走行妨害
夏休みは今日で終わり。
俺は1人、ボロボロの愛車に乗り、都内に向かっていた。
貧乏学生故、高速なんて利用できない。
ETCも着けられない。
国道と県道を走り、ユルユルと進んだ。
しばらくして、辺りは薄暗くなり、前も後ろもほとんど車がいなくなった。
渋滞を避けるために裏道を利用しているからもあったが、やけに交通量が少ない。
渋滞よりはマシか、と思い、気にせず車を走らせた。
「何だ、この車?」
前を走る1台の白いミニバン。
運転手の右肘が全開にされた窓からニュッと出ていた。
奇異なのはその事ではない。
時速30キロくらいしか出していないのだ。
しかも性格が悪い奴なのか、俺が追い越すために対向車線に出ると、加速する。
そんな事を何度か繰り返した。
イラついた俺は別の道に行こうと思い、脇道を探したが、運悪く一本道で、かわす事もできない。
しばらくは諦めて、そいつの後ろをノロノロと走った。
そろそろ油断しているだろう。
そう思って一気に加速した。
すると奴は意表を突かれたのか、あっさりと俺は忌ま忌ましいそのミニバンを追い越せた。
「!」
ギョッとした。
ルームミラーに写るミニバンには誰も乗っていなかった。
右肘だけが、窓から出ていたのだ。
「わっ!」
俺は急カーブに気づくのが遅れ、ガードレールに突っ込んでしまった。
「うう・・・」
エアバッグに埋もれた顔を上げ、霞む目を外に向けた。
相変わらず、奴のミニバンはノロノロと進み、やがて見えなくなった。
追い越す時はその先の道路状況を確認する。
基本を怠った俺が悪かったのだろうか?
それ以来、俺は追越ができなくなった。