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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
1.Down,dawn,dawn…
9/102

Day



 目の前で無惨に死んだ両親の姿を見た母禮。確かにあの日あの時に彼女も『呪い』を身に宿したが、母禮自身、己がどんな『呪い』を宿したのかすら分からない。


 だがどんな呪い(もの)を宿そうと、あの日心の奥底で願った事はただ1つ。



 絶対的な力を下さい。父と母を殺した者への報復と、殺され死した者への安寧を。

 


 報復であればきっと母禮は絶対的な力を秘めた『呪い』を得られただろうが、何となくそれは違っている様な気もしていて。どちらかというよりも、嘆いても仕方ないと諦めていたのだ。


 ならば大事な親に対して、魂の安寧を――だが、それは非現実的故に叶わない。


 彼らが生きているのならば回復など、誰かを癒す事も出来たかもしれない。だが、母禮が魂の安寧を願う者は当然だが、既に死している。故にこれも非現実的だから叶わない。


 では、一体どうすればいいのか?――その答えを出す人間は案外と近くににいた。



 今フランスでは、『地を這う蛇』といった名前の魔術結社が存在した。


 近年、第二次世界大戦時にナチスドイツが秘密裏に進めていた黒魔術や人類のサラブレットを生み出す優生学に始まり、考古学にローマ字の解読など様々な物が存在した。


 しかし更に歴史を遡れば、中世ヨーロッパでフランスやイギリスなどでは錬金術や魔術結社など珍しくもないありふれたものだった。


 それを現世で個人レベル、もしくは国自体で学び、新しく魔術結社を生み出す者もいる。


 だがその古代魔術結社の得意としていた術式を復興させたのが、近代魔術結社・『地を這う蛇』である。


 そのボスであるアマンテス=ディ=カリオストロは15歳という若さでありながら欧州で一と言われる『地を這う蛇』を設立し、多くの魔術師達を纏め上げた。


 噂によれば、かのアレッサンドロ=ディ=カリオストロという正に世界で指折りのペテン師――否、表に出た不条理の裏に隠された能力の高さを正しく受け継いだ者の末裔と知られているが、母禮と会ったのは本当に偶然の事。


 日本へお忍びで観光に会津に来たアマンテスだったが、途中で財布をスられた時にその犯人を母禮がとっ捕まえ、挙句に賠償金まで払わせた上で財布を取り戻してくれたという小さな借りがあった。


 だが、何か礼をさせてくれというアマンテスの言葉にノーと答える母禮。しかしその日は季節も冬であったし、日も暮れかけていたので一晩泊めてやろうと寧ろ更に提案を重ねる。


 借りばかり溜まるアマンテスだが、丁寧かつ親切な母禮をすっかり気に入り、その厚意に甘えさせてもらう事にした。その日の夕餉の席で思わず、母禮はこんな言葉を漏らした。



 「魔術師や錬金術師であれば、なんでもできそうだなぁ」と。 







 季節は冬で12月の事。


 財布をスラれたという少年・アマンテスの為に財布をスッた犯人を捕まえた時、母禮は酷く感謝された。


 格好からしてどこかの名家の御曹司ともいえるアマンテスだが、母禮も一応名家の令嬢だ。だが一応武術も嗜んだ故に、当然アマンテスよりも腕っぷしは立つ訳だ。


 しかしアマンテスもアマンテスで、態度自体に遠慮がない為、母禮の厚意を無下に断る事はしなかった。この時同居している敬禮は留守にしていたから、一応警戒はしていた最中だった。


 そしてその話は、嵐が去った後の一時のように、穏やかに2人で茶を飲んでいる最中の事だった。



「いや、助かった。現金だけでなく、カードも入っていたしな。おかげで手間が省けた」



 と暢気に笑うアマンテス。正直何故15歳の未成年がカードを持っているのかが不思議だが、それには敢てツッコまず、どこか安心しきった表情を浮かべる彼に「いやいや」と母禮は苦笑を返す。



「何、偶然みかけただけだよ。にしても会津へは何をしに来たんだ?」



 という問いに「それがな」とアマンテスは湯呑を置いては、深く溜息を吐いた。



「俺はとある欧州の魔術結社のボスなんだが、その仕事もあっていい加減疲れてだな。それで前々から気になっていた日本食と温泉を堪能したいと思ってここにきたのだ」



 母禮は一体魔術結社が如何なるものか分からないが故に首を傾げるが、アマンテスはそれを気に掛ける事もなく話を続けていく。


「ここは水も美味ければ景色もいいと下っぱから聞いてな」


「成程、それはあながち間違っていないな。……で、今宵の宿は決めたのか?」


「いや、それがこんなアクシデントに巻き込まれたからな。まだ決めていない」



「ふむ」と母禮は数秒悩み、「だったら」と提案した。



「おれの本屋敷に来るといい。温泉もあれば、晩飯も出そう」


「本当か?」



 母禮が最初にアマンテスを通した屋敷はあくまで、大鳥家本邸に繋がる別邸。奥にある本邸には何故か茶会を愉しむ為の庭や、温泉も設備されているのだ。


 まるで夢の様な話に対し、子供の様に目を輝かせるアマンテス。それに対し「いいぞ!」と胸を張った母禮。


 こうして食前に温泉に浸かり、夕餉の時間となって本邸にて2人で食卓を囲んでいる時だった。


 初めてみる日本食に目を奪われ、欧州で予習してきた「いただきます」という動作と言葉の後、煮物に箸をつけると、もぐもぐと口に含んでは嬉しそうに声を上げる。



「美味いな。向こうじゃ贋作ばかりだが差は天と地の差だよ」

「それはよかった」



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