Numerical inferiority-1
新撰組の本拠地と花園神社で行われた3戦は、新撰組の勝利にて終わった。
しかし、まだ戦争は終わらない。
残された『生命の樹』の頭領である高杉灯影討伐は未だ終わってなどいない。
そして高杉を救うべく、母禮とアマンテス、土方の3人はスカイツリーまで向かう。
いよいよ母禮は高杉の元へ辿りつき、最期の決戦が幕を開けようとしている。
「はぁ…ッ、はぁッ……」
場所は東京スカイツリー前。ガトリングガンを持った土方は全身が血塗れでも尚立っていた。
数多の銃創を負い、先程まで武器として扱っていたガトリングガンを支えにして。
土方は母禮とスカイツリーまで向かっていたのだが、やはりスカイツリー近隣まで来れば、『生命の樹』に所属する配下達はいるのは明白。
『生命の樹』に所属する人間はおよそ5000人弱。しかしさすがにそれだけの人数がこの場所にいる訳ではないが、それでも100人以上はいてもおかしくない。
と、これだけの銃創を負った土方本人が、それほどこの場の状況を把握する事など不可能だ。
なにせスカイツリーの膝元とはいえ、本拠地から数キロ近く離れたこの場所で、まるでドミノのように人員が配置されているのがここからでも分かる。
さらに、だ。障害物や周囲の建物にも伏兵は必ずいる。それら全てを考慮すると、100人は越えるかもしれないという見立ては間違っていないだろう。
(こんなところにこれだけの人数を配置させるなんて冗談じゃねぇぞ……)
土方は胸中でそう悪態を吐く。
例え土方が残りの新撰組の隊員を連れてきたとしても、その数は半分にも満たない。そもそもこの場には土方1人しかおらず、他の隊員は未だ到着していない。
どうみても無謀。死にに来たも同然。
故にこの場に下卑た哂いが広がるのも、無理のない話である。
「お前がかの新選組の土方か。だが、分かっているんだろう? そっちの残存兵力では我々に勝てないと」
土方がこの戦争において懸念していた事はいくつかある。
その9割は全て根城によって壊された訳だが、如何なる状況に陥っても、覆せないものが1つだけある。それが人数だ。
『生命の樹』の所属人数はおよそ5000人とかなりのものだ。しかし新撰組の実働部隊は100人前後。
予備隊を含めれば少しは膨れるが、それでも人数だけは『生命の樹』には敵わない。
いくら歴戦の猛者が揃っているとはいえ、『生命の樹』側も案山子ばかりではないのだ。
隊員への負担、圧倒的な戦力の差、こればかりはどうしようもない。
しかも根城の強襲によって、さらに動ける人数はかなり減らされた。
遊佐を始めに、比企や花村などが戦闘不能であり、精々使えるとしても斎藤の率いる3部隊辺りが唯一の生命線となるだろう。
新撰組は圧倒的に不利――その前置きを知ってか知らずか、土方の前に立ちふさがるドミノはこういう。まるで自身らが土方にとって手ごわい悪役かのように。
「しかし、知っていながらもお前らは俺達に挑んできた。その勇敢さは認めるが、あまりにも愚劣すぎるぞ」
いいや、こいつらの言いたい事はそうじゃない。
今この場で起きているのは、土方1人の無謀な行動である。だから彼らは「愚か」だと哂っているだけなのだ。
勇敢など馬鹿馬鹿しい――、土方はそう胸中で嘲笑えば、口角を上げては笑う。
「……るせーな。俺は新選組の代理とは言え“隊長”だ。いつも怯えて後ろで指揮してる訳じゃねェんだ。ここだからこそ俺は身を呈してでも戦う」
そう、彼はあくまでも今は新撰組の“隊長”
高杉ほどには及ばなくても、信念の強さなら、諦めの悪さなら、英雄狂いの酔い具合ならそれなりにある。
それが高杉灯影という希望が、自分達に残した唯一の意思だからこそ、決して曲げてはならない。
しかし、何も知らない第三者からみれば妄言に等しく、今の言葉が可笑しかったのか下卑た哂いはまだ止まない。むしろ今日一で盛大に飛び交っているぐらいに。
「何だそりゃ!? 全く、カッコいいねぇ!!」
「でも、奇跡など起こらない」と言いかけた瞬間だった。
「アンタらには分からないだろうな、この意味が。邪魔だ、どけ」
「え?」
暗く澱む闇に冷えた声がその場に響いた瞬間、土方の前にいた構成員達は身体の自由を失い、呆気ない声と共に地面へと落ちる。
土方の周囲を囲んでいたのはおよそ5人であったが、いつの間にか一緒に土方を哂っていたはずの者も既に等しく地面に倒れているのだ。そして、カキン、と乾いた音と共に男は刀を鞘へと収めた。
「……ったく、遅せぇんだよ。斎藤」
「それは悪い事をした。残りの隊員も到着しました。お下がりください」
今現在土方は時計など見れるはずもないが、確かに唯一全員生還している第3部隊は10分前にはこちらに到着している予定だった。
つまるところ、土方としてはたかが時間稼ぎのためにこうして身を呈した訳である。
無謀にも微弱でもこの場を切り開きたい気持ちもなかったとは否定できないが、それでも尚、この場を死守したのは母禮と斎藤の死守の為。土方は無事己の仕事をはたした。
斎藤に支えられ、土方は一度地面に下ろされる。すると一息吐いて斎藤を見上げてはこういった。
「……じゃあそうさせてもらうぜ。それとよ、斎藤」
「なんでしょう?」
「大鳥は随分と前に向こうに向かった。テメェもさっさと行け」
その言葉に頷く事もせずに、斎藤は土方を一瞥しそのまま走り出す。
すると斎藤の引き連れた第3部隊と他の部隊を合わせた20人近くが、土方を守るように彼を囲む形で『生命の樹』の構成員に向き合う。
そして土方は、この決戦において自分が下す命令を喉から振り絞る。
「……ったく。オイ!いいかテメェら! ここからが俺達の真価だ! やってやろうじゃねぇか!」
「応ッ!」
土方の指令に、残された隊員達は呼応し、それぞれ目の前にいる多すぎる敵へと向かう。しかし肝心の土方はこの場から腰を上げる事も儘ならない。
(最期ぐらいやってやらぁ……)
最後の力を振り絞って、そのまま立ち上がる。しかし立ち上がった瞬間に足がもつれ、また身体が地面へと吸いつくかのように崩れていく。だが、彼はこの場で確信した。
この少数鋭であの大人数を破る事は出来ないが、それでも自分達には『最後の希望』がいる。
それが自分達の希望で、今や強大な敵と化した高杉の元に辿りついたのは、先程一瞬空が光った事で知る事が出来た。
確かに母禮は危なっかしいところばかりだが、彼女ならばきっと高杉灯影を助けられる――そう信じるが故に無意識にこう呟く。
「ここは俺達の勝ちなんだよ、高杉」
「それは、この場を生き残ってから言え、阿呆」
崩れた土方の身体を咄嗟に支えたのは、先程数多の魔術師を相手取っていたアマンテスだった。
土方自身、この場を1人でどのくらい耐え忍んだかなど知るはずもないが、それでもすぐといえるほど生半可な時間でない事ぐらいは分かる。だからこそ、土方自身、珍しく状況の判断が出来ない。
「テメェ……アマンテス? そっちはどうなって……!」
しかしアマンテスは、どうといわんばかりに、鼻を「フン」と慣らしてはあっけからんと答えた。
「間違っても彼らは魔術師、謂わば俺の子供同然だ。今しばらくは森の中で仲良く寝ているさ」
「……その割には、結構苦労したらしいな」
「まぁな、手加減はしたつもりだが無傷とはいかなかったらしい」
アマンテスに目を遣れば、白いシャツの所々は裂け、血が滲んでいた。挙句には、腹部にも打撃痕のようなものがある。それでも彼はここに立っており、満身創痍の土方の背を叩くと、詠唱を唱える。
「何してんだ?」
「回復魔術だ。貴様はここで死ぬと勝手に人生の予定表に書いていたそうだが、いいのか? 高杉を殴る前に死んでも。それと今の俺の相棒は誰だったかね?」
「ハッ……よく言うぜ。俺はいい、さっさと大鳥んとこに行け。樹戸の言葉が本当なら、斎藤と大鳥だけじゃ手が足りねぇ」
「分かったよ」
土方を再び地面へと下ろし、アマンテスは1度地面を強く踏む。
そして、空中をまるで階段を昇るかのような動作で、上へと上がっていく。
現に彼自身、今空中へと移動系魔法を展開させ、それを母禮と高杉のいる高杉の自室まで繋げた。
タン、タンと単調に階段を昇る中、下に置いてきた相棒と、上にいる味方に対して、アマンテスはこう言う。
「黒豆の煮豆が食べたい。帰ったら、母禮にでも作ってもらおうか。美味いんだぞ? それまで死ぬなよ、阿呆」
お久しぶりです、織坂一です。
1年余の休載期間を得て、いよいよWill I change the Fate?の最終章の幕が上がりました。
休載の理由は完全に個人的理由なので省きますが、とにかくこの作品がどんな結末を迎えるのかに集中させてください。
また第一部であるこの作品が一通り連載し終わった後、第二部の修正も行います。
それにあたり、第二部へ向けての補足がいくつかあるので、それについてもこちらのページで後日談という形で掲載させていただきます。
何卒、織坂一を、そしてこのWIFシリーズをよろしくお願い致します。
織坂一




