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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

A君とヨモツヘグイ

A君と色が無い世界

※タグにガールズラブがありますが、この話はガールズラブが好きな人は見ない方がいい話です。

 A君が真っ赤になってからというもの私の世界は色の無い夢と化した。


 A君というのは私の友達である。小さいころから私とA君は友達だった。これからもずっとずっと友達だと思っていた。

 それなのにA君はある日、通学の際に使う駅のホームで誰かに突き落とされて彼が好きだった赤色に染まって死んでしまったのだ。


 A君だった真っ赤なものが撤去されている間、私はただただ呆然としていた。ついさっきまで一緒に喋っていたA君がただの赤色の物体になったとことに現実感が持てなかった。




 A君が死んだその日、どうやって家に帰り眠りについたかを私は覚えていない。

 後から聞いた話だと、私の両親が迎えに来るまでずっと時が止まっているかのようにA君が落っこちた方に真っ青な顔を向けて駅の構内でじっと立っていたらしい。

 そして目を覚ました私の世界からは色が消えてしまっていたのだ。


 A君が死ぬ前の私は赤色は嫌いで青色が好きだった。ちなみにA君は逆だった。でもA君が死んだあとは赤いものを見ても、青いものを見ても、何も感じなくなった。それが赤いとか青いということはわかるのだけれどそれだけなのだ。

 A君が死ぬ前の私の心を動かしてくれた色は世界からいなくなり、ただの情報としての色だけが世界にあふれた。


 A君のお通夜とお葬式の日にはA君の親戚やクラスメイトなどたくさんの人が来て、みんなA君との別れを惜しんで泣いていた。でも私はずっとぼーとしていた。

 A君が死んだということにどうにも感情が動かず私はずっと座っているの疲れるなぁとか、お香の臭いがきついなぁとかそんなことばかり考えていた。どうしても私にはA君と色が無くなったこの世界が現実だとは思えなかった。



◇◇◇



 A君が真っ赤になってから一年がたった。あんなにみんなから好かれていたA君がいなくなったというのに私以外のみんなの世界はあっというまに元通りに動くようになった。

 別にみんなが冷たいわけではなく世界とはそういうものなのだ。みんなA君が死んだということを現実のものとしてちゃんと受け止めて毎日を精いっぱい生きているのだ。私だけがあの日から未だに現実に戻れていない。

 A君から夢には色が無いと以前聞いたことがある。私にとって色のないこの現実を生きるのは夢を見ているようであった。




 A君が真っ赤になってからというもの実際私には夢みたいなことがいっぱい起きた。


 A君がいつも金賞を取っていた絵画コンクールでようやく私は金賞を取ることができた。

 色を失くした結果、ただの情報として適切に赤や青を置くようになったため金賞が取れたのだ。以前の私は無意識のうちに塗るべきところに赤い色を塗らず、使うべきでないところに青を使っていたため銀賞止まりだったのだ。

 でも一番大きい理由はA君が真っ赤になったからだと思う。


 A君がいつも一位で私は二位だったテストの成績でも私は一位を取れるようになり、両親に褒めてもらえた。

 A君と遊ぶことが無くなった私はその時間を埋めるように勉強に没頭し、見事一位を勝ち取ることができたのだ。

 でも一番大きい理由はA君が真っ赤になったからだと思う。


 A君の事が好きだった子が私と仲良くしてくれるようになった。私はその子の事が好きだったけれどその子の好意はA君に向けられていたから私は諦めるしかなかったのだ。いつも私が好きになる子はそうだった。

 でもA君がいなくなってすごく悲しんでいたその子をなんとなく適当に慰めてからというものとっても仲良くなった。今ではその子は私のことをすごい慕ってくれる。私が恋人になってと言えば付き合ってくれるかもしれない。

 こうなった一番大きい理由は絶対にA君が真っ赤になったからだと思う。




 A君が真っ赤になった後の私の人生は他人から見たらまるでバラ色に見えただろう。

 でも私には何の色も感じ取れなかった。金賞も一位も好きだった子もすべてが夢のごとく現実感の無いどうでもいいものだった。


 A君に私の絵を見せることはもう二度と出来なくなった。

 A君は君の絵の青色は唯一僕が好きになれる青色だね、と言っていつも私の絵を褒めてくれていた。ついでにもうちょっと赤色があった方がいいねなんて余計なことを言われることもあったけれどA君に絵を見せるのは楽しかった。

 でももうそれはこの世界ではできなくなった。


 A君と一緒に勉強することもできなくなった。私たちはテストの前になると勉強会を開きお互いにわからないところを教え合っていた。いつのまにかお喋りに夢中になってしまって勉強そっちのけになることもあったけど楽しかった。

 でももうそれはこの世界ではできなくなった。


 A君に恋愛相談をすることもできなくなった。A君はいつも私の恋を応援してくれた。A君と一緒に告白の内容を考えたりデートのプランを考えたりしている時はきっと恋が叶うような気がした。

 でももうそれはこの世界ではできなくなった。


 A君に金賞を取った絵を見せたかった。

 A君にテストの点数で勝って悔しいなぁと言わせたかった。

 A君に彼女とののろけ話を聞かせたかった。

 でももうそれはできない。

 金賞も一位も好きだった子もなにもかもが現実とは思えない。A君がいなくなり色の無くなったこの夢の世界でそんなものを手に入れてもしょうがないのだ。



◇◇◇



 A君が突き落とされた場所に私はやって来た。あの日以来駅を利用することはあっても私はこの場所に立つことだけは避けていた。A君を殺した奴に突き落とされそうな気がしていたからだ。だけど今日の私はここに立つことにした。


 A君を突き落として真っ赤にした人を警察の人は必死に探したみたいだが結局誰だかわからず捕まえられなかった。

 そのうち警察は諦めてしまった。警察は現実を生きているのだから仕方のないことだ。警察はA君のこと以外にもやるべきことがたくさんある。そうして治安は保たれ世界の秩序が守られているのだ。

 ……だけど私は違う。現実ではなく色の無くなった夢の世界で生きている私がやることなんて何もない。すべてが無価値だ。だから私はせめてA君を殺した奴に落とし前を付けさせることにしたのだ。


 A君が突き落とされた時間になった。そしてその瞬間、私はドンと背中を押された。

 A君を殺した奴が来たのだ。私は倒れながら後ろにいるそいつの腕をつかみ引きずり込んだ。そして電車がやってきた。衝撃と断末魔の後、私の世界に色が戻り、私たちは真っ赤になった。




 A君を殺した奴の顔は私が良く知っている人間の顔だった。私はうすうすそいつがA君を殺したことを知っていた。

 そいつの顔はA君が手に入れたものを、身勝手にも自分から奪ったもののように捉え筋違いの恨みを抱く馬鹿の顔だった。

 そいつの顔はA君の友達でよくしてもらっていたにも関わらず、毎日のようにA君の不幸を願っている恩知らずの顔だった。

 そんなことが道理の通らないことだと知りながら、上手くいかない現実への苛立ちを収めるためになんでもかんでもA君のせいにして呪うことをやめなかったクズの顔だった。

 A君の死を踏み台にしてのうのうとA君のものを横取りしたくせに不満げにしている最低のゴミの顔だった。

 なんでそいつと同じ顔をした奴がこの場にいるのかはわからないがどうせそいつの怨念が凝り固まってできた生霊とかドッペルゲンガーとかそのあたりだろう。いずれにしてもそいつが殺したことには変わりない。

 だからA君を殺した奴がそいつの嫌いな色の赤色に染まってズタボロに死んでいるのを見て私はざまあみろと思った。




 A君を殺した奴の顔は私の顔とそっくりな顔だった。

 薄れゆく意識の中、ホームから見える青空が私の視界を覆う赤い血と混じり紫色に染まる。

 そういえば小さいころは……A君も私も……赤色より……青色より……この色が……大好きだったなぁ……。




 A君……ごめ……ん…………な………………さ……………………




『駅夢脱出ヨモツヘグイ』という続編を書きました。

雰囲気大分変っていますのでホラーとしてこの作品を終わらせたい方は見ない方がいいです。

(2020年9月27日)

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― 新着の感想 ―
[良い点] オチ。 想像も出来なかったです。 [一言] A君、どんな人だったのかなあ。
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