Here was the truth
「さて、一応俺様も用事があるしさっさと帰るか」
1度霊園で別れた高杉であったが、母禮達と合流したのはおよそ30分が過ぎた頃だった。
一見長話をしていたように思うかもしれないが、霊園の入り口から杏子の墓まで歩いていって大体20分は掛かってしまう。つまり、高杉の杏子に向けての用事はおよそ10分前後で済ませた事になる。
それを考えると母禮は少し心配になったが、合流したときに高杉の顔を見たら、高杉はとてもすっきりとした顔つきであった。
墓参りの途中、多々憂いの表情を浮かべていた高杉だが、戻ってきたときの彼の表情を見て母禮は思った。
(きっと清算できたんだろうな……)
だからもう心配などは必要ない。
高杉の用事など母禮らには分からないが、それでも普段から他人を振りまわす高杉の様子を見て、ようやく日常が戻ってきた感じがした。母禮は高杉の言葉に安堵の意味も込め、一応付き合わされて不機嫌な斎藤のためにも高杉を諌めるようにこういった。
「人を付き合わせてそれを言うか……」
「安心しろ、土産を買う時間ぐらいはくれてやる」
「……本当にな。遊佐の奴は土産の催促をこれでもかというくらいまでしてきた」
「遊佐さんらしいな」
そんなふざけ合った会話を続けながら、3人一行の足は自然と駅へと向かっていった。
母禮達が駅に着いた頃、東京行きへの新幹線が到着までおよそ40分以上も猶予があるらしく、ここで高杉は面倒だといわんばかりに不機嫌そうな顔を露骨に見せた。
それを母禮が宥め、とにかく遊佐達へのお土産を選ぶ事にする。本来ならたっぷり時間を使いたい母禮だったが、お土産に関してはそこらにあった適当な煎餅を高杉がカゴに放り込む。そしてすぐさま「会計済ませるぞ」と強引に会計を済ませた。
ここまでの所要時間は大体15分。まだ新幹線の時間は先であるし、時間を潰すという母禮の親切心はがさつに扱われ、結局3人は駅のホームで新幹線を待ちながら談笑をし始める。
「そういえば、高杉さん。『仕事』の方はいいのか?」
「おい、沈姫」
特に盛り上がるような話などなく、なんとなく惰性で会話を続けている中、思い出したかのように母禮は高杉へとこう聞いた。そしてそれを聞いて斎藤がすぐに止めに入る。
そもそも世間では、今現在高杉灯影は拘置所に収監していると発表している。
そのため、もちろん彼の処遇というのは未だ表向きでは公表などされていない。もし今ここに高杉がいると市民に知られれば、国家の信頼は地に落ちるだろう。斎藤の制止は彼が新撰組の幹部であるかどうかを抜きにしても必要なものだ。
しかし当の本人である高杉はそれを聞いて、周囲を確認した後に、駅の天井を見上げて思案する。そして母禮へこう返した。
「……まぁ、今後も稀代の勝負師の名は健在だろうな。俺様の本気はここからなんだよ」
「あれだけの失態を犯しておきながら、よくそんな事がいえるな……」
「うるせーぞ、お零れを貰った分際で。大体あのときも俺様が本気を出してりゃーな――……」
高杉は母禮の言葉に対し、伝わるようでいれやんわりと隠すように答えた。しかし実際母禮を含め、一部の新撰組の幹部は今後の高杉の処遇を知っている。
それが国防省への入省。名前も高杉灯影改め、大薗衛という偽名にて国防大臣への就任が近々行われるが、まだこれも先だろう。
あの戦争を経験したものからすれば今は平和かもしれないが、よくよく世の中を見渡せばまだ世間は不安定かつ様々な問題も抱えている。だから結局はここからなのである。
そんな身内のみにしか通じない会話を繰り広げている中、3人の脳内に聞いた事のある声が突如聞こえてきた。
「随分と楽しそうなものだ」
「この声……」
この声を聞いた瞬間、思わず母禮は辺りを見渡す。すると今母禮の横を通り過ぎた『ある男性』がこう小さく呟いた。
「実はあの後、私も特別に外交官に任命されてね。また君達とは顔を合わせそうだ」
それを聞いた瞬間、既に男の姿はホームの人ごみに紛れ見えなくなった。
ただあの肩にかかるくらいの長髪は風に揺れ、身に纏っていたのも白衣ではなく黒いスーツだった。そんな彼を見送った3人は未だ彼が消えた先を見つめている。
「樹戸さんも新しい人生を歩んでるようだね」
「ああ、本当にな」
思わず母禮は目を細め、東京にやってきたあの日から今までの数ヶ月間の事を脳裏で思い返す。そしてふとこう思った。
人との出会いや、この先の未来というのは未知数で目には見えない不確かなモノだ。
しかしそれらが紡ぐモノは、因果を結び、結末を得る。そしてそれこそが希望や明るい明日に繋がるのだと。
母禮自身、母には告げていなかったが、今の彼女には1つだけ夢がある。
それは両親と義兄の代わりに大鳥家の当主として、正式に家を継ぎ国に直談判していくと。
今は新選組の平隊員だが、きっとそれは出来ると確証している。何故なら、自分自身は1人ではないから。
否、1人で抱え込まずとも紡いだ縁や絆があるのなら、きっと誰かが自分の背中を押す。決してそれに甘えるのではなく、その人達の意思も背負って歩く事で、大きな事を成せる事が分かっているからこそ。
それもあのときに得た真実の1つ。そう、決して自分は――人は1人ではない。
そしてそれを実感しているのは、母禮だけではない。彼女をひたすらに思い、今後も尚彼女のパートナーとして居れるようになった斎藤もだ。
母禮の小さな呟きを聞いて、斎藤は母禮の腕を掴み、自身の方へと引き寄せ静かに名前を呼ぶ。
「沈姫」
そしてその様子を、高杉はじっと見つめている。
もう彼は母禮にとっての運命の人ではないが、今後も斎藤と母禮を見送る者として今の短い一幕を見届ける。
なによりそれは、高杉自身が母禮に伝えたかった言葉さえも含んでいたから。
無論、彼らの声は高杉には届かない。だが僅かに読めた口の動きが全てを語っている。
どこか惨めでむず痒いものではあるが、既に銀幕から降りた『ヒーロー』は人ごみを挟んだ中、今まで彼が生きてきた40年の中でも、最も幼い笑みを見せてこう呟いた。
「何で俺様が先に言おうとした事言ってんだよバーカ」
【END.】
これにて「Will I change the Fate?」の本編は終了になります。
この後は以前もお伝えしたとおり、第二部である「Will I change the Fate? ~Requiem~」に繋ぐための前日譚「Will I change the Fate? ~Leave footsteps~」へと続きます。
前日譚の掲載は未定ですが、前日譚の連載後はいよいよ第二部の連載再開となります。
まだまだ彼らの物語は続きますが、次にある復讐と鎮魂の物語をどうかよろしくお願い致します。




