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セッカの誘い

放課後、ハクアたち『ダアト』の生徒たちが教室に集まって一つの地図を見ていた。


「……どこの地図だ?」

「これはヴィシュテンの森だよ」


ハクアの問いにエミールが答える。エミールはこのクラスのオリエンテーションのクラス長になっている。


「ヴィシュテンの森はこの街の近くにある森でレクリエーションに使われるそうだよ」

「へぇ……」


ハクアは地図を覗き込む。


地図には森と川、そして道が描かれてる。広い森の中央部に繋がる道に中央部の近くを幅の広い流れる川、それらを覆う森があることが見るだけで分かった。


エミールは黒板に白いチョークで文字を書き込んでいく。


「さて、レクリエーションは主にキャンプだけど……実際のところは戦争時の体験を行う事が目的だ」

「戦争時?そんなの、殆んどの人が体験しているのでは?」


ざわめきの中からエミールに質問が投げられる。


(……んな訳ないだろ)


ハクアは内心質問にイラついているとエミールが答える。


「確かに、僕たちは非戦闘地域から『極東大戦』を経験している。けど、実際に戦闘を体験した者は殆んどいない筈だし、従軍は更に少ない。戦場で何があったのか、それを知らない人が多いんだ」

「……だから、その経験をしてみると言うことか?」

「そうだよ。納得してくれたかな?」

「……分かった」


すごすごと引き下がる気配をハクアは感じながら、中央部から抜ける。それに気付いたセッカもハクアに続く。


「ハクアさん、何で抜け出してるんですか?」

「いや、中央部は人が密集していて暑苦しいからな」

「確かにそうですけど……」

「それに、ルールの方を知っておけばやるべき事は何となく分かるしな」

「あら、それなら貴方が指揮をとって下さいな」

「うおっ!?」


背後から話しかけてきたペインに驚き、ハクアは声をあげる。


(ちっ……やらかした)


突然の事に周りからの視線を向けられ、ハクアは諦めたようにため息をつくと壇上に上がる。


エミールの柔らかい雰囲気からハクアの鋭い雰囲気に変わり、クラスメイトは顔を強ばらせる。


ハクアは周りの目が向いている事を確認すると、エミールに顔を向ける。


「エミール、ルールの方は知ってるか?」

「……まあ、概要は」

「なら、やることは簡単だ。……攻撃してきたらとりあえず倒せ」


「「「……へ?」」」


ハクアのあまりにも強烈な爆弾にクラスメイト全員が面食らう。ハクアは気にせずに懐から紙を取り出す。この話し合いが始まる前に分けられたオリエンテーションのルール用紙である。


「今回のオリエンテーションのルールは三つしかない。

一つ、オリエンテーション中の食事は自給自足せよ。

二つ、広場から半径二十メートルは安全圏とし如何なる攻撃も禁じる。

三つ、上記二つを守らない者には厳罰が下る。

これだけのルールがあるなら、他のクラスだったら略奪を行うクラスが出てくる事は間違いない」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


ハクアの確信めいた言葉にエミールが慌てて待ったをかける。


「それと倒せと何が関係あるんだい?略奪なら他のクラスを行う可能性もある筈だ」

「単純だ。他のクラスと違い、このクラスは明確に統一した才能がない。異端、奇才、非常識な才能の集まり。それを他のクラスの連中が見逃す訳がない」

「……確かに、それは同意できます」


ハクアの意見にミーティアが同意し壇上に上がる。手狭になった壇からエミールが降りる。


「人は異物を排除しようとする。なら、ここが狙われるのは普通」

「その通りだ。とりあえず、三つの班を決めておく必要がある」


ハクアは黒板に三つの円を描く。


「まず、キャンプ防衛班。これは主に貴族出身や兵士、騎士志望が行え。貴族なら少しは攻撃性の魔法を使えるだろうし、騎士志望たちは火の番や夜の見張り何かは訓練になる。

次に、食糧調達班。これは主に獣人が行え。嗅覚や視覚、聴覚が優れている獣人なら食糧調達は苦ではない筈だ。

最後に、資材調達組。これに該当しない連中がここに分類するな。資材の調達やキャンプの設営が主だ。

この三つを守っていけば大体なんとかなる。少なくとも、上から魔法の爆撃がこなければな」

「それじゃあ、その班の統率はどうするんだい?」

「そこら辺はエミールに任せる。一応、クラス長だからな」


ハクアはエミールに丸投げして壇から降りる。それぞれが話し合いを始めた辺りでハクアは机に座る。


(さて……これでおおよそ、攻められてもある程度は持つだらう。ヒエンに調べさせておいてよかった)


ハクアはヒエンに頼み他のクラスの情報を探らせていた。


他クラスの動向は暗殺を成功させるために絶対に必要となるため入手する必要があるからだ。


まさか、使用人の中に内通者がいると他クラスは思ってもいないだろう。ハクアは含むように笑う。


(汚いかもしれないが、依頼のためにも必要になってくる)


打てる手は確実に打ち、逃げ道を確実に塞いでいく。たったそれだけの話である。盤外戦術はその基本中の基本である。


(……だが、気になることもある)


ハクアは数日前に襲撃してきたホムンクルスを思い出す。あのホムンクルスをヒエンに尋問してもらっていたが、目的は分からなかったのだ。


(ホムンクルスどもの目的が分からない以上、警戒に越した事はない。……スペアプラン、考えておくか)


ハクアが暗殺計画のスペアプランを考えているとセッカが話しかける。


「ハクアさん」

「どうかしたか、セッカ」


ハクアの隣に寄り添うようにセッカは座る。セッカは少し嬉しそうな表情で、

「楽しみですね」

と呟く。

ハクアはそれに少し考えたあと、

「まあ、少しはな」


と答える。セッカは尾をブンブンと尾を振りながらハクアの方を向く。

「ハクアさん、明日は空いてますか?」

「明日か?特に用事はないな。どうかしたか?」


「その……少し、買い物を手伝ってくれませんか?できたら、二人で」


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