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26.噂がどうであれ日常は平和

 よく分からないけど誘われたというお茶会に、シンシアは参加することに決めていたようだ。試験が近づいてきている為さらっとやってさらっと終えると言っていたが、変な噂が流れていることあるからな。少し不安だ。

 そう思った俺は、シンシアに、リセとイリーナをお供に連れて行くようにお願いすると、シンシアは快く了承してくれた。


 ゼイゴもお供について行くそうだが、あいつは信用ならん。それに、万が一トラブルになったとしても、荒事に慣れているだろうリセとイリーナがいればシンシアが傷つくことはない。おそらく大丈夫だろう。


『のじゃ、諸刃はいったいどうするつもりかのう』


「どうするって、やることなんて決まっているだろう?」


『のじゃ? 覗きでもするのか?』


「いやしねぇよ。なんで俺が覗きなんてするんだよ」


『そうじゃのう。諸刃は覗きなんてセコイことせず直接アタックしてラッキースケベー』


「嫌そっちもしないからな」


 のじゃロリはどうしてそういう方面のことばかり言うのだろうか。俺の予想では最近かまってあげていないので拗ねているか、気を引きたいのではと思っている。どちらにせよ迷惑な話である。


「まあいい。俺たちは噂についてちょっと調べようと思ってな。別にたいしたことじゃないだろう?」


『確かに、あの噂は不可解なものがあるのう。あのすごく気持ちの悪い、見ていて嫌悪感しか出てこない何とか王子とその取り巻きを取りまとめているミーに感謝しているという噂は本当みたいじゃが、ミーが99股しているので天誅というのは、ちょっとおかしな話じゃと思う』


 もしかしたらその中に婚約者が……って生徒がシンシア以外にもいるのかもしれない。だけどあの気持ち悪いの結婚するぐらいなら婚約破棄してくれた方がいいのではと、男の俺ですら思ってしまう。

 それでも、あの中に婚約者がいて、取り戻したいと思うものなのだろうか。シンシアがあのなんとも言えない名前の分からない王子と婚約しているらしいが、一切気にしているようには見えないし、どちらかというと存在そのものを忘れているような感じさえ見受けられる。


 俺が思うに、99股云々しているからシンシアが天誅を下すという訳の分からない噂の方がデマなんじゃないかと思っている。

 悪役令嬢を目指しているシンシアがミーに対して何かをするのは間違いないが、それが悪い方向……いやどうだろう。ミーに天誅だからシンシアがいいことをしていることになるんじゃ。訳が分からなくなってきた。

 とにかく、シンシアが天誅の噂は誰かが意図的に流したものに違いない、と探偵ごっこをしている俺は思うわけですよ。


『諸刃は相変わらず残念なのじゃ』


「うるせぇ。とにかくシンシアの噂を調べるぞ。と言っても俺にできることなんて聞き耳立ててこっそりと話を聞くことぐらいしかできないがな」


『へ、変態なのじゃっ! やべぇ奴なのじゃ』


「もう一度言うぞ。うっせぇ」


 俺の行動が気持ち悪いのは分かっているが、さてどうしたものかと頭を悩ませる。

 そんな時にちょうど暇そうな我らが勇者様を見つけた。

 勇者様は、青空を見上げながらぼーっとして、心を無にしている。その近くにはアッシュがいて、とても困った表情を浮かべていた。


「アッシュに飛鳥。どうしたんだこんなところで」


「おい諸刃っ! この頭のおかしい女どうにかしろよ」


 は? 飛鳥の頭が残念なのは今に始まったことじゃないけど……。これはいつにもましてダメな感じが強くなっているな。


「一体何があったんだよ。というかこいつがおかしいのはいつものことだろう」


 よくよく思い返すと、元の世界ではもう少しまともだったような気がする。というかもっとまともだった。どうしてこうも残念な子になってしまったのだろうか。異世界転移、恐ろしい。


「いや、特にないんだよ。こいつを使って剣術の訓練をしようと思っていてさ」


 アッシュ、お前意外と馴染んでんな。確かに剣の訓練相手になってくれる人なんてこの世界には限られているけど、ここまで丸くなられると逆に驚きだよ。


「そうか。それで、何したんだ。頭のおかしいコイツでもここまで酷くはならないぞ?」


「俺が何かした前提で話を進めるな。俺は何もしてねぇよ。ただ変な噂が聞こえてきてな。そしたら突然こんな感じになった」


 説明が雑だな。けど噂か。

 そんなことを思いながら、ちらりと飛鳥に視線を向けると、濁った魚の目をした飛鳥が俺をじっと見ていたことに気が付いてしまってドキッとした。


「諸刃、聞いてよ。私ね、頭のおかしい子なんだって。棒のようなものを振り回して奇声を上げる変人なんだって。何より一番ひどいのは……」


 少し貯めを作る飛鳥に、俺はゴクリと喉を鳴らす。その場には妙な緊張感が漂っており、現状を語る飛鳥の表情は感情が抜け落ちたかのように無機質で、その瞳に艶がなかった。


「私って、勇者を語る頭の可哀そうな子なんだって」


 間違ってはない。勇者として召喚されたのは確かだし、俺と同じ異世界人だけどコイツ弱いからな。それに大した活躍をしていない。やったのは、アッシュが無駄に増やしたゴブリンを一緒に倒しただけ。そういえば俺もたいしたことやってこなかったけど、俺は飛鳥と違って勇者じゃないからな。

 いや、俺は魔王軍幹部だったアッシュを倒しているぞ? 俺の方が勇者をしていないだろうか。


 ちらりとアッシュに視線を送ってみるが、アッシュは飛鳥のことをすごく頭の残念な子供を見る目で見ていた。

 その視線に気が付いた飛鳥が、さらに悲しそうな顔を浮かべてこっちを見てくる。アッシュを無言で指差して、「ほら、こういうことする人がいるのよ」と目で語っているようだ。


 いや、傍から見たらそうなっちゃうだろうな。だって、飛鳥って勇者っぽくないもんな。どちらかと言えば狂戦士? バーサーカー? さて、これらの噂が色々と出てきているわけだが、これらはいったいどこから出てきたものなのだろうか。多分発信元があるはずなんだよな。

 まあ、俺達に支障が出ているわけではない。今のところすごく平和だ。悲しんでいるのは飛鳥だけ、か。


 噂についてはどう考えるべきか悩むところだが、今のところ放っておいてもいいのではと思えるようになった。だってダメージ受けてるの飛鳥だけだし。


「号外っ! 号外だよっ」


 噂大好き新聞部の女の子だろう。彼女が号外と叫びながら新聞をばらまいていた。俺はその一つを手に取って見てみると、そこには衝撃的なことが書かれていた。


「偽勇者(笑)がばかやって王子を殴った? しかも殴った王子はあの気持ち悪い男の一人。なるほど、お前ばかやったな!」


 ちなみに、勇者を名乗る頭のおかしい子と表現されており、なぜそうなったかというと、勇者とは国の最大戦力であり、たとえどんなに気持ちの悪い奴だったとしても、さすがに手を上げないだろうということだった。うむ、これには一理ある。

 飛鳥も馬鹿をやったものだ。だけどあの王子を殴ったことだけは褒めてやりたい。あいつ、マジで気持ち悪かったからな。


 よくよく考えてみると、噂が流れてきているからと言って特に何が起こったわけでもない。

 噂はどうあれ、なんだかんだで平和な日常が続いているような気がした。


 あとは、お茶会でトラブルが起こらなければいいのだが、まあきっと何とかなるだろう。


 さて今年もあとわずか。この話が今年最後の投稿になります。今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。


という訳で、読んでいただきありがとうございます。

本作品は毎週日曜日、きまぐれな時間帯に投稿しますっ!

次回更新は1月3日!!


面白いと感じていただけたら作者のモチベーション向上のため、ブクマと評価お願いしますっ。

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