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職人の友人

翌日、ハクアはセッカと約束した場所に来ていた。約束した場所は噴水のある広場だった。日が差し込む広場の中央でハクアは笠を被っていた。


「……早く来すぎたか?」


ハクアが少し不満さを隠さずに呟くと後ろからセッカの気配を察知する。


ハクアはやっときたか、と思いながら振り返る。


「えっと、待ちましたか?」

「……いや、それほどは」


白い着物に金の帯を結び、光悦茶色の髪をポニーテールに結んだセッカはハクアの手を握る。


ハクアは少し驚いた表情をし、何事かと呟きかけるが口を閉じる。雰囲気に身を任せるのも悪くないと思ったからだ。


「それでは、買い物に行きましょう!」

「ああ」


活発な笑顔を浮かべてセッカはハクアを引っ張る。ハクアは少し驚くがすぐに穏やかな笑顔に変わり、セッカについていく。


「それで、何か買いたい物はあるか?」


ハクアの問いにセッカは少し考え、


「雑貨とかです。部屋が殺風景ですし、少しくらい小道具を置いても問題ない筈です」

「金はあるのか?」

「あります。実は、学院で図書館の司書のアルバイトを行っているんです」

「へぇ、司書か。それはまた凄いな」


ハクアはセッカを褒め、答えたセッカは少し頬をにやけさせる。


(司書は本の整理や保存以外に古文書の暗号解読や魔導書の解釈や翻訳を行うことも業務だし、意外と頭が良いんだな)


古文書や魔導書は製作者が魔法の罠を仕掛けられている事が当たり前となる。そのため、司書になるためには高い魔法に対する知識が必要となる。


「エヘヘ……実は、小さい頃に出会った人から古代文字や魔法を教えて貰ってたんです。その派生で魔法の解読法は解除の仕方も教えてくれたんです」

「良い師を得たな。魔法の基礎的な知識なら兎も角、古代文字や解読法、解除の仕方も教えてくれたのならかなりの識者だ。少なくとも、俺は出来ない」

「えっ、ハクアさんは古文書や魔導書を読むことが出来ないんですか?」

「ああ……て、どうかしてそんな顔を驚いた表情をしている」


目を丸くして非常に驚いた表情をするセッカは少し嬉しさを滲ませながら、


「ハクアさんにも出来ない事があったんですね」

「……まあな。俺は師と呼べる人間がいなかった。基本的にほとんど独学ばかりだったからな」

「そうでしたか。でも、独学で魔法が使えるのは凄いですよ」

「そうか?俺の身の回りにはそういった連中が多かったから凄さが分からないな」

「ハクアさんの周りが変だっただけです!……あ、ここです」


セッカが立ち止まったところでハクアも足を止め、五階建ての建物を見上げる。

洗練さの欠片もなく、ところどころに汚れが付着している。全体的に黒ずんでおり、お世辞にもお年頃の少女がいくような店ではない。

それでもセッカは鼻歌を歌いながら店に入っていき、ハクアもそれに続く。


(……ほう、中はそれなりに良いな)

中はアンティーク調の雑貨や透明度の高いガラス細工がところ狭しと並んでいる。ハクアは細かい装飾が施されたランプを手に取りつぶさに観察するような目付きで見る。

(品質も良い。極めて高い技術を持つ職人が一つひとつ、手作りしているのだろう)

ランプを元の棚に戻して辺りを見回してセッカを見つける。セッカは一つの小さな髪飾りを眺めていた。

「どうかしたのか?」

「あ、いえ……この髪飾り、凄く綺麗だなって」

「ふーん……確かに、これは凄いな」


セッカが見つめていた髪飾りをハクアも見て、素直に褒める。


髪飾りは雪の結晶が象られている。細部にまで緻密に作られ、水色の光沢を持った六角形の雪の結晶はハクアからしても見事だと思えてしまう。


(それに、この髪飾りのこの構築……あいつの手製か?)


ハクアは製作者の事を思っていると服が引っ張られる。


「これ、買ってきて良いですか?」

「構わないよ。それと、できたら製作者を教えて貰えるか店員に聞いてくれないか?」

「……?分かりました」


セッカは棚から髪飾りを手に取り、受付の方に向かって歩いてく。それをハクアは見送りながら先程の髪飾りの構築を思い出す。


(あれは普通の髪飾りではなく、【式】が刻まれていた。着けた人物に対して何からしらの加護を与える代物だと言うのは分かったが……詳しくは分からなかった。あそこまで綺麗に隠蔽された物を作れるのはあいつ以外にいない)


ハクアには髪飾りの製作者が大体予想が出来ていた。


かつて、ハクアもその製作者が作った魔道具で命を救われた経験があるからだ。


「やはり君だったか」


背後に突然現れた気配にハクアは驚くことなく振り返る。ハクアの背後に青年が立っていた。


(……相変わらずだな)


ハクアは青年の姿を見て呆れたように息を吐く。


青年を一言で表すなら汚かった。着崩れし煤や埃で薄汚れた作業着を着ており、その手には使い込まれて傷がついた作業用の道具を持っていた。鈍色の髪はボサボサに伸び前髪は目にかかっている。日に当たらず白い肌は煤まみれで汚れている。


キレイ好きなハクアは「風呂に入れ」と言いたくなったが諦めた。青年に言ったところで意味がないからだ。


代わりに、慣れ親しんだ声音で話しかける。


「相変わらずの【空間】の魔法の精度だな。ほぼぴったりだな、コロモ」

「造作でもない。この程度ならお前の【強化】の方が遥かに難しい。……お前の魔法は変態の領域だぞ?」

「……それ、ブーメランでは?」


ハクアが旧友と親しく話していると、買い物を終えたセッカが戻ってくる。セッカはハクアと親しげに話す青年に声をかける。


「あの……どちら様ですか?」

「……コロモ・オニヅクリ。オニヅクリ商会の会長だ。……まあ、殆んどの仕事を副会長に押しつけ、殆んど工房に引きこもっているが」

「あ、そうでしたか!初めまして、セッカです!」


セッカがコロモに向けて頭を下げる。コロモは少し困った表情をするが、すぐに無表情に戻る。


コロモは飾られている商品を手に取り、前髪のかかった目を細める。


「……ボツだ」

「……え?」

「これの作り手は即刻クビにする」

「えっ!?とても良い作品ですよ!?」


コロモが手に取った商品はガラス製のランプだ。形の均衡が取れており、中々の技術を保有していることが素人目のハクアでも分かる。


しかし、コロモは否と呟き、首を横に振った。


「硝子が曇っている。それに気付かない時点で即刻クビだ」

「そ、そんな僅かな事で……」

「職人は己の手で生み出した物に狂いがあってはならない。見習いなら兎も角、正規の職人ならば尚更だ。それをした時点で許しがた……ごふっ!?」

「えっ!?」


突然、セッカの目の前でコロモがくの字に身体を曲げる。ハクアがコロモの腹に拳を叩き込んだからだ。


「は、ハクアさん!?いきなり何を」

「こいつの昔からの癖だ。まあ、今より昔の方がより酷かったが、処置の仕方は変わらない」

「えっと……どう言うことですか?」

「コロモは昔からストイックなまでの職人気質だってこと。行きすぎた程にな」


「ごほっごほっ……!」

咳き込むコロモは腹を擦りながらハクアの方に怒り混じりの視線を向ける。

「いきなりは酷い」

「誰もがお前の技量に着いていける訳じゃないんだ、ある程度の妥協はしろ。……まあ、減給くらいはしとけ」


「……確かにそうだ。副会長と話してくる」


そう言ってコロモは指で印を作ると虚空に消える。


当たり前のように使われる魔法にハクアは目が点になるほどに驚く。


「あの……ハクアさんは知り合いなんですか?」

「まあ、知り合いだ。友人でもある。……少し外で話そうか」


ハクアはセッカを連れて店の外に出る。セッカはハクアに穏やかな視線を向けながら問いかける。


「それで、話はなんですか?」

「ちょっとした昔話だよ。……俺とあいつが友人だって言ったが、正確には違う。あいつとは幼なじみなんだよ」

「幼なじみ……ですか?」

「ああ」


ハクアは朧気にしか思い出すことが出来ない情景に思いを馳せながら、呟く。


「住んでいた村が近かったんだ。あいつは木工職人兼硝子職人の息子、俺は猟師の息子で知り合う事も殆んどなかったが、たまたま森で知り合い、何かと気があった」


所謂、デコボココンビって奴だとハクアははにかむように笑う。セッカは少し険しい表情で、

「でも、私から見たら幼なじみというより……戦友と言った方が正しいように見えました」

「まあ、そうだな。……俺とあいつは『極東戦役』に巻き込まれてな。両親は死んで、生きるために傭兵になったからな。あいつも同じだった」

「……すみません、嫌な事を思い出させしまって」

「いや、構わんさ。……もう、両親の顔すら思い出せないからな」

「……え?」


悲しそうな表情をしていたセッカの顔が凍りつく。ハクアは何事もないように話していく。


「俺が巻き込まれたのは四歳の頃だ。そこから生きるために傭兵として働き始めた。その後の経験があまりにも過密で、もう両親の顔が分からない」

「そう……でしたか」

「あー……ま、気にすることはない。自分の中で折り合いはつけてるからな」


ハクアはセッカの頭を優しく撫でる。セッカは少し驚くが頬を赤く染め、嬉しそうに笑い、尻尾をブンブンと振る。


(やっぱし、セッカは曇った表情は似合わない)


セッカの機嫌が元に戻り、表情が明るくなると、ハクアはセッカに尋ねる。


「それで、他にも行きたい場所はあるのか?」

「あ、はい!それでは行きましょう!」


セッカに引っ張られ、ハクアも歩いていく。


ハクアの顔に、非常に珍しく嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。


(たまには、こういった事も悪くない)

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