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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
5.Beyond the truth
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The daily life that I regained-2



「何で母さんの墓の前でしなくちゃならないの!!」



あれから平穏に時が過ぎ、2ヶ月が経過した。


2ヶ月前の今日にあの痛ましい戦争は終結し、高杉の容体も安定し、つい先日退院する事が出来た。というわけで高杉の宣言通り、母禮の母である杏子の墓参りをしに会津に母禮と高杉、斎藤の3人は会津に足を運んでいる。


現時点で、高杉の処遇は決まっているそうだが、まだ世間には秘匿情報として扱われているという。


確かに彼の計画で、日本は多大なる被害を負い、下手をすれば死刑という可能性もある。しかしこれをどうするかは結局(かれら)しか決められず、(かれら)しか知らない。


そして高杉がかつて母禮にいったように、斎藤と母禮はわざわざ有給休暇を取ってここまできた。


ここから先は、高杉と斎藤のどちらが母禮に相応しいか――なんてあまりにも下らない勝敗を決める事になる。


しかし例え第三者から見て下らなくとも、未だ母禮と斎藤の答えは出ていない。


母禮と高杉(希望たち)は真実を掴んだ。だが、まだ母禮と斎藤の先にある真実(こたえ)はない。


つまり、まだ2人は罪を裁く者と罰を受ける者の関係から抜け出せないというわけだ。


当の本人達が見出していない答えを知っている高杉がなぜ、このような場所を設けたのかは母禮達には分からない。しかし高杉本人としては初恋の人(杏子)の墓参りをしたいという気持ちに嘘偽りはなかった。


霊園から(ひしゃく)を借り、水を汲んでは、3人は遥か先にある杏子の墓を目指す。


腐っても杏子もまた大鳥家の人間であるため、一般的な寺院墓地に墓があるわけではない。


古くから大鳥家に仕える者が運営し、分家本家問わず、大鳥家に身を置く者だけが供養された特別な寺がある。そこに杏子の墓はあった。


ゆえに霊園へと入り、そこから寺を通り、寺院の人間からの案内を受けて、いよいよ大鳥本家の人間が供養される場所へと案内される。


さらにそこから階段を上がり、上に上へ。辿りついた墓地には、そこから会津の地を見渡せるだけの標高があった。


これも会津を代々守ってきた大鳥家の宿命として、死後も尚、会津に住まう人間の安寧を願うという意味が課せられている。


3人は一苦労して墓の前まで来た後、墓の掃除を済ませ、後は線香と花を供えるだけになった。


事前に必要なものを袋に詰めて持ってきたため、斎藤が袋から線香を取り出し、母禮へと渡す。



「線香ならここにあるぞ」


「ありがとう、斎藤さん」


「花も活けてやらんとな。一応杏子の好きだった百合も持ってきてはある」


「高杉さん、貴方母さんの好きだった花さえ知ってるの……?」



ここで、高杉は軽いが聞き流せないぐらいの中型地雷を放りこんだ。斎藤と母禮が若干引く姿勢を見せる中、静かに首を横に振る。



「退職する時に、花を送ろうと思ってよ。それで何の花がいいって聞いたら、百合がいいって答えてな。まぁあの(ツラ)に百合は合わないけどよ」


「……聞こえてたらバチ当たるよ」


「それも上等だ」



高杉は余裕のある笑みを浮かべる中、母禮は線香に火を点けた。そして順に線香を供えていく。最初に高杉、次に斎藤、最後に母禮といった順で済ませた後、高杉が渡してきた白い百合も供える。そして高杉が「さて」と切り出す。


いよいよ曖昧にしきっていた母禮と斎藤の未来(しんじつ)を。



「――で、沈姫。結局お前はどちらを選ぶよ? 俺様はとうに腹を決めてるからな。何言ったって構わないぜ?」


「……と言っても、沈姫がここで答えを出してもアンタは諦めないんだろう?」



高杉の言葉になぜか斎藤が横槍を入れる。


確かに「腹を決めた」といっても、高杉の性格を考えれば、チェスの盤を途中でひっくり返してしまう事もあり得なくはない。これはその危険性を考慮しての発言だ。すると高杉は不機嫌そうにこう返す。



「ネチネチうるせーなー……お前男なら器を広く持て。……の前に、どーよ、沈姫。 久々に母親と会って」



そして斎藤に対しての高杉の返答は無視。若干苦言を呈したものの、半ば無視であり、もはや高杉は急に母禮に久々の墓参りの感想を求めだした。


母禮はこの話の流れに少し驚く。


さっさと抱えた問題を解決しろと急かされるかと思っていたのに、こう聞かれ、逃げ道が出来た事にいやらしくも安堵する。そして両親が眠る墓を見てこう呟いた。



「そうだなぁ……まずはありがとう、かな。あの時きっと母さんが守ってくれたと勝手に思ってるの」



あのとき――斎藤と高杉が対峙したとき。正にあれは母禮にとっての奇跡だったのは間違いない。しかしそれだけでなく、スカイツリーから落下したとき、高杉が庇わなければ母禮はここに供養されている。


これも母である杏子が生前に、「娘を守って欲しい」と高杉に願った事も生き残れた理由だろう。


だから、両親が殺されたあの日に負った後悔の念を含みながらも、母禮は言う。



「じゃなきゃ私はあの時死んでた。だからそういった意味でのありがとうと、もう1つ」


「もう1つあんのか?」


「皆と出会わせてくれてありがとう。高杉さんを助けてくれてありがとう……って。高杉さんがあれだけの致命傷を負ってるのに生きてるのはきっと母さんが「生きろ」って言ったからだと思う」



高杉はその言葉を聞いて、目を見開く。


母禮が新撰組の人間や争いもあったが、高杉らと会えたのはあの大鳥敬禮の新撰組脱走が因果となっている。そして母禮はこの東京へ来て、様々なものを得た。


今や家族代わりとなる新撰組の隊員もそうだが、なにより高杉と出会えた事が母禮を強くした。


なによりあのとき死にかけた高杉が今生きているのは、魔術の加護よりも杏子が高杉に対し、強く「生きろ」と知ったしたからだと(もれい)は信じて疑わない。


高杉自身、そんな幻覚を見たわけではないが、きっとそれもあるかもしれないと思い返す。


そもそも杏子がいなければ高杉が母禮を知るはずもないし、高杉も大鳥杏子という女に巡り会う事もなかった。つまり、今の高杉灯影という人間は『いない』という訳である。


だからこそ今の自分を創り、そして変えてくれた親子(ふたり)には感謝してもしきれないのだ。


それらが脳内を逡巡した後、高杉は小さく笑う。



「違いねー。……で、話を元に戻そうぜ。自分の母親の前で誰を婿にするって決めるよ?」



高杉が母禮に問いかけた瞬間、母禮は墓前に向けていた顔を斎藤の方へと向ける。しかし母禮はなぜか俯いている。


たっぷりと数十秒置いても尚、俯いたままでいる母禮の様子を見て斎藤は母禮へと近寄り、彼女の顔を覗き込む。



「沈姫?」



そう名前を呼んだと同時に、斎藤の横っ腹に母禮からの蹴りが入った。しかも物凄く凄まじい勢いで、だ。あまりの痛みに腹を抑える斎藤に母禮は「馬鹿ッ」と突然彼を罵った。


ただ母禮はこの場に於いて遠慮する気はない。そしてここで自分の胸の内を全て曝け出さなければ、()()()は変われない。だからこそ遠慮なしに腹の奥底から声を絞り出す。



「義兄さんを殺されて憎かったのに、どうしても憎めなかった! でも今思い返せば、監視だと言っても、ずっと私を守ってくれていたから……ッ! 新撰組に来たときからずっと!」



母禮の言葉に、斎藤は思わず目を見開く。


母禮のすさまじい勢いに驚いたのもあるが、それ以上に彼はここに来てある事に気づく。それが自分はいつから母禮の事を守っていたかだ。


あの夜、母禮と初めて隊務の際に会ったときも、偶然とはいえ、斎藤は母禮を窮地の底から救い、その後土方の自室で母禮が暴走したときも同じだ。


斎藤は意識した事などなかったが、これらはなぜか自然と母禮の身を気遣っての事。あれだけ人間を嫌悪し、避けていたあの斎藤が。


何故そうしたのかといわれれば、斎藤には分からない。しかし、最初にあった「監視役」という関係が変わってしまったのは、紛れもなく敬禮粛清のときだ。


あれ以降、斎藤が自身の本心と犯した罪を母禮に打ち明けた瞬間から、2人は罪を裁く者と罰を受ける者へと変わってしまった。だがその関係もまたスカイツリーでの最終決戦のときに変わっていった。


斎藤は自身の意思で母禮を守ると決め、高杉に立ち向かった。ゆえに今、斎藤の胸中(なか)には母禮を1人の男として守る意思はとうにある。


母禮はそれら全てを分かっているからこそ、感謝を伝えたかった。


否、それよりも自身らがあんな歪な関係に堕ちた事を深く後悔しながら、胸に溜まった鉛を吐きだすべく、さらに声量をあげては言う。



「どんだけ憎んでも、免罪符だと言われても、貴方の免罪符となってから笑うようになったのが嬉しくて……でも高杉影踏に攫われた後に私をどう思っているのかうやむやにされた時は悔しくて……」


「沈姫、じゃあ俺の言い訳も知って……」


「忘れられる訳ないじゃない!」



斎藤の言い訳――それは、自身が裁かれる者だから、ではない。


確かに自身は母禮が最も忌み嫌った自身をあえて生かす事で、死ぬ事以上の苦しみを科す罰を受け入れるという事実(たてまえ)を受け入れた。


しかしそれは結局、なにもかも自分の気持ちから逃げるための盾だった。


母禮をどう想っているのか? 自分は何がしたいのか? この罰という人生の答えは?


それらの問いを投げ捨てた事さえも、母禮にとっては腹立たしい。ゆえに母禮の斎藤に対する怒りと想いはさらにヒートアップしていく。




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