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無手にして刃

「おい、反応が鈍くなってきたぞ」

「ははは!なら回復させちまえば良いんだよ、適当にな」

「それは良いわね。誰がこんな獣人に全うな回復をするものか」

「それにもう少し毒を回してくれ。もう少し痛みを伴わせたいからな」

「了解っと」


十人近くの上級生たちが両手に括られた鎖で手足を縛られ吊り上げられたセッカを笑いながら痛め付けている。


セッカの身体はウリュウよりも満身創痍だ。服は破られ、露になった身体はナイフによる切り傷や打撲傷が刻まれ、両足の骨はへし折られて通常は曲がらない方向に曲がり、身体の至るところに痣ができている。傷の治癒も中途半端の上適当のため癒されればされるほどセッカは痛みを堪えるような声を洩らしている。

痛め付けられ口や額、こめかみから血を流すセッカの意識は朦朧としており、よく見れば瞳孔の開き方も左右非対称。もう目の前で何をされているのかすら見えてないだろう。


(……糞どもが)

茂みの中に隠れ、様子を伺うハクアの表情は無表情だ。しかし、鞘を持つ左手は力んで震え、見つめる眼差しには剣呑な感情が混ざる。


(外道に刀を振るう価値は一切ない)


故に、


(ここで消えろ)


ハクアは『草薙』の発動と共に地面を蹴り茂みから飛び出る。


ハクアに気づかない上級生の背中をハクアの手刀が切り裂く。


「がっ!?」

痛みによって出る声でハクアの存在に気がつく上級生たち。それと同時にハクアは手刀を収め、左手を伸ばし上級生の頭を掴む。


上級生が反応するよりも速く、上級生の頭を押して地面に勢いよく叩きつける。

意識を失った上級生を蹴り飛ばし、対角線上にいた上級生は蹴られた上級生を避ける。


「ごふっ!?」


その瞬間、ハクアの左手の掌底が鳩尾に叩き込まれる。上級生は勢いよく吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。


「がっ!?」


起きようとする上級生に跳躍したハクアの膝蹴りが顔面に叩き込まれる。


顔面を血だらけにした上級生が地面に倒れるのをハクアは見ながら後ろから振り下ろされるナイフを右手で掴む。


「なっ!?」


ハクアはそのままナイフを握りつぶし驚く上級生の手首を掴み力業で目の前に叩きつける。


「『建御雷・応用編』」


起き上がろうとする上級生の腹を右足で踏みつける。踏みつけられた衝撃で上級生の肉体は押し潰される。

上級生の肉体からは穴という穴から血を吹き出し、骨はぐしゃぐしゃに潰れ手足は中身が液体のようにぐにゃぐにゃになり、断面からは桜色の肉が見える。


「ひっ……!」

息をするだけの肉塊になった上級生を見た愚者たちは顔面を蒼白にしてたじろぐ。


潰れた肉塊を冷徹な眼差しで見ていたハクアは振り向き様に地面を蹴り上級生に接近する。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


恐怖が限界を越えた上級生が剣を出鱈目に振り回す。


(この程度で恐怖するか)


心底冷めた眼差しで上級生を睨み付けると手刀を軽く振るう。


「へ……?」

その瞬間、剣を握っていた手が切り落とされる。

あまりの突然さに唖然とする上級生の身体を極短の二振の短刀が刹那の内にズタズタに引き裂く。


「えっ……」


地面に血を塗らしながら地面に崩れる上級生を蹴り飛ばして退かしたハクアに上級生の一人が両手を上げる。

「こ、降参!降参するから!」


ひきつった笑みを浮かべる上級生にハクアは静かに歩いて近づき、


「お前は、痛みに苦しむセッカを見てどう思った」

「え……あ、」

「それが答えだ」


そして、


「『韋駄天・応用編』」

絶望に染まった上級生の身体に神速の十連打が叩き込まれる。


一撃で骨を砕き臓物を破裂させる拳が身体に叩き込まれた上級生は一直線に木に叩きつけられると凭れながら地面に尻をつけ項垂れる。


(……逃げたか)


ハクアが辺りを見回すと残った五人がいないと気がつく。


勝ち目がないと逃げた、と瞬く間に理解したハクアは地面を蹴り速度を維持したまま木々の間を縫うように走り抜ける。


(見つけた)

逃げ方を学ばなかったのがよく分かる逃げ方だった。一分もかからず逃げる五人はハクアに捕捉される。


「『天之逆鉾(アメノサカホコ)・応用編』」


百メートル以上ある距離をハクアは地面スレスレに身体を傾け、駆け抜ける。最後尾の上級生が一歩を踏み出すよりも速くハクアが肉薄し貫手が放たれる。


「ごふっ!?」


貫手は脊髄を破壊し、(はらわた)を貫き、腹を穿つ。腹から飛び出る長い管と血にまみれた手を見て吐血した上級生は力を失い地面に崩れる。


落ちながら引き抜かれた手に付着した血をハクアは獣のように舐め、頬に塗りつける。


足を止めた上級生たちはあまりの恐怖に生まれたての小鹿のように脚を震わせながらハクアを見つめる。


ハクアはその一人に近づくと上級生は跪き泣きわめく。


「た、助けてくれ!金はやる、好きなだけ金をやるから命だけは!」

「金には興味ない」


ハクアの鋭い蹴りが顔面を捉え、上級生を打ち上げる。宙を舞う上級生の腹にハクアは発勁を叩き込む。


衝撃で上級生は砲弾のように一直線に木に叩きつけられ、起き上がろうとしたところにハクアの踵が脳天に突き刺さる。


力を失い地面に崩れ落ちる上級生に興味を無くしたハクアは次の上級生に近づく。


「助け――」

「『天之尾羽張(アメノヲハバリ)・応用編』」


命乞いをしようとした上級生に向けてハクアは手を一回バイオリンの弦を弾くように振る。そして簡単に背中を見せる。


「バカめ……!」


好機と見た上級生は掴んでいた柄を引き抜きながら歩こうとする。


その瞬間、


「……え?」

上級生の身体は上半身と下半身が別たれる。

既に、ハクアに斬られていたのだ。

上級生が痛みを感じず、動かないければ元に戻っていたかと思う程に、美しい断面で。


二つに別たれた身体をハクア見ることなく最後の一人に近づく。最後の一人は地面に土下座をして謝罪する。


「わ、悪かった!あの獣人を傷付けたのは謝る。だから、だから命だけは助けてくれ……!」


上級生の謝罪にハクアは怒りを通り越す。


(……こいつは本当に謝るべき者を知っているのだろうか)


あまりにも見当外れの謝罪にハクアは呆れ果てる。


「あれはお前の情婦なんだろ?俺が後で良い女を渡すことに免じて許してくれ!」

「前提が間違っている」

「へ?」

「お前が謝るべき相手は俺ではない。セッカの方だ」

「何をバカな、あれは獣人だぞ?お前は獣に頭を下げるか?下げないだろ?それと同じ……」

「……いい加減にしろ、クズが」


ふざけた事ばかりを言う上級生にハクアは拳を握りしめ、振り上げる。


「獣人は俺ら人間が産み出した人間だよ。それを履き違えるな」


そう上級生に告げると拳を振り下ろす。呆けた上級生の頭に拳が直撃し頭蓋骨を粉砕され柘榴のように潰れる。


(獣人たちの差別がここまでとはな)


ため息をつくハクアは数歩でセッカの元に戻り鎖を破壊してセッカを降ろす。適当に移動するためセッカを背負うと意識が戻ったセッカが話しかける。


「ハクア……さん……?」

「気がついたか。眠ってても良いんだぞ?」

「いえ……ハクアさんに……迷惑を……かけたく……」

「生憎と、これは俺がやった事だ、お前が気にする事はない」

「でも……」

「それに、そろそろ時間だしな」


ハクアがそう言った瞬間、空間がガラスのような音と共に割れる。


青空だった空は赤い夕焼けに変わり、日は落ちかけている。


「これは……」

「『夢幻結界』。これがあるからこの学院はこんな事ができる」


普通ではあり得ない光景に唖然とするセッカにハクアは静かな声音で説明する。


「『夢幻結界』は俺らをこの森に飛ばした『転移』と同じく【空間】の魔法で、現実を切り離し『夢』と定義することで空間内で起きた全ての事象を『無かった』事にできる。それこそ、夢から覚めるようにな」

「そんな魔法が……」

「だが、人間の記憶だけは『無かった』事に出来ない。そのため、この魔法は主に訓練場で使われている。力を自由に、それでいて全力で練習できると言うのは大きなメリットだからな」


無論デメリットはあるが、とハクアが言おうとしたところで背中から寝息が聞こえてくる。


(寝ているか……まあ、流石に仕方ないか。『夢幻結界』は傷は『無かった』事になり、死すら『無かった』事にできるが体力まで元通りに出来ない。それに、結界内で受けたダメージは解除、又は外に出た際に全身の疲れとしてフィードバックされる。それが影響だろうな)


ずり落ちそうにセッカの身体を前の方に抱えるように持つと、ハクアは森の中を歩いていく。


森を出たところで気を失った人たちを探すために待機していた上級生たちが駆け寄って来る。抱えてられているセッカを見て嫌悪感を見せる上級生たちにハクアは汚物を見るような目で威嚇した後適当なベッドにセッカを寝かせる。


一段落して椅子に座るハクアの肩を誰かが叩く。振り返るとエミールが何時もの爽やかな笑顔を消し少し苦しそうな顔をして立っていた。


エミールは近くの女子学生に話しかけ椅子を持ってきて貰うとハクアの隣に座り、話しかけてくる。


「お疲れ様。試験の方はどうだった?」

「それなりには。そっちは?」

「まずまずかな。先生たちとも手合わせしたけど魔法を使われるとかなりキツかった」


私、魔法が苦手だしとエミールは苦笑し、


「でも剣術の方は上手くいったよ。かなり打ち合えたと自負できる。ハクアは教師と戦った?」

「一人だけ戦ったかな。後は気配を消してやり過ごした」


(実際には教師一人にスワロウ、セッカを痛め付けていた上級生十人と情報のために尋問した三人だけどな)


荒波を起こしたくないハクアは事実を隠した。世の中、隠しておいた方が良いことがある。


「そう言えば、この獣人は?ハクアがお姫様抱っこで連れてきていたけど」

「偶々倒れているのを見つけたから来るついでに連れてきた」

「へえ……よし、私はちょっと捜索隊に入ってくる」

「そうか。……俺も行くか」


椅子から立ち上がり森の中に入っていくエミールにやれやれと苦笑するハクアも森の中に入っていくのだった。



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