ぬいぐるみの死の先に
「こら信行!その人形は捨ててきなって言ったでしょ!」
「へっ、やなこった。こりゃあなぁ、ばぁちゃんが俺にくれたぬいぐるみなんだぞ!ばぁちゃんに大事にしろ言われてんだ!」
「ばぁちゃんの形見が大事なのはわかるけどね、あんたそれもうボロボロじゃないの。」
確かに、今俺が持っているものはボロボロだ。
言われなきゃぬいぐるみかすら分からねぇ。
けど、それでも大事なもんなんだ。
ばあちゃんが葬式の前の日に俺にくれたもんなんやから。
「誰が何つってもぜってーすてねぇ。ばぁちゃんにもこのぬいぐるみにも悪りぃからな。」
「何言ってもだめですからね!もし、大掃除終わるまでに捨ててなかったら母ちゃんが捨てますからね!」
「はぁ?ふっざけんなよ!これは俺がもらったんだから俺のだ。勝手にすてんな!」
それだけ言うとおれは、ぬいぐるみの頭を乱雑につかみ自分の部屋に入った。
その晩、俺はかぁちゃんに捨てられないようぬいぐるみを抱いて寝た。
そしたら夢を見た。
詳しくは覚えていない。
でも、夢の中でぬいぐるみと少しだけ話したような気がした。
そして、なぜか夢の中のぬいぐるみは、とても辛そうな顔をしていた。
そして、俺は布団の上に俺しかいないことに気づいた。
昨日、一緒に寝たはずのぬいぐるみはどこを探してもいなかった。
まさか、かぁちゃんに捨てられたんじゃ。
そう思った俺は布団を投げ飛ばしかぁちゃんのもとに向かった。
「かぁちゃん!俺のぬいぐるみ知らへん?」
かぁちゃんは不思議そうな顔をした。
「知らへんって、あんたが持ってったんじゃないのかい?」
そう言いながらかぁちゃんは玄関を指さした。
そこには、ぬいぐるみが座るような姿勢で置いてあった。
「おれ、知らない。」
そう言いながら俺は、夢で見たぬいぐるみの顔を思い出す。
夢の中のぬいぐるみが辛そうだったんじゃない。
今も辛そうなんだ。
今までずっと辛そうだったんだ。
そう思うと、自然と涙が出てきた。
「かぁちゃん。」
「ん?どした?」
「俺、もうぬいぐるみとお別れする。
「…そっか。」
かぁちゃんは、いつもと違う優しい声だった。
「でも、捨てるのはいやや。ちゃんと火葬してばぁちゃんとおんなじとこ送るんだ」
もう俺は、泣くのを止められなかった。
「わかったよ。今から庭で火葬して、出てきた灰を
ばぁちゃんの墓にでも供えてやろ?」
おれは、もう黙って頷くことしかできなかった。
そして、その後ちゃんとばぁちゃんとおんなじ墓に入れてやった。
その日の晩に見た夢では、ぬいぐるみはばぁちゃんとおんなじ顔で笑ってた。
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