生徒会の刺客
「彼女?彼女はミラサ・フリューゲンだにゃ~」
深夜、食堂で翌日の下準備をしていたヒエンに漆黒の外套を着たハクアが尋ねた。
ハクアが今日の昼に見た事を聞いてみるとヒエンはあっさりと答えてくらた。
「君が暗殺した準男爵の長女で性格は真面目でそつがない。けど、かなりの男嫌いで男に対して憎悪そのものを抱いている、と言ったところかにゃ」
「俺が暗殺したからか?」
「まあそうだにゃ。彼女は両親の事を愛していたから両親を殺した人間を見つけ、殺す事を生き甲斐にしている節があるよ」
ククッ!と面白そうに笑うヒエンに少し呆れるが文句は言わない。言ったところで何も変わらない。
(恨まれて当然の事をした訳だしな)
ハクアは少しため息をつき、
「まあ、そこら辺はどうだって良い。……実力は?」
と尋ねる。
ヒエンは少し考えた後、
「うーん……まあ、普通の生徒よりは強いかなレベルだにゃ~。少なくとも、極東戦役を生き抜いた人たちと比べれば遥かに弱いにゃ」
と答えながら皿を洗う。納得のいく答えをハクアは懐から金貨の入った小袋を取り出して机に置く。
「そうか。これが代金だ」
ハクアはヒエンに代金を渡すと口元をマスクで隠し立ち去る。
(復讐者か……。まあ、俺は結構恨まれているからな)
両親、親友、恋人、同僚……様々な人間を殺してきたハクアは何度も復讐者に成るのを見てきた。中には、復讐のために自ら暗く淀んだ裏の世界に入る者もいた。
そんな復讐心だけが生きる糧になっている者はハクアにとっては当たり前であり、そこに善悪の判断を入れる事はない。
本格的に敵対するのなら斬るか、とハクアはそんな事を思いながら寮に向かって歩いてく。
(……来たか)
ハクアは反転しながら左手を伸ばす。飛来するを掴むと握りへし折る。
(コロッセオと同じくらい広まっている噂。この学院における治安維持のための集団)
右手で柄を握り引き抜き様に水平に振るう。金属のぶつかり合う音が何もない空間から聞こえる。
ハクアの目の前の空間が揺らめくと目の前に制服を着た花葉色のキノコのような髪をした青年が現れる。
青年はハクアと鍔迫り合い細目を少し見開き驚いたような声音で告げる。
「まさか、僕の気配に気づいていたのかい?これでも、隠密には結構自信があったけどね」
「……そうか」
ハクアは右腕を【強化】し青年を力業で打ち払う。ハクアが接近しようと身を屈めると同時に矢が飛来する。
咄嗟にハクアは後ろに跳んで矢を躱し、接近した青年の双剣の隙のない連撃を防ぐ。
ハクアは距離を取り刀を鞘に収め抜刀の構えを取りながら好戦的に笑い、呟く。
「……強いな」
「当たり前だよ。僕らは生徒会、この学院を守るための集団だよ」
ハクアの呟きに誇りを持って答える青年は双剣を順手から逆手に持ち替えて構える。
(生徒会。この学院における生徒の代表であり統率者たち。全員が高い戦闘能力を保有し、特に今代の生徒会は歴代でも随一の実力者たち……だったか)
生徒会の持ちうる情報を整理しながら足に力を込め、鋭い目付きで青年を睨む。青年もまた目付きを鋭くする。
「生徒会副会長オグニ・グロッサス、参る」
名乗りを上げたオグニと精神を研ぎ澄ましたハクアは同時に地面を蹴る。
一足で最高速に達したハクアが通り過ぎ様に抜刀し刀を振るう。
「ぐっ……!?いきなりかなりの速さだね……!」
オグニは二振りのバスターソードと呼ぶには短く、ナイフと呼ぶには長い剣でハクアの初撃を防ぐ。
ハクアは少し驚き目を見開くがすぐに速度を保ったまま左足を軸に百八十度反転し右足で地面を蹴る。
オグニは間合いに入ったハクアの動きに合わせて振り下ろす。しかし、剣はハクアの額から紙一重のところで空を切る。
「なっ!?」
驚くオグニの腹に速度の乗ったハクアの蹴りが突き刺さる。強烈な衝撃で吹き飛ぶオグニにハクアが高速で接近する。
オグニが立ち上がると同時にハクアの刀がオグニの胸に十字の傷をつける。
「ごふっ……!?」
オグニの口から血が吐かれる。ハクアはそれを見ながら小さな声で、
「……初撃を防げるのなら、中々に強いぞ」
と呟く。ハクアは後ろに跳んでオグニの剣の間合いから外れる。それと同時に矢が飛来する。
眉間に触れるギリギリのところでハクアは身体を右に動いて矢を躱す。それと同時に接近したオグニが順手に持った剣で突きを放つ。
(ほう……)
突き出された刺突をハクアは足運びで身体を少し動かして避けながら刀を下から上に、垂直に振るう。
ギリギリのところでオグニは地面を転がり避け、立ち上がりながら地面を蹴り、身を屈めながら右手に持った剣を順手から逆手に変える。
オグニが通り抜け様にハクアの脇腹を薄く斬る。焼けるような痛みを感じたハクアは右脇腹に出来た傷を確認する。しかし、止血すること無くハクアはオグニに刀を向ける。
(傷をつけたか。……一般的な学生なら問題ないだろうが、俺には通じない)
剣の動きを連結させ一分の隙の無い動きで振るわれるオグニの双剣をハクアは刀一本で防いでく。
鋭くしなやかな剣線にハクアは少し感心し、同時に剣術の特性を見抜く。
(道場剣術だな)
ハクアは刀を右から左に水平に振るい、オグニの剣を弾き、連撃を止める。それと同時に刀を鞘に収め、抜刀の構えをとる。
道場剣術、即ち実践向きではないと言うことである。
戦場で生き抜くための剣術ではなく、精神統一や自己防衛のための剣術であり攻撃性に優れない反面、カウンターや防御、回避に高い技術を持っている。
オグニの実力はかなり高いとハクアは感じている。事実、オグニの胸の傷はそこまで深くない。当たる直前、僅かに後ろに跳んでいたからだ。
(防御と回避に長けた剣術か……なら、最も単純な手法で突破するだけだ)
ハクアは真剣な視線を送りながら僅かに口角が上がる。
そして、オグニが再び地面を蹴ると同時にハクアも地面を蹴る。
「『韋駄天』」
その刹那。
恐ろしく速い速度……ハクアの身体が己の力で壊れる程の速度でオグニの身体を十の刀傷が生まれる。
(防御も回避も出来ない程の速度で繰り広げられる連続攻撃……超速の連撃なら、簡単に突破できる)
「がっ……!?」
あまりにも唐突かつ不可解にオグニの頭は回らなかった。急速にオグニの身体から力が抜け、意識がなくなる。
オグニの意識が無くなり地面に倒れるのを身体を支えて防ぎ地面に下ろす。
(ちっ……反動は強いのがこれのネックだよな)
痛む脚の状況を確認するため、トントンと爪先で軽く地面を小突く。
強力な力で骨が砕け、肉が千切れた脚は一秒とかからずに修復し終えていた。脚の痛みはその残り香に過ぎないのだ。
(さて、後は弓使いだが……逃げたか)
周りにある気配ハクアは弓使いの気配が既に遠い位置にあることを確認すると刀を鞘に収めて疾走する。
相手が逃げた以上待つ理由がないからだ。
(逃げたのなら増援が来ても可笑しくない。さっさと寮にでも戻るのが得策か)
ハクアは寮に着くと開けられている自室の窓目掛けて跳躍し中に入る。ミーティアが寝ているのを確認すると物音をたてずにベッドに上がり、横になる。
(さて……さっさと寝るか。流石にこれ以上動いて警戒されるのはマズイ)




