


 いた・・・・みつけた・・・・・!

 こいつか・・!


 こいつが少女A―――――!


***


 「おい!開けろ!おい!」

 宮尾はトイレの個室のドアを乱暴に叩く。ドアをこじ開けようとするが、中から鍵がかけられている。だがしばらくするといきなり鍵が開いた。ドアを開けるとそこにはクラス名簿と写真を握りしめた大宗が立ちすくんでいた。生気を失ったような表情で、頭から水をかぶったように全身をカタカタと震わせている。

 その瞬間宮尾は”この子はすべてを知ってしまったか”と思った。 

 「おい、どういうことだ。」

 大宗は震える声で言った。蚊の鳴くような小さい声だった。

 「なぜ彼女がここに写ってる。26年前の写真だぞ!」

 宮尾の服の裾を掴み叫ぶ。けれども宮尾は何も答えない。

 「おい、あんた、ここまで来てまだシラを切るつもりか!」大宗はさらに声を荒げる。

 宮尾はずっと黙っている。ただ胸倉を掴まれ、されるがままになっている。

 「こいつは高校生だぞ!」

 大宗から目を背け、ただ虚空を見つめる彼の表情は、まるで何かに呪われているようだった――


***


 攻撃で場外まで吹き飛ばされた霊否は服についた砂埃を払いながら電光掲示板を見た。場外反則による失点と飛来と七海の旗獲得による得点で現在点数は16-0。こちらの得点はいまだ0点だ。

 これまでの攻撃から、飛来の技はだいたいわかってきた。背中の大きな翼による空中の高速移動と風を使った攻撃。つまるところ奴の能力は風を自在に操る異能といったところか。能力を生かした技がこれまで2つ。一つ目がケリュケイオンという銃から放たれる空気砲(エアキャノン)、そしてさっきの甲手から強烈な竜巻を起こす、風塵(エアレイド) 黒雷波(ボルテックス)。この2つの攻撃をどうにか攻略しなければ勝つのは難しいぞ・・・・そんなことを考えながらフィールドに戻ってきた霊否に、飛来が甲手をもとに戻しながら「断言してもいい。」と言った。ガチャンと金属がぶつかる音がする。そしてケリュケイオンを片手に持ち上げ、霊否に見せびらかすように肩に担いでみせる。

 「神器が無ければ絶対に勝てない。」

 「さっきからその神器ってのはなんなんだよ」

 「そんなことも知らんのか」

 飛来は嘲笑しながら言った。

 「お前と俺が持っている異能は神の能力を一部借りている状態だ。礼装神器はいわばその神と異能所持者をつなぐ媒体。

 お前の異能そのものはお前の体の中に備わっているものではあるが、媒体がなければ神との結合がとれず異能本来の力は発揮できない。」

 そんなこと知らなかった。霊否は礼装神器の存在などメドゥーサから聞いたこともなかった。困惑する霊否を追い詰めるように飛来が続ける。

 「お前が今使えている能力は本来の力ではない。礼装神器があれば、異能の力を100%引き出すことができる。異能の使用による体への負荷も大幅に軽減させることが出来る。」

 「礼装神器・・・あたしにはねえぞ」

 霊否はメドゥーサを見つめる。そんな大事なことをなぜ言わなかったのか意味がわからなかった。けれどメドゥーサは霊否からあからさまに目を背け、何も言ってくれなかった。

 「お前、精霊から何も教わってないのか・・?」

 バカにしたように笑いながら飛来が言った。

 「なあ、メドゥーサ!」

 メドゥーサは何も言わない。相変わらず霊否から顔を背け、こっちを見てもくれない。

 「どうしたんだよ。今日お前なんかおかしいぞ」

 今までは異能の使い方を教えてくれたのに、今日はなにも教えてくれない。同じ異能を持つ飛来が相手だから、というのが理由なのだろうか。

 「なんでなにも教えてくれないんだよ!!」

 霊否はメドゥーサの態度にだんだんイライラしてきた。こいつにイライラすることなど今に始まったことではないが、今日の態度は、理由もわからず自分が拒絶されているように感じた。こんな時に仲間割れしている場合ではない。

 「無駄だよ、平等院霊否!」

 ゆらゆらと揺れていたアイオロスが口をはさむ。

 「その女がなんて呼ばれてるか知らないのか!」

 「はあ・・・?」

 「”ファムファタール”」

 アイオロスの言葉を聞いた瞬間、メドゥーサは体をびくっと強張らせた。

 「その女は一緒にいる男を破滅させる、魔性の女だよ!!お前が近づけば近づくほど、お前は破滅する・・・・!」

 メドゥーサは青ざめた顔になり、今にも泣きだしそうだった。それを見た霊否は我慢できなくなり「おい、お前らいい加減にしろよ。」と怒鳴った。

 「あたしは礼装神器とかいうののこともわかんねぇし、メドューサがなんて言われているかとかも知らねぇけど、

 一緒にいる男を破滅させる?メドゥーサがそんな女の子なわけねえだろ!適当なこと言ってんじぇねえぞカスども!」

 「女の子?」アイオロスがプッと笑った。「そいつは魔女だよ!悪魔の血を引いた、魔女だ!」

 「なぁにが魔女だよ!第一あたしは破滅してませーん!一緒にいた男が破滅って。その男ってのに問題あるんじゃねーの」

 挑発するように反論する。

 「大した友情だな」

 飛来が呆れるように言った。その様子を見ていたメドゥーサは覚悟をきめたように霊否を見つめる。次の瞬間、宙に浮いたまま霊否に向かって突進してくる。「え!ちょっとなになに」戸惑う霊否に構うことなく、二人の額がゴチンと音を立ててぶつかる。


***


 ふわふわとした浮遊感に包まれ、霊否は目を開いた。周りの景色が変わっていることに気づいた。どこだここは。

 今の日本とは、時代も国も遥か遠く離れた異世界。石膏の建物が立ち並び、布を肩に巻いた服装の人々が行きかう街並み。町の中心部に位置する白い巨大な建物。そしてその建物の頂点に位置する巨大な銅像。鎧を身にまとい、長い髪をなびかせながら勇ましく剣をふるう女性の像だった。

 これは、メドゥーサの記憶・・・?


***


 大きな銅色の壺を肩に抱え、メドゥーサは石段を上がっていた。首と肩の痛みにはもう慣れた。水をこぼさないように慎重に石段を上がる。石段の上の方まで行ったところで誰かにぶつかられた。バランスを崩し、壺を落としてしまう。水が盛大にぶちまけられ、落ちた壺をあわてて拾い上げる。壺が割れていなくてよかったと思った。割れると大変なことになる。

 「服が汚れるじゃない」

 顔を上げると華やかな服装の女がメドゥーサを見下ろしていた。顔は必死に笑みをこらえているように見えた。その女は紫色の鮮やかな色彩の布を纏い、腰や二の腕に金色の装飾品を身に着けている。ウェーブのかかった栗色の髪は綺麗にまとめられ、花をつなぎ合わせた美しい髪飾りを頭に乗せている。対してメドゥーサは貧相な茶色の布を腰紐で留めただけの服装で、短くなった髪は結ぶこともできない。 

 「も、申し訳ございません」

 メドゥーサは慌てて頭を下げた。女が舌打ちをしながら去っていたあと、もう一度壺に傷が入っていないか入念に確認する。水をまた汲みなおさなきゃと思い立ち上がるとそこに白くて細い手が差し伸べられる。

 「メドゥーサ、大丈夫?」

 「アテーナー」

 アテーナーはメドゥーサと同じような茶色の布に長い髪を頭の上で束ねている。彼女も水を汲みに行くところだから一緒に行こうと言ってくれた。

 「なによあいつ。貴族の妹だからって偉そうに。」

 またいつもの陰口が始まったとメドゥーサは思った。

 「どこぞの貴族様との結婚が決まってるんですって。」

 「ふーん」

 「あたしは結婚なんて絶対嫌。親が勝手に決めた相手と結婚させられて、結婚後は夫に服従、家に篭って死ぬまで家事やってろなんて。あたしの人生の決定権はあたしには無いわけ?かといって今の奴隷のまま自由がないもの嫌。」

 「そうだね」

 だから私たちは”シビュラ”になる。そう続くのだろうと思った。

 「あたし、メドューサはあいつらに目移りしないくらい美人だと思うけどな。」

 アテーナーはそう言ってメドゥーサの髪を優しくなでた。 

 「特に髪が素敵。ストレートでサラサラで。あたしなんてほら、こんなくせっ毛なんだから。」

 そういうアテーナーだって美人だ。顔立ちも整っているし人当たりもよいから奴隷のみんなからよく慕われている。メドゥーサと初めて会った時も彼女の方から話かけてくれた。アテーナーはメドゥーサの短くなった髪を寂しそうに見つめる。

 「髪、ほんとに切ってよかったの?」

 「うん、自分で決めたもの」

 教会での儀式で長かった髪をバッサリと切ったことをまだ言っている。本人よりアテーナーの方が気にしている様子だった。

 「髪なんてまたすぐ生えてくるって。それに短いのも似合うでしょ?」

 励ますように言った。

 「まあね。」

 しばらく二人の間に沈黙があった。

 「でも、あたしは髪長いのが好きだったな」

 アテーナーは未練がましく言った。水汲みが終わった後、メドゥーサとアテーナーは教会へと足を運んだ。


 この時代のギリシャにおいて女の地位はかなり低かった。政治・法律・戦争は男の世界であり、女はそういった社会的な場から排除され、妻として、娘として、家に篭っていることを命じられた。

 社会的に地位の低い私たち女の奴隷は物売り、洗濯、布を織る織り手、乳母として働く場合が多い。貴族の妻や娘たちから嫌がらせを受けることもある。

 私からすればそれが当たり前であり、奴隷であれば必死に働いて当然だと思っていた。だからアテーナーが結婚して家に篭りっきりになるのが嫌、奴隷は自由が無いから嫌という考えは、自分では考えの及ばない範囲の話をしていて新鮮だった。

 ”あたしの人生の決定権はあたしで決める。親や男には絶対決めさせない。”

 アテーナーがよく言っていた。アテーナーに誘われて、仕事を抜け出して初めて教会に行ったときの衝撃は今でも覚えている。宗教の前では男も女も奴隷も貴族も関係ない、みんなが平等だった。

 ギリシャ神話の神はアテナ、アルテミスなど女神が多く存在する。アテーナーは自分の名前と近い音をもつアテナという女神を心底尊敬していた。アテナは知恵と戦争の神だ。男たちが体をぶつけあう血生臭い暴力の世界で、女として知恵と肉体を駆使して戦場を駆け抜けるその雄姿は今も語り継がれ、町の中心部には彼女の銅像がある。

 それから二人で頻繁に教会に通うようになった。そしてアテーナーはメドゥーサに一緒にシビュラになろうと言った。シビュラとは巫女のことであり、神々に仕える女性の祭司のことである。シビュラになり神聖な祭事に参加することになれば女性であってもかなり高い地位へつくことが出来る。尊敬されるべき存在になれる。貴族や奴隷であれば絶対にたどり着くことができない権利や名誉を手にすることができるのだ。

 巫女になると決意した日、メドゥーサとアテーナー、その他巫女志望の女性たち数名で儀式が執り行われた。

 一人一人、自分の一番大切なものを祭壇に捧げる。神に仕える巫女として自分の一部を神に捧げるという意味がある。アテーナーは小さいころから大切にしていた髪飾りを。メドゥーサは長くて美しい髪をバッサリと切り、綺麗に束ねて奉納した。

 儀式の後、司祭から巫女になる上での心構えなどを教わった。司祭はメドゥーサたちが教会に通い出した時からずっと面倒をみてくれていた老人だった。メドゥーサたちが巫女になると話したときは白い髭を撫でながらとても嬉しそうに「そうか、そうか」と頷いてくれた。

 巫女になる上で重要な掟があった。それは処女であることだった。かの戦争の神アテナも処女であった。処女でない者は巫女になることは出来ない。そればかりか、恐ろしい怪物に変身する呪いをかけられた上に教会から永久追放という処罰が下される。普段はとても優しい司祭の声がそのときは低く、表情もどこか厳しいものになっていて、メドゥーサは少し怖くなった。

 メドゥーサとアテーナーは普段は洗濯婦として働き、時間があれば教会に行き、神の教えを勉強する。そんな毎日が続いていた。メドゥーサは巫女になることや神の教えよりもアテーナーと一緒に過ごせることが何よりも嬉しかった。

 アテーナーは早くも巫女としての才覚を表していた。教会にはアテーナーと同じように女性の権威を主張する人が数名いた。アテーナーはその人たちと結託し、教会の中でも中心的な人物になっていった。

 対してメドゥーサはというと、人見知りで人と話すもの苦手だったので教会に行ってもアテーナーとしか話さなかった。教会はどんどん人が増え、新しい人ともアテーナーは積極的にコミュニケーションを取っていた。

 いつしかメドゥーサたちに嫌がらせをしてきた貴族の女の姿も教会で見るようになった。彼女も身分はかなり高いほうであるが、女性の扱いに不満を持っていたのか。アテーナーの考えに賛同してくれたようだった。アテーナーが活躍するのは嬉しかったが、徐々にメドューサのもとから離れていくのは少し寂しい気がした。メドゥーサとアテーナーは教会の中でかなり差ができてしまっていた。

 新しい信者の中にレノスという男がいた。鼻筋の通った端正な顔立ちに、すらっと背が高い男で教会の女性たちの間で話題になっていた。

 巫女志望のメドゥーサからすれば、処女を守るという固い掟があるため、男性と話すことすら恐ろしくてできなかった。

 ある時メドゥーサは、アテーナーとレノスがデキているのではという噂を聞いた。教会の人気者で中心人物であるアテーナーと、最近入信してきた整った容姿の男性が付き合うなんて珍しい話ではないがアテーナーは巫女になって名誉を手にすることが夢だったはずだ。もしアテーナーが処女でなくなれば巫女になれないどころか化け物にされて教会から永久追放だ。

 でもあくまで噂だ。出所もわからない噂を信じて親友を疑うなんてどうかしていると思った。だがあるとき街中で、アテーナーとレノスが2人が話しているところを見てしまった。噂は本当だったのだ。あれだけ巫女になろうと張り切っていたのに男が現れたとたんにこれだ。第一アテーナーのほうから巫女になろうと誘っていたくせに無責任だと思った。アテーナーに対する不信感ばかりが募っていき、いつしかあまり会話をしなくなっていた。アテーナーから話かけられても無視するようになった。けれどもアテーナーは何度も私に話かけてきた。なんとなくしつこいなと思った。

 アテーナーと一緒にいられるから教会にも通っていたが、アテーナーと話さなくなった今、教会に通うのもやめようかと思っていたそんな時、レノスが私に話かけてきた。「やあ、君アテーナーの友達だろ?」そんな軽い感じで話かけてきた。近くで見ると確かに整った顔をしている。女が寄ってくるのもわかる気がした。

 アテーナーと会話しなくなってからほとんど人と話すことがなくなっていたメドゥーサにとって、男の人と話すのはかなり緊張した。そんなメドゥーサにもレノスは親しげに接してくれた。最初はぎこちなかったが、メドゥーサも徐々にレノスに心を開くようになった。それからというもの、教会に行くたびにレノスと会話するようになった。教会に行く目的がアテーナーからレノスに変わった。

 聖女アテナの誕生日、街では毎年お祭りがある。信者たちはみんなお祭りに参加していた。人混みが苦手なメドゥーサは一人教会に来ていた。いつもは人がたくさんいる教会はしんと静まり返っている。一人でなんとなくぼーっとしていると、教会の扉が開く音がした。誰だろうと思って振り返るとレノスがいた。

 メドゥーサとレノスは広い教会の席に隣同士で座った。何気ない会話をしながらときどきお互いの足が振れ、びっくりして離れる。でもそれも慣れてきて次に触れた時には離さなくなった。レノスがメドゥーサの唇に触れ、そっとキスをした。

 その瞬間、メドゥーサの頭にアテーナーの顔が浮かんだ。

 「お願い、絶対アテーナーには言わないで」

 「アテーナー?」

 レノスは驚いて言った。なぜ彼女の名前が出来てたのか不思議だったようだ。

 「彼女とはただの友達だよ」

 ううん、あなたは気づいてないと思うけどアテーナーはあなたが好きなのよ。そう言いたかった。レノスの腕に抱かれながら、ああ、これがバレたらもう巫女にはなれないなとメドゥーサは思った。

 いや、もともと自分の意志で巫女になりたかったわけじゃない。ただアテーナーと一緒にいたかっただけだ。誰かに必要とされていたかった。レノスとの関係だって、アテーナーに仕返しがしたいわけじゃない。ただちょっとした優越感に浸りたかった。アテーナーには友達がたくさんいて、女性の為に立ち上がる勇気も巫女になりたい夢も持っているように思えた。

 自分にはないたくさんのものを持っている彼女から好きな人くらい奪ってみたかった。アテーナーから羨ましいと思ってほしかった。


 翌日、私だけが教会に呼び出された。司祭から昨日あったことを問い詰められた。司祭の表情はいつもの優しい親しげな顔だった。あの時は私とレノス以外誰も教会にはいなかったはずだ。では誰が。

 絶対アテーナーだと思った。アテーナーもレノスが好きだからだ。

 「アテーナーですか?」

 メドゥーサはとっさに聞いた。

 「メドゥーサ」

 司祭の表情が一気に強張った。

 「アテーナーから聞いたんですか?」メドゥーサはたまらず聞き返す。

 すると司祭はメドゥーサの細い肩を乱暴につかみ、「アテーナーじゃない、私は今君に話しているんだ」しわがれ声を荒げて言った。恐ろしい形相の司祭を前にして、自分は一体何をしているのだろうと思った。私はただアテーナーと一緒にいたかっただけなのに。私はなにがしたかったんだろう。これじゃあアテーナーもレノスも自分自身も、何もかも失ってしまう。

 レノスにも一切非がないわけではなかったが、巫女志望の女が神聖な教会の場で行った行為については厳しい処罰が下されることになった。「宣言通り、シビュラの権利剝奪と、この教会からも追放だ。」


 メドゥーサは司祭に連れられて教会の地下へ続く薄暗い階段を下りて行った。司祭は細くしわだらけの手でメドゥーサの細い二の腕を掴んでいた。その手は80代の老人とは思えないほど強い力だった。これからどんな出来事が起こるのか、想像しただけで恐ろしくなった。

 真っ暗な地下に着き、司祭の持つロウソクの火だけを頼りに進む。暗く、冷たい廊下をしばらく進んだところで「ここに入りなさい」司祭が牢の中を照らした。メドゥーサは言われるがまま牢の中に入る。

 ギィィィィという音が耳に響き、牢が閉められ、重い錠がかけられる。司祭が去っていきロウソクの火が見えなくなるとついに視界が真っ暗になった。牢の奥になにかいるような不穏な気配を感じた。奥に行きたくない。本能的にそう思った。冷たい牢の隅っこで足をガクガクと震わせていた。奥のほうは暗くてよく見えない。

 不意に足にチクリと痛みが走った。何かに噛まれている。途端に足をぶんぶんと振ってそれを振り払った。うねうねした長い紐上のなにかが暗闇に消えていった。

 だんだんと目が慣れてきて牢の中の様子が見えるようになってきた。牢の奥に、大量の蛇がうじゃうじゃとうごめいているのが見えた。

 メドゥーサは声もでなかった。無意識に自分の口を両手で押さえつけ、息を殺して牢の端っこに逃げた。手に力が入り、皮膚が裂けそうだった。

 蛇は赤い舌をだしてメドゥーサに群がってくる。必死に足で蛇を払いのけるが蛇はメドゥーサの太もも辺りまでよじ登ってくる。絡みつくような気色の悪い感触を股のあたりに感じ、メドゥーサは悲鳴を上げた。足にまとわりついた蛇を必死に払いながら鉄格子を掴んでよじ登ろうとする。それでも蛇は鉄格子を登って追ってくる。次第に手や顔に蛇が張り付いてくる。その蛇を引きはがそうとして手で払いのけるとバランスを崩して鉄格子から手を放してしまった。メドゥーサは鋭い牙を見せて大口を開けている蛇が大量にいる地面に真っ逆さまに落ちていった―――


 メドゥーサが禁忌を犯したと聞いて、アテーナーは教会へと走っていた。途中でレノスとすれ違った。彼は生気を失ったような暗い顔をしていた。直感的にメドゥーサが禁忌を犯したことに彼が関係していると思った。

 彼がメドゥーサに好意を持っていると知って、あれほどメドゥーサに近づくなと話していたのに。人一倍誰かから求められることに飢えている子だった。レノスに言い寄られたらメドゥーサはきっと断れない。そう思っていた。

 巫女は処女であることが絶対条件であり、それを破れば恐ろしい罰が下されるとレノスにはきつく言っていたはずだった。

 教会には誰もいなかった。彼女の名前を呼びながら必死に教会の付近を探し回る。

 メドゥーサは本当に可愛い女の子だと思う。女のあたしでも可愛くてしょうがないくらいだ。美人だし髪も綺麗だし、なにより素直で繊細で、傷つきやすくて、とても心の優しい女の子だった。

 教会での女性権利を主張する活動で忙しく、メドゥーサとは最近はあまり話せていなかった。というかなんとなく避けられているように思えた。どこかであたし以外の友達でもできたのかと思い、少しショックだった。

 小さい頃はいつもあたしの後ろをくっついて歩いてくるような子だった。この子はあたしがいないとなにもできない、なにも決められない。そんな風に思っていた。あたしもメドゥーサの魅力を知っているのは自分だけという優越感に浸っていた。メドゥーサはそんな所有欲を掻き立てるような力があると思った。

 そういえばレノスとあたしがデキているのではという噂があったがまったくの事実無根だった。奴隷のあたしが女性の権利だの主張していることや教会の中心人物であることを快く思わない連中が根も葉もない噂を流していたのだろう。

 そんなことを考えていると遠くで悲鳴が聞こえた。何事かと思って行ってみると、教会付近に人だかりができていた。人混みをかき分けて中心にあるそれを見た。

 怪物だ。

 上半身は人のようだが、下半身は足が無く、代わりに鱗がびっしりとついており、まるで蛇の尻尾のようだった。

 足が無いから歩けないのか、下半身を動かしながら地面をのたうち回っている。頭から生やした人間の頭髪のような大量の蛇は、1本1本が意思を持っているようにうじゃうじゃとうごめいていた。赤色の瞳が、今にも飛び掛かってきそうな獰猛さでこちらを見た。

 その顔を見た瞬間、今しがた探していた親友の顔が頭をよぎった。「メドゥーサ・・・・・?」アテーナーは膝から崩れ落ちた。

 あたしの大好きだったメドゥーサ。彼女の美しい瞳は吊り上がり、見たもの全てを憎むような鋭さをもっていた。長くて美しかった髪は大蛇に代わった。優しいあの子がどうしてあんな姿に。

 なぜか体が動かなかった。メドゥーサの代わり果てた姿にショックを受けたことだけが原因ではない。体が金縛りにあったように動かないのだ。気づくと周囲の人々も同じように体を動かせなくなっていた。

 あの目だ。メドゥーサのあの宝石のように輝く赤色の瞳を見てから体の自由が利かない。

 「アテーナー、よく見ておきなさい。」

 司祭がアテーナーのすぐ横に立っていた。アテーナーは思わずひっと声を上げそうになった。

 「これが愚かにも禁忌を犯した者の姿だよ」

 怪物はうめき声を上げながら逃げ惑う人々を追いかけまわしていた。メドゥーサの瞳を見た人々はとたんに石のように動かなくなった。アテーナーは街の人々が蹂躙されているのをただ眺めることしかできなかった。

 司祭がアテーナーの背中をドンと叩いた。すると途端に体が動かせるようになった。「さあ、アテーナー」司祭が大きな鎌をアテーナーに差し出した。

 「自分がなにをしなきゃいけないかわかるね」

 アテーナーは自分の手が震えているのがわかった。乾いた唇を必死に動かして「・・・・・・無理です」と言い放った。

 「君はシビュラになるんだろう?禁忌を犯した女をその手で葬ってやるくらいの覚悟をもってもらわないと困るな」

 「・・・・・あの子は大切な友人です。できません」

 「君は賢い女の子だ。この行為がシビュラになるために重要な試練だと気づけるはずだよ」

 黙ってメドゥーサの様子を見ていたアテーナーは、突然何かに気づいたように目を見開いた。次の瞬間には司祭の手から鎌をひったくってメドゥーサのところへ淡々と歩いていった。

 やはりこの子は使いやすい。と司祭は思った。シビュラになるために親友を殺すとは大した覚悟だ。


 街中の人が自分を見て叫んでいる。みんなが私を恐れて、拒絶しているのがわかった。

 私だって怖い。みんなを傷つけるつもりなんてないのに、怖がらせるつもりなんてないのに。

 早く誰かに殺してほしかった。

 どうしてこんなことになったの。私はただ誰かから求められたかっただけなのに。メドゥーサの頭にアテーナーとレノスの顔が浮かんだ。誰かに必要とされるだけで嬉しかった。自分は存在していいんだって思えた。

 いや、悪いのは全部私だったよね。私がアテーナーばかりに依存していたから。私が彼を好きにならなければ。メドゥーサの赤色の瞳から涙がこぼれた。

 もうわかったから、私が悪かったから、

 これ以上苦しめないで

 人から求められたかった私にとって人から拒絶されるのは、死ぬより辛いことだって知ってるでしょ


 お願いだから早く殺して―――


 私が最後に見たのは、涙を流しながら鎌を振りかぶるアテーナーの姿だった。

 レノスは貴族の兄を持つ身分の高い男で、神聖な場で行為に及んだことについて特に咎められなかった。悪いのはメドゥーサの方で、レノスは気味の悪い怪物に言い寄られたら哀れな被害者ということになった。

 この出来事から私は”ファムファタール”と呼ばれた。一緒にいる男を食い殺す、魔性の女という意味らしい。

 そんな私が、どういうわけか数千年未来の日本という国で顕現した。自分が怪物になったころと同じ年くらいの女の子に力を与えなくてはならなかった。でも私はもう2度と怪物にはなりたくなかった。

 一番楽しかった頃はいつだろう。アテーナーと最初に会ったときはまだ幼かった。そうだ。あの頃は嫉妬したり、僻んだり、自己嫌悪に陥ったりすることもなかった。純粋にアテーナーが好きでいつまでもこの時間が続いてほしかった。

 もう一度あの頃に戻りたい。そう思うと自分が小さかった頃の姿に戻っていた。私はこれでいい。悪魔の力は必要ない。二度と怪物にはならないと誓い、メドゥーサの能力を封印した。


***


 いま見た物語はなんだったのだろうか。次に霊否が目を開くと、目の前に髪の長い、美しい女性が現れた。吸い込まれそうな美しい赤色の瞳。頭に生えた二本の鋭い角。背中の大きな翼。その容姿は先ほど見た怪物と近しいものだった。

 「お前、メドューサか?」

 その女性は無言でうなずくと霊否の頬に触れた。鋭く長い爪が生えたメドゥーサの手は、その見た目に反してとても優しく、暖かかった。霊否も思わずメドゥーサの頬に触れる。

 思えば壇ノ浦学園に入ってから様々な困難があったが、メドゥーサの力のおかげでなんとか切り抜けることができた。メドゥーサとは喧嘩することも多かったが、友達もあまりいなかった霊否にとってあんな風に言い合いができたのは小さい頃兄と喧嘩して以来だった。

 「メドゥーサはさ・・・・どんな女の子なの?」

 「私は・・・・」

 震える声でメドゥーサが言った。目から涙がこぼれ、霊否は優しく手で拭った。

挿絵(By みてみん)

 「一人でいるのが怖くて、」

 だからアテーナーと一緒にいたのだ。アテーナーが遠くに行ったから、レノスに言い寄られて嬉しかったのだ。彼を受け入れてしまったのだ。

 「でも傷つくのはもっと怖くて」

 大切な人に嫌われるのが怖かった。だから自分の思いを素直に口にすることもできなかった。

 「大切な人だからこそ、近づけば傷つけてしまいそうで、大切な人を傷つけたくなくて、だから遠ざけて、本当の姿は隠してた」

 1人でいるのは嫌なのに、1人にならざるを得ない。そんな自己矛盾に永遠に苦しみ続けるしかなかった。

 黙って聞いていた霊否が「いままでごめん、誰よりもずっと一緒にいたはずなのに」と言った。

 「うん、大丈夫」

 「あたしがずっとそばにいるよ」

 そう聞いたメドゥーサは顔を真っ赤にし、両手で顔を覆った。そして大きな鎌を差し出した。

 「この武器はね。私の人生を終わらせた武器。でもおかげでこうして私たちは出会うことができた―――」

 差し出された鎌をしっかりと握りしめる。

 「メドューサ。これだけは忘れないでメドューサがどんなに自分のことが嫌いでも私はずぅっとメドューサのこと好きだから」


***


 霊否とメドゥーサが突如閃光に包まれ、飛来は思わず身構えする。

 「おぉーーっとこれはーーー!?」

 実況の海星も声を張り上げる。

 「この武器はね。私の人生を終わらせた武器。でもおかげでこうして私たちは出会うことができた。」

 霊否はさっきのメドゥーサの言葉を思い出していた。

 「前はこの武器、見るのも嫌だったの。不思議だね。今はそんなふうに考えることができるなんて。これも霊否ちゃんのお陰かな。」

 そういって自分に笑いかけた。

 「この武器の名前は―――」


 大鎌を振りかざし、地面に叩きつけて見せる。

 「礼装神器 ”アダマファルクス”―――」

 挿絵(By みてみん)



======================


【次回予告】


 飛来悠李だ。俺は勝たなきゃいけない。勝って、必ずこの学園のトップになるんだ。

 それが俺の使命だから―――

 次回、|AstiMaitriseアスティメトライズ  #10「|Cross-Genderクロスジェンダー

 すべては、AstiMaitriseの名のもとに。

 

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