8月27日
8月27日、和夫が東京に戻るまであと3日、優太は明日、智也はあと2日だ。徐々に夏休みの終わりを感じている。そして、シゲと過ごす日々の終わりを感じている。色々あったけど、最高の夏休みだった。
シゲは朝から病院に行っている。がんがどれだけ進行しているか、診るという。
3人は青い空を見つめている。こんなに澄んだ空気で美しい青空を見られるのも、もうすぐ終わりだ。東京に戻らなければならない。そう思うと、落ち込んでしまう。終わってほしくない。でも学校がある。そして、人は成長していくんだ。
と、家に車がやって来た。鈴木だ。今日は何をしようと声をかけるんだろう。
「あっ、鈴木さん」
和夫は手を振った。車から降りてきた鈴木も手を振る。鈴木は嬉しそうだ。
「優太くんや智也くんも山登りしない?」
鈴木は彼らに、吉岡山に登らないかと声をかけた。すでに和夫は登ったが、優太と智也はまだ登っていない。
「うん」
優太は登ろうと思った。その姿を見て、隣にいた智也もうなずいた。智也も登りたいと思っているようだ。
「和ちゃんも行く?」
「うん」
和夫も登る事にした。2回目だけど、もう1度登って忘れないようにしよう。
4人は車に乗り、吉岡山を目指した。そこへ向かう道路はそこそこ車が通っている。だが、時折通る気動車の中はガラガラだ。吉岡線はすでに交通機関としての役目を終えて間もなく消え去ろうとしている。多くの車が通っている道路とは正反対だ。それが時代の流れだろうか?
「車が多いね」
「今はみんな車で来るんだよ。昔は鉄道とバスで向かったんだけどね」
昔は気動車とバスで吉岡山に向かっていた。だが、モータリゼーションの発達で、吉岡山まで車で直接行けるようになり、乗客が減った。
「そうなんだ」
智也は少し寂しくなった。そして、それが時代の移り変わり何だろうかと思った。
「これも廃止の原因なんかな?」
「きっとそうだろうな。道路の発達やモータリゼーション。どの廃止されそうな路線も廃止された路線もみんなそんな感じだ」
鈴木も寂しそうだ。あれだけ反対運動を起こして頑張ったのに、結局廃止になろうとしている。路線がなくなると、この村はどうなってしまうんだろうか? 沿線はどうなってしまうんだろうか? だんだん衰退していくんだろうか?
「時代は変わっていくんだね」
「ああ」
その時、バスとすれ違った。バスにはそこそこ多くの人が乗っている。このバスが10月からこの村の唯一の交通機関になる。だが、全盛期に比べて乗客が減っているという。そのバスもいつまで走るんだろう。ひょっとして、そのバスも廃止されるんだろうか?
1時間ほど走って、4人は吉岡山の麓にやって来た。麓には多くの人が来ている。だが、彼らのほとんどは車だ。ここも時代の変化を感じる。
「さぁ、登るぞ」
「うん」
4人は山を登り始めた。山道を歩いていると、家族連れもいる。彼らは楽しそうだ。今度は家族で山登りもいいな。
「けっこう大変だね」
「でも、体にはいいんだよ」
鈴木は笑顔を見せた。確かに、山登りはダイエットに最適だ。
「きっといいだろうね」
和夫も笑みを浮かべた。最近、俊介の肥満体が気になってきた。なので、ダイエットのためにこれもいいかな?
数時間歩いて、ようやく頂上にたどり着いた。頂上には何人かの人がいて、その眺めを楽しんでいる。
「ここが頂上か」
「うん」
優太と智也はその絶景に息を飲んだ。これが山の頂上の眺めか。こんなに絶景だとは。頂上に着くまでは大変だけど、山登りが好きになりそう。
「きれいだね」
「もうすぐ帰っちゃうけど、この景色、忘れないでおこう」
智也もその光景を見て感動した。よく見ると、富士山も見える。テレビでしか見た事がないけど、こんなにも美しいんだ。
「来年も登りたいね」
「うん」
和夫も絶景にうっとりしていた。2度目だけど、何度見ても飽きない。どうしてだろう。
「1学期の終わりであんなことあったけど、2学期は頑張ろうよ。未来はまだ決まっていないんだ」
「そうだね」
あの先に東京がある。帰らなければならない場所だ。これから東京でもっと大きくなる。そして、36年後、再び秋平に戻り、タイムカプセルを取りに行く。その時までにどれだけ成長しているか。そして、もうすぐ天国に行くシゲに喜んでもらえるように頑張っているか。
「また2学期頑張ろう」
「うん」
3人は改めて決意した。必ず成長して再び戻ってこよう。できれば、36年前の決意と共に、この山に再び登りたいな。
夕方、4人は家に帰ってきた。家では翔太がドラゴンクエストをしている。竜王の城まで行ったらしいが、竜王と戦ったんだろうか?
4人は車から出てきた。家の中にはシゲもいる。シゲは夕飯を作っている。
「ただいまー」
3人は帰ってきた。すると、シゲが振り向いた。
「おかえりー、どうだった?」
「進行してるって」
今日の昼下がり、病院から帰ってきた。今日は報告だけのようだ。がんは進行していて、転移も見つかったという。着々と死へのカウントダウンが始まっているようだ。その時までに、いい子にならねば。
「そうか」
和夫は残念がった。がんの進行が止まっていればもっと長くいられるのに。そうはいかないのか。
「どうにか1日でも多く生きていてほしいな」
「そうだね」
優太も同じ気持ちだ。自分や智也はもちろん、和夫の成長も見守ってほしい。
「でも、そうはいかないんだよ。死ぬ運命には逆らえないんだ」
シゲは下を向いた。もう残された時間はない。でも、それが自分の運命なんだ。自分はここまでの人生を精一杯生きた。だから、悔しいけど悔いはない。
「誰にもそれは来るんだね」
3人は、やがて来る死の事を考えた。だが、今は考えてはならない。今の時代を前を向いて精一杯生きなければいけない。
「ああ。生きているから、死もあるんだ。悲しいけど、運命には立ち向かわなければ」
「そうだね」
その時、翔太がやって来た。それを見て、和夫は画面を見た。するとそこには、ドラゴンの姿の竜王が映っている。これが竜王の最終形態で、これを倒したらクリアだ。
「和夫兄ちゃん、助けてよ! 竜王が強すぎる!」
翔太は泣きそうだ。あまりにも強くて、何度も負けたようだ。
「だろう。ドラゴンの姿が強いんだよ! 激しい炎が怖いんだぞ」
和夫はどれだけ強いか知ってる。いろんな攻撃を仕掛けてくるが、特に激しい炎が強くて、大ダメージを食らう。
「そうそう。かなりダメージを食らうから」
翔太もプレイしてその強さを何度も味わってきた。ベホイミでないと間に合わないし、MPが足りなくなり、負ける事もしばしばだ。
「ベホイミのタイミングを考えないと。それに、もっとレベルを上げないと」
翔太は和夫のアドバイスに聞き耳していた。MPが足りないし、ベホイミのタイミングも大切だ。頑張っていれば、必ず勝てる。そして、エンディングが見られるだろう。
「30日の朝に帰っちゃうんだよね」
「ああ」
だが、30日の朝に帰ってしまうと聞くと、あわててしまう。明日かあさってまでにクリアしないと。ソフトを持っている和夫が東京に帰ってしまう。
「早くやらないとね」
「そうだね」
翔太は拳を握り締めた。何としてもエンディングを見なければ。そして、学校のクラスメイトに自慢しないと。




