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あの後ヘルメットを渡された母禮は、素直にヘルメットを受け取っては土方の後ろへと乗った。
まだバイクは小周りが利く為、大通りに出ても問題はなかった。否、それ以前に新撰組は警察機構であるから新宿から北千住に行く為のルートも多く知っている。
それ故に時速60キロの速度で走っても人目につきにくいのだが、春半ばが過ぎた生温い風が頬を撫でる。しかし母禮には1つ疑問があった。
何故指揮官である土方がここにいるのか。そもそもこの戦力差で、本当に勝ち目はあるのかと。
確かに根城を踏破し、樹戸と影踏も戦闘不能となった為、脅威は無くなった様に見えるがそれは違う。
あくまで新撰組側は、『生命の樹』側の切り札を踏破したにすぎず、まだ本命自体に辿り着いていない。
この先待ち構える最低でも1000人近くの構成員と、何よりまだ高杉が生きている。
彼は今、この東京を一瞬にして灰燼に帰すだけの力を有している訳だから、高杉をどうにかしない限り、この戦争は終わらない。
否、そもそも高杉を踏破した所で、あの魔法陣は解けるのかなど、まだ謎に満ち溢れた事ばかりだ。故に不安を含みながらヘルメット越しに「土方さん」と名前を呼ぶ。
「何故こんな所に……新選組の方はいいのか?」
何せ母禮の前に現れてから、あの後土方は「乗れ」と言っては強引にヘルメットを押し付けてきただけなのだ。確かにこれでは真意は読めない。
ただどこかいつもと違う軽い調子の声音が、どこか楽しさを感じる錯覚さえ起こさせた。すると今度はいつもと変わらぬ声で、「いいんだよ」とぶっきらぼうに呟き返す。
「新選組の方は予め指示は出しておいた。だがテメェそれを無視をした挙句、無謀に1人で挑もうとしやがって馬鹿が」
「否定しきれないな……」
よくよく考えれば、土方は自身の勝手で他人を振り回す真似はしない。
時々感情が迸る事もあるが、あくまでそれは仲間に対してなだけで、それ以外は至って常に冷静である。そんな彼の気性を考えれば、別段この独断行動は意外でも何でもない。
強いていうならば、土方も土方で戦わなければならない時が来たという訳だ。それ故に、本部の事や今後の指示は心残りがあるだろうが、それでも問題はない。
だから自分の勝手で動いた母禮が背後で苦笑する中で、「それとな」と土方は付け加える。
「俺も高杉の面が見たくなってよ。幾らどんな理由があろうと俺に仕事押し付けるならまだしも新撰組を見捨てやがって。だからぶん殴りにいくんだよ」
風貌は正に不良のソレだが、土方がまず人を殴る事はありえないと新撰組の隊員なら誰しもが知っている。だからこそあまりにも意外な言葉に、母禮は思わず目を見開く。
だがその真意は怒りではなく、恐らく母禮と同じく救済である事は確かなのだ。だからここにはいないが、同じ思いを抱えた男の胸の内すら土方は口にした。
「1番ぶん殴りたかっただろう花村は片腕しかねぇし、身体中の電流も上手く操作できないっつーなら、誰がアイツを殴るってんだ」
「土方さん……」
「それと上を見てみな」
「上?」
土方に言われるままに上へと視線を移せば、そこには空を翔けるアマンテスの姿があった。
アマンテスは、土方や母禮より遅く新撰組本部を出たが、ここまで来るのには最短ルートで駆け付けている。
何よりアマンテスは障害物のない空の上にいる為、その速度というのは思ったよりも早い。そしてそれよりも母禮が驚いたのは、土方がアマンテスなら来るだろうと信じていた事だ。
普段はどこか希薄さを感じさせる土方だが、今志を同じくするアマンテスの事を何より信じているのも嘘ではない。だからこそこんな指令さえ口にして見せた。
「魔術師はアイツに全部押し付けちまうが、あのガキだったらできるだろ。数じゃこっちが劣勢だろうが、俺も命を賭けてやる。今まで仲間らが命を賭けた分な」
「なら、大丈夫だな」
今この状況に於いて、これ以上に心強いものはないと母禮は思う。
遊佐は自分の居場所を守るために
花村は旧友と自身に誓った約束の為に
土方は親友と国を救う為に
立場は違えど、あくまでこの3人は、高杉灯影という男を救う為だけにプライドを賭けている。無論母禮も同じくだ。だからこそ、それを高杉本人に伝えなければならない。
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