Numerical inferiority-2
一方、東京スカイツリー内のある一室で『この世の希望』と『最後の希望』の戦いも幕を開けようとしていた。
互いに睨み合う母禮と高杉。
相手がどう動くか、その睨み合いが続く中、両者の膠着を破ったのは高杉の方だった。空中に粒子が浮かび、それらは閃光となって母禮へと向かう。
「ッ!」
母禮はギリギリの所で避けるが、避けたその先には瞬間移動をした高杉が待ち構えていた。
粒子型高速光線砲で母禮の身を穿てるならよし、それが外れたとしても、回避先を読んで相手が回避した先で待ち構えて、再度追撃。
これほどまで綺麗な筋書きを一瞬で実現し、十分に読んだからこそ追撃に放った回し蹴りは容赦なく母禮の即頭部へと入る。
つい数時間前までは母禮を「守る」といった高杉だが、今の彼に母禮への優しさなど感じない。
むしろ己の邪魔をするならば、徹底的に排除する――そういった意思を眼に含みながら、無様に床を転がる母禮を見下げた。
そして最後の通告、情として高杉は母禮へとこう告げる。
「本来なら俺様は、お前の母親の遺言通りお前を守らなければならない。戦う事は避けられないと思ってはいたが、できるだけ傷つけたくねーんだ。だから今からでも諦めろ」
「諦められるか……」
「諦めな」
母禮は諦めない――そういうのは、よもや高杉にとっても自明だった。
しかし、自明だったとしても、彼女は『最後の希望』だからこそ、せめて高杉は秘められた心の奥底では自身を救ってくれる事を望んでいた。
だが、母禮が高杉を救うなら、高杉は高杉灯影という存在を捨てるという事に他ならない。なぜなら2人の抱くものが真逆だからだ。
母禮は今の高杉灯影を否定し、彼自身に高杉灯影という男にある報復の塊を捨てて欲しいと願っている。
しかし高杉は高杉灯影という存在を肯定し、報復こそが全て。故にここまで歩んできた結果がある。
だから今の問い掛けと母禮への無惨な通告は彼が自分を落ちつけるものでもあった。
衝撃波が母禮目掛けて迫り、母禮は無様にもゴロゴロと床を転がる事で回避するが、また先程と同様に自身の横からのガン・ホーの振りおろしが迫る。間一髪ではあるが、母禮はなんとかそれを傾国の女で防ぐ。
「ぐッ……!」
「なぁ、お前は俺様の何が気に食わなかった?」
「何が、だって……?」
先程から容赦のない攻撃が止まない中、突然高杉は無意識にぽつりと呟いた。
その声音はなんでもなく、色も重さも思いもない。ただただ自問自答をするだけのようなそんな声音でこう続ける。
「俺様のやり方か? それとも何だ? この意思が邪魔とでも言うのか?」
「やり方、に決まっているでしょ……!」
母禮ははっきりと、高杉を睨みながらそう答える。
次の瞬間、床を這った状態から上へ飛ぶような形で、母禮は上体を無理に起こす。そしてそのまま身を捩っては蹴りを入れ姿勢を崩そうとするが、高杉は軽く後方へ飛び、距離を置かれては未だ自身が優位である事を見せつけられる。
「それで? 詳しくは何が気に入らなかった?」
「全てだ!」
相変わらず無色で無意味な問い掛けに、母禮は吼えるように答える。そしてそのまま高杉との距離を詰め、傾国の女を上段から振り降ろす。
「1人で戦って、もし勝ったとして母さんが笑うとでも言うの!? 今まで過ごしてきた仲間を見捨ててまで、そんな事をしても貴方は納得できるの!? 誰もいないこんな世界で!」
これこそ、母禮が高杉へと伝えたかった事。
数時間前から心の奥底にあったが、淀んでいて、全く形になかったもの。しかし突然始まったこの闘いで、母禮はある事を確信する。
それは今の高杉は力に溺れているという事実――否、高杉は力に溺れる事で自身にとっての現実から逃れようとしているという事。
国の為に、置いてきた仲間の為に、残された家族のために、そして杏子のためにという己の信念から。
今や死蝋を貼りつけたような冷たい表情の高杉は、ただ自分は決してそれに目を向ける事なく、また冷酷にこう告げた。
「黙れよ」
ガンッ、とガ・ホーの柄を床へと叩きつけると母禮の足元に魔法陣が描かれ、それは一気に赤く発光する。
そしてその瞬間、母禮は全身を焼き尽くされるような感覚に襲われる。現に焼かれる様な痛みに、あまりの苦しさに声を漏らす。
「がァアアああああああああああああああ!」
焼かれて哭く母禮の悲鳴を余所に、高杉は低い声で呟く。
「もう何も要らねー、仲間も力も何もかも。ようやく俺様が創りだす国に誰1人として有無は言わせねー。だからもう諦めろ。俺様はお前を傷つけたくは――……」
高杉が呟く中、母禮は魔方陣から抜け出し、また高杉との距離を詰めるために前へ進む。
距離を縮め、母禮は思い切り高杉の肩を傾国の女の柄で殴打する。すると高杉がバランスを崩し、その瞬間、そのまま母禮はと柄と刃を持ち変え、傾国の女を振り下ろそうとする。しかし高杉はそれよりも早くガン・ホーで母禮の横腹を斬りつける。
「づッ……」
「母禮ッ!」
大声がこの部屋に響き渡った瞬間、既に半壊した扉を地上から到着したアマンテスが開く。
(あれは……!)
母禮を斬り伏せ、静止していた高杉はアマンテスの声に「あ?」と怪訝そうな声と視線をアマンテスに向ける。だがアマンテスがまず目にしたのは、高杉の握る黄金の槍――ガン・ホーだった。
そして母禮の横腹を見た瞬間、アマンテスは高速詠唱を唱える。
「見下ろせよし神の子よ、ここに裁きを下せ!」
詠唱を唱えた瞬間、高杉を目掛け雷が降り下ろされるが、いつの間にかそこに高杉はおらず、アマンテスの背後に回り、そのままガン・ホーで右腕を斬り落とす。
「づッ……!」
「アマンテス!」
「気を付けろ、母禮! その槍で斬り裂かれれば、2度と傷口が塞がる事はない! 近接戦で戦えなどしない! 分かったら逃げろ!」
「へぇ、流石生粋の魔術師で『生命の樹』の魔術師100人を1人で相手しても生き残れる野郎だ。こんな短時間でよく分かったもんだな」
「……ある日バチカンから小さい槍だけ消えたと聞き、サーチしたが手掛かりなどなくてな、成程…傾国の女に誑かせたとは、な……」
アマンテスの言う通り、右腕が斬られた傷口からは夥しいほどの出血が床を赤く濡らす。そして警告を残してはショック症状で倒れるアマンテスを見て、高杉は不敵に笑う。




