ペア
退屈な入学式が終わり、ハクアたちは教室に向かう。『ダアト』の建物内は西側の古典的な芸術品が飾られていたと豪華な造りとなっている。
「す、凄いところですね」
「まあ、そうだな」
ハクアの隣を歩くセッカは圧倒されている。ハクアは一切臆する事なく僅かに後ろの方を見る。
(……『ダアト』の連中は少しばかり特殊だと聞いていたが、なるほど、色々と特殊な連中ばかりが揃えられていたようだな)
獣人やエルフといった普通の人間ではない連中からエミールやペインと言った純粋な戦闘能力を保有した実力者、纏う雰囲気が特殊な人間まで様々な人間が『ダアト』に在籍している。
(所謂、異端や普通じゃない連中の集まり。と言ったところか?)
そんな事を考えているとペインが笑顔で話しかけてくる。
「貴方は五つのクラスの特徴が分かっているの?」
「……いや?特には」
「先輩たちに聞かなかったの?」
「……特には」
昨日の先輩たちの暴走ぶりを思いだし、ハクアは首を横に振る。ペインは少しため息を吐くと説明を始める。
「五つのクラスには特徴があるんですわ。
一つ目は『ケテル』。ここは平民が入る事が出来ませんわ。特権推薦で入学した者、又は他国の高い身分――公爵や王族が入る場所ですわ。まあ、私は打診を受けましたが拒否しましたけど。
二つ目は『ティアファレト』。ここは絵画や彫刻、音楽と言った芸術の創作に非常に熱心ですわ。この教室に在籍しているのは芸術方面の才能を持っている人ばかりですわ。
三つ目は『イェソド』。ここは学問や魔法に対する研究が熱心ですわ。この教室に在籍しているのは学問方面に高い才能を持っている人や魔導師を目指す人たちばかりですわ。
四つ目は『マルクト』。ここは剣術や槍術と言った武術に精通していて昨日から訓練をしていたそうですわ。この教室に在籍しているのは騎士や兵士を目指す人たちばかりですわ」
ペインは「そして」と言い繋げる。
「五つ目、『ダアト』は普通の才能ではない……常識では異物や異端と扱われる才能の集まりですわ」
「そうか。……ま、それがどうしたという話になると思うが」
「ええ、そうですわね」
ハクアの簡素な返答にペインは驚きながら後ろに下がる。ハクアの隣で話を聞いていたセッカは、
「ペインさん……確かこの国のお姫様ですよね?どこで知り合ったんですか?」
と少し不機嫌そうに問いを投げ掛けてくる。ハクアは少し言葉を選び、
「昨日、お前と分かれた間にたまたま知り合った」
と説明する。セッカは不機嫌そうな顔で、
「……分かりました」
と言って後ろの方に行ってしまう。
そうこうしているうちに教室につき、最前列の同級生がドアを開け、中に入る。ハクアもそれに続いて入っていく。
教室は木の板を幾つも合わせた床に黒板、教壇、二人で一つの机と椅子が横に三列、縦に五列並んでいる。また、後ろの方には個人の道具入れが敷き詰められている。
教室は非常に質素だが実用的な物が揃っていると思っているとパンパン!と手を叩く音が教室に響く。
ハクアがそちらを向くと赤銅色の髪に月白色のローブを着た、黒鳶色のとんがり帽子を被った若い女魔導師が立っていた。
「はい、それじゃあ席に着いてください。席はこの箱に入った紙に書かれてます」
女魔導師が教卓の上においた木の箱を持ち上げる。そこに敷き詰められたスクロールを次々に取っていく。
ハクアも流れに逆らわずに順番を待ち、順番が来たら箱の中に手を入れ羊皮紙のスクロールを手に取りスクロールを広げる。
(一列目の五番目の右側か。良い席を取れたな。……ん?これは……)
席の番号の下に書かれた文字を読み頭を手を当て呆れかえる。
ハクアの次にスクロールを手に取ったエミールが女魔導師に近づいて質問する。
「先生、これは……」
「後で説明しますので今は気にしないで構いません」
エミールの質問を無理矢理封じた女魔導師にハクアは怪訝な視線を送るがすぐに切る。指定された席に向かうと先客の少女がいた。
少女は牡丹色の髪をショートボブに切り揃え、左目を包帯が覆うように巻き付いている。腰には少し大きめのナイフが装備され年齢より三歳近く下に見える体型は程よく鍛えられている。顔立ちも悪くない。
少女はハクアに気がつくとハクアの方を向く。
「あ、あの!三年間よろしくお願いしましゅ!」
少女が挨拶の最後に舌を噛んで涙目で悶絶する。
「だ、大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい……」
涙目の少女に内心苦笑いしながらハクアは少女の隣の席に座る。
ハクアは少女の方を顔を向け、自己紹介をする。
「俺はハクア。お前は?」
「私はエイト・フューズです。エイトと読んでください」
エイトと名乗った少女がはにかんだ笑顔で頭を下げ、ハクアも合わせて頭を下げる。
「……フューズ?」
少女の名前に思い当たる節があるハクアは表情を変えず、気づかれないよう右手を刀の柄に置く。
対面しながら何も話さない時間が過ぎていくと再びパンパン!という手を叩く音が教壇の方から聞こえる。
そちらを向くと、女魔導師が教卓に手をついて立っていてた。
女魔導師は、一度全体を見渡すと黒板に大きめの文字を書いていく。
「私の名前はアカシャ・ヴェルヴァーン。適性魔法は『炎』。研究は極東戦役時の魔法軍略を研究しています。三年間、よろしくお願いします……ま、堅苦しい挨拶はこれくらいにしてこのスクロールについての説明をしますね」
アカシャは教卓に置いていたスクロールを手に取り広げ、ハクアたちに見せる。
「このスクロールは【契約】の一種で広げた人と対となるスクロールを持った人をペアとする魔道具です。今後、基本的な活動はペアを基準となります」
「先生、一ついいですか?」
エミールが手を上げ、アカシャの言葉を遮り、
「このペアは作為的に仕組まれた物ですか?それともランダムですか?」
と質問する。その言葉に多くの人間が納得するように頭を縦に振る。
(……まあ、それは仕方ないか。流石に使える人間と使えない人間かは知りたいところだろうしな)
ハクアがそう思っているとアカシャは少し言葉を考え、口を開く。
「……基本的にランダムです」
「基本的に?それはどういう事ですか?」
アカシャの答えにエミールの隣に座るペインが鋭い眼差しを向けながら質問する。エミールとペインがペアらしい。
(まあ、どっちも戦闘狂だし良いペアだろうな)
アカシャはペインの眼差しに少したじろぐがすぐに答える。
「あまりにも高すぎる……学生レベルを超えた高い戦闘能力や技術を持っている人はこちら側がペアを選定しました」
アカシャの視線に気がついたハクアは少しばかり欠伸しながら思考する。
(どうやら、学院長を討ち取った事が評価されているようだな。……まあ、敵意は無いようだしそこまで気にしないが)
「質問はありませんね?それでは今から自由に学院内の設備を確認してきて下さい。確認し終えたら寮に戻っても構いません」
アカシャは頭を掻いて言い、そのまま教室を立ち去る。それを確認したハクアは道具の入ったバックを手に持つ。
それを見たエイトが少し考えてハクアに提案する。
「あ、あの!一緒に校内を回りませんか?」
エイトの提案にハクアは神妙な顔で考える。
(……こいつが本当にフューズなら何時爆発するか分からない爆弾みたいなものだ、一人にさせるのは危険だし、なるべくストレスを与えるのもよくないか)
「……まあ、構わないか」
「あ、ハクアさん。私たちも良いですか?」
「私も一緒に行きたい」
「あはは……まあ、僕も一緒に行かせて貰うけど良いかな?」
「私も同行させて貰いますわ。よろしくて?」
「……良いだろ。ていうか、お前らは俺に許可をとる必要あるか?」
考えている間にやってきたセッカ、ミーティア、エミール、ペインたちに少し呆れながらハクアたちは教室を出ていく。
全員の足取りは軽い。新しい場所に興味があるんだろうなとハクアは思うのだった。




