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監督生の闇

舞を踊るようにハクアは刀を振るう。振るわれる刀に迷いはない。


(調子は……問題ないな)


刀を鞘に収め、竹で作った水筒を手に持ち飲む。

ハクアが少し休憩をしているとかすかな気配がすると共にドアが開かれる。


「おや、誰かと思えばハクアじゃん。こんな朝早くからどうしたん?」

「……ディーベ先輩ですか」


戦斧を担いだ制服姿のディーベが扉の奥から出てくる。その顔は少し暗い。


ディーベは座っているハクアを見て暗さを振り払いにんまりと笑った。


「そや、少し手合わせしてくれへん?一人での練習には限界があるやろ?」

「……わかりました。では――」


ハクアは了承し、刀に手を掛ける。それと瞬きするよりも速く肉薄する。


「なっ!?」


ディーベが驚くと同時にハクアは刀を抜刀すると同時に水平に振り抜く。


ディーベは金属製の柄で刀を受け、数メートル弾き飛ばされる。


止まったところでディーベはニヤリと笑い、地面を蹴って跳躍する。


ディーベが勢いよく振り下ろす戦斧をハクアは刀の切っ先で受け、力の動きを逸らして地面に向ける。


地面に戦斧が叩きつけられると同時に鞘による刺突がディーベの顎を捉える。


「がっ!?」


顎を叩かれて軽く怯んだ隙にハクアは刀を順手から逆手に持ち変えて振るう。刀が触れる直前、ディーベは地面を蹴り後ろに跳ぶ。


服を掠め、服が薄く切られる。


「……へぇ、いきなりやな。もしかして、『極東戦役』の生き残りか?」

「元は東側の傭兵だよ。今はフリーの傭兵」

「ほー。何や、やっぱしそうやったか。そりゃ、獣人たちと仲よーしている訳やな」


ケラケラとディーベは笑いながら頭の上で戦斧を回転させる。それと見たハクアは刀を鞘に収め、抜刀の構えをとる。


「……獣人たちには昔世話になったからな」

「ほーん。ウチは東側の傭兵たちに被害を被られた側の人間やし……ちょいと、八つ当たりに付き合って貰おうか!!」


ディーベは回転させる戦斧の柄を掴み水平に振るう。それに合わせハクアは刀を下から上へ垂直に抜刀する。


戦斧と刀がぶつかり合い、甲高い金属音が響き摩擦で火花が散る。重量のある攻撃にハクアは吹き飛ばされ、地面を削りながら衝撃に耐える。


そこにすかさず跳躍したディーベが戦斧を振り下ろす。咄嗟にハクア刀で受け止め、後ろに跳ぶ。


「私が住んでた場所はさ、国境の近くだったんや。だから戦役に巻き込まれた。その結果、どうなったと思う?」


ディーベは言葉を交えながら戦斧を振り下ろす。

ハクアは戦斧の側面を叩いて軌道を逸らし、衝撃を利用して一回転し勢いをつけて水平に振り抜く。

ディーベは戦斧の持ち手をずらし、柄で刀を防ぎながら距離をとり下段に構える。


「消滅だよ。地殻を貫くほどの東側の戦略級魔法『(うつろ)』によって」

「…………」


ハクアは己の愚かしさを嘲笑するディーベの答えに反応を示さない。しかし、その眉間には皺が寄っていた。


(……そんなの、そっちも同じではないか?)


多くの人間が殺された。

多くの街が破壊し尽くされた。

多くの場所が消し飛ばされた。


それは西側も東側もそう大差ないとハクアは経験から嫌と言うほど知っている。ハクアが経験してきた戦場はそういった場所なのだ。


内心呆れたハクアは言葉を選び、振り下ろされる戦斧を受け止めながら告げる。


「そんなの、そっちも同じだろ?」

「そんな事はない。ウチらは人道的な戦争をしておったんや。ウチらの国がそんな事をする訳ないやろ」


「…………」


ハクアは力業でディーベの戦斧が弾かれ吹き飛ばす。衝撃でディーベは大きく弾かれ、その隙にハクアは刀を鞘に収め抜刀の構えをとる。


その目には剣呑な感情が籠められていた。


「『韋駄天』」

「ッ!?」


ディーベの視界からハクアが消える。


「がっ!?」


僅かなタイムラグの後、ディーベの身体に作られた十本の刀傷から血が溢れる。ボタボタと血が溢れるが、すぐに制服が傷を癒してく。

ハクアは振り抜いた刀に振るう。刀の刃に付着した血と脂を払い鞘に収める。


ディーベは痛む傷を押さえながらハクアを睨み付け、

「一体何をした……!?」

「【強化】と【治癒】の応用だ」

ディーベの刀傷が完全に癒えきったところでハクアはディーベに告げる。


「……お前はどうにも、西側らしい考え方をしているようだな」

「何を言って……!」

「国が出した情報を鵜呑みにしてそれを疑っていないと言うことだよ。それがどれだけ危険な事か理解せずにな」


ハクアは裏庭の片隅に置かれた椅子に座り話し始める。


「西側も東側も関係ない。東も西も同罪であると言うことだよ」

「何を言ってるん?そんなん、ありえへんやろ?だって、宣戦布告したんは東側やぞ?」

「その原因が西側にあったとしたら?……まあ、そんなの教える訳がないか。それを教えるということは今の偽りの平和に大きな傷をつける事となるからな」


嘲るように嗤うハクアにディーベは剣呑な眼差しでずかずかと近づいて襟を掴み上げて怒声を飛ばす。


「そんなん、ありえへん!」

「あり得るよ。何せ、俺の知り合いには凄腕の情報屋がいるからな。万に一つとして情報を間違える事はない」


ディーベが掴んだ手をハクアは裏拳で叩く。ディーベは声を出さず歯を食い縛るが僅かに緩んだ隙にハクアはディーベから離れる。


ディーベはハクアが離れるのをショックのあまり茫然と見ていた。


(戦役の真実を知っているのは各国の上層部と傭兵の一部だけだろうよ)


驚くのは無理もないとハクアは思う。しかし、否定するつもりは一切ない。


ハクアは陽射しが差し込み始めるのを見て道具を持って室内に戻る。ダイニングでは数人の上級生や同級生が朝のコーヒーを飲んでいた。


その脇を通り、階段を上がろうとする。


「お、ハクアか。おはよう」

「おはよう、グレイン」


ハクアはコーヒー片手に教科書を読んでいるグレインに話しかけられ、部屋に戻るのを止めてグレインの対面に座る。


「意外と早起きなんだな」

「まあな。家はそこそこ大きな貴族だけど義兄妹が多くて、下から数えた方が早い俺にメイドたちは構ってる暇がないんだよ」

「なるほどな」


好色なのは血筋か、とハクアが思ってると目の前のテーブルにコーヒーが入ったカップが置かれる。


持ってきたのはどこか凛々しい顔立ちをしたメイドだった。


「コーヒーをお持ちしました」

「ああ、ありがと」


ハクアが感謝を伝えるとメイドは一礼して去っていく。ハクアは置かれたカップを手に持ち、一口啜る。苦いがどこか癖になる味が口内に広がる。


(それにしても、先程のメイド……中々に強いな)


歩き方、佇まい、気配の消し方。その全てがとても――異常なまでに自然である事に気がついたハクアは内心警戒する。


それに気づかないグレインはコーヒー片手に飲みながら、


「あのメイドさんが気になるか?いい尻をしているし、雌豹みたいなしなかやで美しいボディライン。慎ましい胸。流麗に整った顔は俺好みだよ。ま、流石に口説かないけどな。後が怖いし」

「……あのメイドは誰だ?」

「何でも俺らと同じ新入生の従者らしいぜ?昨日のあれには参加してなかったから新入生ではないけどな」


あー女と一発ヤりてえ!!と言うグレインに呆れながらハクアはコーヒーを啜る。


先程よりも、ほろ苦い味が舌にこびりつくのだった。



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