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剣閃

「貴様!何故そのエルフを庇う!」

「庇いますよ、ウチからしたらエルフは悪い事をしている訳ではないですから!」

「エルフは道具だ、人間と同じ扱いを受けている時点で可笑しい!」

「何が道具ですか!彼女は人ですよ!」


(うーわ、凄い言い合いになってる)


銀朱色の髪をポニーテールにした少女と刈安色の海藻のような癖っ毛が特徴の男の口論をハクアは周りの人間に紛れながら口論の中に踏み込まずに待機する。

刀の柄に手を置いてはいるが、まだ握るには早いと判断している。


口論の内容を僅かに聞き取り、視線を気づかれないようにしながら少女に庇われているエルフの方に向ける。


(……流石に問題ないか)

金髪碧眼のエルフの少女の頬には叩かれたような跡があり、手には擦り傷が出来ている。しかし、それは大事に至らないとハクアは考える。


(エルフの特性は嫌と言うほど知っている)


だから、ハクアは男の言っている事があながち間違いでは無いことも知っている。


『エルフ』は東側の国が生み出した『獣人』に対処するために西側の国が生み出した生態兵器だ。単純な『量』を求めた東側に対し、確実に仕留めれるよう『質』を重視したエルフの実力は驚異と言える。

だが、『質』を求めすぎた結果、エルフの能力は極めて増大し、通常の人間の数百倍から数千倍、その上超高純度の魔力を保有している。魔力の量と質は魔法の効果に大きな作用を与え、エルフの魔法は一つで地形を変えかねないものへと変貌してしまった。

その力を恐れた西側の国はエルフに対して幾つもの『制約』と言う名の枷を嵌められた。しかし、それを踏まえても人間の恐怖は消える事はなかった。


『獣人』が戦乱を長引かせた原因の一つだったために『恐怖』の対象とされ、『エルフ』はその実力故に『恐怖』の対象とされた。お笑い草だ、とハクアは内心自嘲気味に笑う。


白熱していた議論に、動きがありハクアはそちらに目を向ける。


「この分からず屋が!」

「きゃあっ!?」


男が少女の頬を殴り、少女は地面に倒れる。


狂喜ともとれる笑みを浮かべた男は、次の瞬間腰に携えている鞘からオーソドックスな剣を引き抜く。


周りから悲鳴が挙がるが誰も動かない現状に、ハクアは眉間に皺を寄せる。


(やはり、貴族か。そして、あの少女は平民か)

エルフの恐怖を伝える貴族ならエルフを必要以上に『道具』として見ているのにも説明がつくし、少女がエルフと接する機会がある平民ならエルフを『人間』だと見ているのにも説明がつく。


そして、この学院は貴族の力が強い事を知っている。事件の揉み消しくらい平然とするだろう。貴族の方が力が強いのだ、仕方ない。


「死ね!!」

「きゃあっ!?」


少女の頭に目掛け剣が振り下ろされる。


倒れ、起き上がろうとしていた少女は目をつむり、剣が来るであろう方向を腕で守ろうとする。


(させるか)


少女の腕に振れようとした瞬間、白い閃光が走った。


「……え?」

「……なっ!?」

「貴方は……」


呆然とする少女、驚愕する男、目を見開くエルフ。三者が違う反応を示す中、ハクアは病的なまでに白い髪の毛を掻く。


踏み込み、剣が間合い入るのとほぼ同時に逆手に持った左手から抜刀。男の剣の刃を刀の打ち上げで上に弾き、返す刀を男の首筋に触れるギリギリのところで止めたのだ。


あまりにも刹那の行動に周りは声を出すことすら出来ずにいた。


最初に口を開いたのは男だった。


「貴様……何のつもりだ。この私、ローゼン公爵家の次期当主であるダーニスに向かってその無礼な行動はなんだ!」

「生憎と、貴族には興味がない。それと、今の状況を分からないのか?」


僅かに貴族の男の首筋に刃が当たり、血が垂れる。

「今、お前は俺に生殺与奪の権利を奪われている。お前に自由があると思うな」

「ッ!?私を、貴族を脅すのか……!?」


「そうだ、と言ったら?」


男が不敵な笑みを向けている事に気がつきハクアは警戒心を跳ね上げる。


そして、

「……助けてください、姫様!」

「ッ!!」


戦いの合図が切られた。


男の言葉にハクアは身を逸らす。その瞬間、背後からレイピアの突きが頬を掠める。辺りはざわめきと共に身を引いていく。


(二人は……よし、上手く逃げたようだ)


二人の気配が無いことを察知しながら連続して放たれる突きを見ること無く回避し、大きく反転しながら刀を順手に持ちかえて一閃する。


「むっ……!」


金属が当たる音と共に僅かに驚嘆する声が聞こえる。


金髪ドリルの女は容易に刀を防ぎ衝撃を利用して後ろに跳び、距離をとる。


(突きは多くの技が踏み込みのための距離を必要とする。そのために距離を取ったのか)


再び襲いかかってくる伸びがあり、鋭くしなやかな突きが面の如く放たれる。


レイピアが縦横無尽に突いていく中、ハクアは刀を柔らかく持ち、刃を当ててレイピアの軌道を僅かに逸らすことで往なしていく。


そのついでに衝撃を利用してレイピアの間合いから抜けるため女は何度も踏み込まなけらばならなくなる。


女が一呼吸置くために後ろに下がると同時にハクアは踏み込み、女に接近する。


「ッ!?」


急接近と共に鎖を振るうように打ち上げる刀をギリギリのところで女はレイピアの鞘で防ぐ。


力業で振り払い、女との距離を開け、のけ反る女の腹に跳び膝蹴りを叩き込む。


「ガッ――!?」

「このタイミングでこう来るとは分からなかっただろ」


ハクアが着地し、間髪入れずに刀を振り下ろす。女は身体を回転させ避け、レイピアを手首のスナッチを生かしながら振るう。


(こいつの剣術……王族剣術か)


剣戟にはどちらも一切の隙がなく、僅かに手を誤れば死にかねない戦闘の中、ハクアは女の剣技を見抜く。


暗殺者でもあるハクアは王族や公爵と言った上流階級の暗殺をする事もある。その際に護衛が遣うのが王族剣術だ。

王族剣術は『王族が使う剣術』ではなく『王族を守るための剣術』だ。そのため、攻めるより守る事に長けており、あらゆる得物で防御ができるようにされている。


しかし、女の使う王族剣術は守りを攻撃に転換し攻防一体の技になっている。

(自分に合うように調整したのか)

鍔迫り合い、力業で刀を振り抜き、女を弾くと右手に持っていた風呂敷を地面に置く。


片手、それも利き手ではない方で対処するのは難しいと判断したからだ。


刀を右手に持ち替え、ハクアはレイピアの突きにを防ぐため空いた左手の掌を向ける。


「なっ!?」


突き刺さるレイピアを掴み、身体に向けて引き寄せるとそのまま金槌を振り下ろすように刀を振るう。


女は驚くと同時に地面を蹴りその場から跳び去る。ハクアは貫通した手からレイピアを引き抜き、血が溢れる左手を垂らす。


(……痛いが、問題ではない)


片手でも戦える。そう思いながら口角を上げる。

それと同時にハクアは地面を蹴り女に接近し刀を一閃させる。


「……やはり、貴方は凄い人ですわ」

「はっ、手が一つ使えなくなって戦えなくなっていたら意味ないだろ」

「確かに、そうですわね」


打ち合い、鍔迫り合う中で女と会話をする。その声音はどこか楽しそうだった。


「貴方があの二人を助けた時、私も助けようとしましたわ。ですが、貴方が割り込んできた時の剣技に見惚れてしまいまして……その、貴方と戦ってみたくなってしまいましたの」

「だからあのクズの言葉に乗ったと?」

「ええ、そうですわ」


何てはた迷惑な、と口から出そうになるのをハクアは頑張って口を閉じ、放った突きが女の肩に刺さる。


「くっ――!」


女は痛みを堪えながら跳躍して距離をとり、出血する肩に手を置く。

ハクアは刀を右手一本で構えると不敵な笑みと共に名乗る。


「俺の名はハクア。まあ、色々と言われてるがとりあえず下の名で読んでくれ」

「ええ、そちらが名乗るのならこちらも名乗らないのは無作法ですわね。私の名はペイン。貴方たちからは『赤蠍』何て呼ばれていますわ」


名乗りを終えたペインが接近し突きを放つ。先程とは比べ物にならない速度にハクアは驚きながら身を逸らして躱す。


連続して振るわれる横、縦の剣筋を避け突きをギリギリのところで回避する。その瞬間ペインの拳がハクアの胸を叩く。


「がっ!?」

衝撃で骨が折れ喀血する。ペインは腕を引き戻し再び突きを放つ。高速の突きをハクアは側面から刀を沿わせ、受け流す。


返しで刀をアッパーのように振るうがペインはギリギリのところで回避し大きく距離をとる。


(……中々やるな)

高い技量に不意打ち気味とは言え攻撃を当てた事実にハクアは口から垂れる血を拭い笑う。しかし、その目はペイン以上に鋭いものとなっていた。

刀を握る力が変わり、纏う雰囲気もより剣呑なものへと変わっていく。本気である。

そして、死刑宣告に等しい声音をハクアは心の中で洩らす。


(全力で、倒してやるよ)



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