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僕とおじいちゃんの夏休み  作者: 口羽龍
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7月23日

 7月23日、今日も晴天だ。夏休みが始まった頃、森琴村のある県でも梅雨明けが発表された。週間予報によると、1週間ずっと晴れだという。


 今日も朝から暑い。朝から蝉の声がよく聞こえる。和夫はタオルを首にかけながら勉強をしている。


 朝食を終えた和夫は朝から勉強をしていた。昨日からずっと読書感想文を書いてる。早めにやっておかねばと思っていても、なかなか進まない。


「和ちゃん、お寺行くぞー!」


 シゲは声をかけた。今日、シゲは和夫と神社と墓参りに行く予定だ。和夫はあまり楽しみにしていない。


「はーい!」


 和夫は大声で答えた。シゲは軽トラックのエンジンをかけ、車内の冷房をつけた。


「昨日は大丈夫だったか?」

「まだまだ」


 エンジンの音を聞いて、和夫が降りてきた。今日の事は、すでにシゲから聞いている。昨日はそれを楽しみにしていたのに、無理心中の事で少し暗そうな表情だ。


「でも、昨日に比べたら穏やかになってきたよ」


 和夫は元気そうな表情を見せた。しかし、心の内では、優太の事、自分の両親の事を気にしていた。ここにいる間にも何か悪いことがあるんじゃないかと思っている。


「本当?」

「ああ」


 和夫は元気に答えた。でも、それが精いっぱいだ。


「それじゃあ、行こうか?」

「うん」


 和夫は軽トラックの助手席に座った。シゲはすでに運転席にいる。和夫が扉を閉めたのを確認して、シゲは軽トラックを走らせた。


「昔はここにも神社があったのに、人が減って、後継ぎがいなくなって、神社がなくなったんだよ」


 シゲの言う通りだ。昔は秋平にも神社があった。しかし、人口が減り、後継者がいなくなり、神社はなくなった。


「ふーん」

「もう少し山奥にあったんだよ」


 和夫はその話を真剣に聞いていた。和夫はそのことを知らなかった。最初からここにはないと思っていた。


 しばらく走ると、軽トラックは川を渡った。川の下には朝から水遊びをする人がいる。その中には夏休みを楽しんでいる地元の子供もいる。朝から熱いので朝から水遊びしているんだろう。


 実家を出て数十分、軽トラックは神社に着いた。神社は雑木林の中にあり、セミの音が辺りに響いている。木漏れ日の中にあるためか、やや暗く、少し涼しい。


「着いたぞ」


 和夫とシゲは軽トラックを出た。神社の前には鳥居があり、鳥居の先には神主がはき掃除をしている。ここにはまだ後継ぎがいるようだ。


「和ちゃん、来たんかいな」


 神主は和夫に反応した。神主は和夫のことをよく知っている。いつもなら盆休みしか来ないのに、今年は夏休み中ずっといる。


「うん」

「どや、ちょっと話をしようか」


 和夫は戸惑っていた。神主と2人で話をしたことなんて、一度もない。


「うん、いいけど」


 和夫と神主は神社の前にあるベンチに座った。座っていると、セミの声が聞こえる。今日も暑い。和夫はちょっと外に出ただけでも汗をかいている。


「悪いことしたんやって?」

「うん」


 和夫は落ち込んだ。またいじめの事を言われた。その度に、自分がどれだけ悪い事をしたか、痛感してしまう。和夫は涙が出そうになった。


「おばあちゃん、天国から見守ってるといいね」


 神主は死んだ和夫の祖母の事を思い出していた。とても優しかった。和夫に会えるのを楽しみにしていた。


「こんな悪い事しても?」

「和ちゃん、気にすんな。やったことはしょうがないんだ。それ以上に頑張れよ」


 シゲと同じ答えだった。それ以上に頑張れ、それ以上に頑張れと言われても、本当に頑張ればいいものかな? 本当に償えるものかな? 和夫は疑問に思っていた。


「優太くんの両親、天国からどう見てんのかな?」


 和夫は空を見上げていた。しかし、木々にさえぎられて、空はよく見えない。


「わからんな。でも、あんまり気にすんな。和ちゃんの明るい姿を見たら、温かく見守るようになると思うよ」

「そうだったらいいけど」


 和夫は不安だった。優太の両親は天国どんな顔をしているんだろう。嫌な思いで見ているんじゃないだろうか。これから呪われるんじゃないだろうか。和夫はこの先の人生が不安になった。




 昼下がり、神社から戻ってきたシゲは農作業をしている。ここの野菜は無農薬で、機械は一切使わない。駅の周辺の集落では機械を使っているそうだが、ここでは使ってない。


 和夫が1階の畳でゴロゴロしていると、電話がかかってきた。和夫は電話を取った。優太だ。優太の家では、通夜の準備が行われていて、家の中がバタバタしている。


「優太? どうしたの?」

「いや、何でもない」


 優太は元気がなさそうだった。両親が無理心中したからだ。両親が無理心中したことを、和夫に言うことができない。和夫も知っているのに。優太は言えずにいた。


「元気にしてる?」

「してるけど?」

「両親、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫だけど」


 優太は嘘をついた。本当は大丈夫じゃないのに。元気がないのに。両親が無理心中したなんて、和夫には言えない。


「本当に? 無理心中の事、聞いたんだけど」


 優太は驚いた。黙っているはずなのに、どうして知っているんだろう。まさか、テレビを見た? 優太はアワアワしている。


「えっ!? 何で知ってるの?」

「ニュースで聞いたんだ」


 優太は戸惑った。まさか知っていたとは。


「そうか。今さっきは嘘をついて、ごめんな」

「いいよ。話したくなかったんでしょ。その気持ちわかるよ」

「これからが不安だよ」


 優太はこの先が不安だった。両親がいない中でこれからどうやって生きていけばいいのか。先が見えない。


「まぁ、どんなことがあっても、頑張ろうよ。僕、この夏休みでいろいろ学んで、心を癒して帰ってくるから、期待しててね。それじゃあ」


 和夫は受話器を置いた。シゲは農作業の合間の休憩で実家にいる。


「どうした?」

「優太くん、両親が無理心中したことを和夫に話したくなかったんだって」

「お互い様じゃな。わしも話したくなかったんじゃから」


 シゲは笑った。自分も黙っていたけど、優太も黙っていたからだ。




 その夜も、和夫は空を見上げていた。秋平の夜は静かだ。都会とは違って、家の明かりがほとんど見えないし、電車や車の音も、人の声もしない。昼間はうるさいほど聞こえていた蝉の声もしない。


「優太くんの家、今頃通夜やってるんだろうな」

「優太くん、大丈夫かのぉ」


 シゲも心配だった。優太がこの先どうやって生きていくのか。両親がいなくなっては、どのように生きていけばいいのか。シゲも想像できない。


「将来が不安って言ってたもん」

「その、優太くんって、おじいちゃんおばあちゃんって、いるんかいな?」


 和夫は優太のおじいちゃんやおばあちゃんの事が気になった。もしいるのなら、そこに引っ越して暮らすんじゃないか?


「うーん、そこまではわからない」

「もしいて、その家に引っ越す事になれば、転校するかもしれんぞ」

「そうかもしれないな。もっと遊びたいのに。こんなことになるの嫌だよ」


 和夫は心配だった。優太と離れ離れになるかもしれない。もう毎日遊べない。あんなに仲良くしていたのに。こんなことで離ればなれになるのは嫌だ。


 その時、実家に男が入ってきた。別の集落に住んでいる鈴木だ。この村では少ない30代の男で、農業を営んでいる。農作業のない日はよく釣りや山登りをしている。


「和ちゃん、帰って来とったんかいな」

「あれっ? 鈴木のおじさん!」


 和夫は驚いた。まさか来るとは思っていなかった。


「明日、山登りいかんか? 悪い事やったらしいけど、気晴らしに山に登らんか?」

「う、うん。いいけど」


 和夫は山登りをした事がなかった。でも、いつかしてみたいとは思っていた。


「それじゃあ、明日、この家に来るからな」

「うん」


 突然の事だが、和夫は明日、山登りをすることになった。この村の中心を流れている山のもう少し上流にあって、この時期は多くの登山客で賑わっている。

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