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パーティーという名のカオス

「えーそれでは、新入生の入寮を祝して、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」


夜、広間に集まった『コクマー寮』の全員がジュースの入ったグラスを掲げる。葡萄のジュースをハクアは飲み干し、食事に手をつけ始める。


『コクマー寮』の食事は基本的に広間のテーブルに並べられそれを自由に手に取る、というものだ。そのため、場所は自由となる。


ハクアは空いていたソファに座ると盛り付けたサンドイッチを頬張る。


(へぇ、中々美味しい)


野菜は瑞々しく、生ハムとマッチしている。卵を使ったサンドイッチはシンプルな美味しさに溢れており、他の料理に手を出している人たちも美味しそうに食べている。


ハクアは手に持っているサンドイッチを見て少し過去を思い出す。


(かの大戦時にはこんな食事を取れるとは予想していなかった)


基本はパサパサした携帯食糧と固いパンで美味しくはなかった。最低限の栄養価さえ取れてればそれで良い、という考えが露骨に出ていた。


それに比べ、ここの料理は温かみに溢れている。そのため、ハクアの心は比較的リラックスしている。


骨付き肉を「骨無しの方が肉の面積多いよな」と思いながら隣の大柄な男が座る。


「……誰だ?」

「俺か?俺はグレイン・オックス。一年だ。お前は?」

「ハクアだ」

「へぇ……東の人間か」


僅かに目を細めるグレインにハクアは僅かに身構える。しかし、すぐに解かれグレインはハクアの首に腕を絡めてくる。


「ま、今はそんな事どうだって良い。今は楽しもうぜ!」

「……楽しんでいる。それと、耳元で五月蝿い」

「おお、わりぃわりぃ」


組んだ腕を退かすとグレインは気色の悪い笑みを浮かべて獣人やエルフに目線を送る。


(……こいつは好色家か)


色を好むタイプはハクアはあまり好まない。そして、グレインはそういったタイプの人間だ。


ニヤニヤとした気色の悪い笑顔をするグレインはハクアに小声で話しかける。


「そういえば、ここの連中って基本的に美人ばかりだよな。獣人やエルフは特にそうだよな」

「……まあ、確かに」

「襲わねーか?俺の部屋、男だしちょいと女を捕まえてこれば見つからねーって。それに、獣人やエルフなら誰も文句は言わねぇよ」


「……殺されたいのか?」


他の人間に気づかれないようグレインに向けてのみ全力の殺気を叩きつける。おぞましく煮えたぎるそれに気がついたグレインの額から脂汗が垂れる。


「俺はそういった事は好まない。やるんなら色街にでも行ってろ」

「チッ……連れねぇな」

「それと、ここの寮のルールを犯すのは愚の骨頂だぞ?」


ハクアが目線を向けると剣呑な雰囲気を纏う二人の監督生が見ていた。「行ったら殺す」と視線から訴えている。


それに気づいたグレインは顔を青くし持っていたグラスを震わせる。


ハクアは静かな声音で続ける。


「少なくとも、二人はここの監督生を命じられる程に強い。一年のお前が勝てる相手だと思うか?」

「お、おう……。それに気づいていたから言わかなかったのか?」

「馬鹿を言うな。俺たちは山賊か?盗賊か?そんな下衆に落ちるつもりはない。それだけだ」

「おう……」


少し残念そうにしたグレインはそそくさと立ち去っていく。ハクアがグレインを睨み付けているとセッカが隣に座る。


「あの、さっきの話は……」

「聞こえていたのか?」

「はい。あ、私だけですよ?」


顔を真っ赤にしてハクアの身体に身体を傾けるセッカは少し色っぽい。


「あの……ハクアさんは私の事をどう思ってるんですか?」

「別に、どうとも。強いて言うならクラスメイトかな」

「うぅ……」


少し残念そうな顔をするセッカをハクアは怪訝そうに見ている。それをグレインは呆れ交じりの嫉妬を孕んだ視線を向けてくるが、ハクアは無視する。


数分が経ち、互いに顔を見合えないため、とりあえず話しかけようとハクアが口を開いた時、建物の反対側から大声が聞こえてくる。


すると、


「おんどりゃー!!」


突然、奇声と共に丸椅子がハクア目掛けて飛んでくる。


「ッ!?」

「ひゃあ!?」


咄嗟にセッカの手を掴み胸に寄せると手刀で椅子を突く。手は椅子を貫通し、ハクアは左腕から椅子を外す。


何事か、とハクアは呟きながら飛んできた方を見る。


そこにあったのは、


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ !!」

「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」

「「「「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」」」」


戦場に見劣りしない地獄(カオス)だった。


顔を真っ赤にして一升瓶を片手に転げ回り笑い狂うディーベに机の上に立って大興奮するベルゼ。この二人に悪のりしまくる上級生たち。広間の片方は暴れまわったのかかなり散乱している。


ほんの数分前とは大違いのイカれっぷりにハクアは唖然としているとグレインが大慌てでハクアに話しかけてくる。


「せ、先輩たちが何か酒を飲んだらあんな感じに……」

「どんな酒……て、ウォッカ!?馬鹿じゃねぇの!?」


転がってきた酒瓶を手に取り匂いから酒を判別するとハクアは声を荒げる。そして、アホらしくなりため息を洩らす。


(この国では十七歳から飲酒を許可されてたからな、その結果がこの惨劇か)


何人かの同級生たちが上級生たちに止めに向かっていくが酔っても実力はある上級生たちに凪払われていく。


「あひゃひゃ!まだ足りなーい!!」

「ウェエエエエエエエエエエエエイ!!もっと楽しもうぜー!」


酒瓶片手に大立ち回りをする監督生たちの暴走には特に酷く、調度品がどんどん壊されていく。流石に見ていられなくなった同級生たちは顔を合わせる。


(流石に止めに入らないとな)


抱いていたセッカから手を離し、拳を握る。


すると、


「……きゅう」

「えっ!?セッカ!?」


全身を真っ赤にしたセッカは目をぐるぐるとさせながら床に倒れかける。咄嗟にハクアが手を握るとプシュー!という音が聞こえたかと思うとセッカの意識が落ちる。


何が起きたのか分からないハクアは周りの生暖かい目を理解できずに、ハクアをソファに眠らせる。


「ハクア……俺が言えることはないが鈍感だろ?」

「……?相手の感情を読むのは得意だぞ?」

「絶対嘘だろ」

「ハクアさーん!」


グレインの呆れた顔に疑問符を浮かべていると背後からミーティアに抱きつかれる。


胸が背中に当たる感触がするが、それ以上にキスができそうな程に近い少女の口から匂う酒気に青筋を立てる。


(誰だよ、エルフに酒を飲ませたやつ……!)


懐いた猫が飼い主に頬を刷り寄せてくるような動きでハクアの頬と自分の頬を刷り寄せてくるミーティアの顔をハクアは手で押し退ける。


エルフの酒の弱さは以上で、男も女も共通して酔い癖が悪い。今回のように絡んでくることもあれば、怒りをぶつけてきたり泣いたりとする。また、欲望を抑え気味なのか酒を飲むと常人以上に大暴れしてしまう。

捕虜として捕えたエルフたちの世話もしていたハクアは酒を飲んだエルフたちがとんでもない状況になる事を知っていたため内心怒りを呟く。


ハクアから手を離したミーティアは頬を膨らませる。


「何でよ意地悪ー……」

「意地悪じゃなくて、そろそろ寝たらどうだ。明日は入学式だぞ?」

「あー、そっかー」


そう言ってミーティアは素直にソファに横になりすぐに寝息をたて始める。


表情は薄いけど人形染みた美しさを持つミーティアの絡み酒は色々と見ていて誤解を招きやすい。そのため、ハクアは眠るよう促したのだ。


頭痛がしてくる頭を手で押さえるハクアをグレインやクローリーは肩に手を置く。


「まあ、その……なんだ、さっきはごめん」

「ミーティアがあそこまで君に気を許すとは思ってもいなかったよ。ま、そこら辺は置いておこうよ」

「何か釈然としねぇ……」


二人の生暖かい視線を無視すると、ハクアは上級生たちの戦場に入るのだった。


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