impact
(くそッ!やはり交通手段は通用しないか)
一方、新撰組本部を出た後に母禮は移動手段に困難を悩まされていた。
新選組本部を抜け出しては駅へと走り出していた母禮だが、何せ土方の命令もなしに勝手に抜け出してきたものだからパトカーで向かう事が出来なかった。
否、そもそも新撰組本部で動けるのは20数人故に、パトカーの運転に人員を割ける訳もない。
最終手段として電車に期待するも、運営時間はとっくの前に終わっている上に、比企が指示を出したとはいえ、ここ新宿一帯はパニックに陥っている。
こうなるとこの足で北千住まで辿り着かなければならない――そう、悩んでいる最中だった。
突然、悩む母禮の前に止まったのは赤いバイク。当然心辺りもないし、そもそもヘルメットで誰の顔なのかさえ判別出来ない。
ましてや母禮は人混みを避ける為、裏道へと出た。当然ここ周辺に人溜まりはないから、余計に不審さと警戒しか増さない。
果たして乗っている人物は誰なのかと警戒していれば「よぉ」と声がヘルメットから曇った声が響く。
そしてヘルメットのゴーグルが上に上げられた瞬間、このバイクの持ち主が誰なのかが判明する。
「貴方は……!」
「乗りな、お嬢さん。夜道は危ねぇから送っていくぜ。場所は北千住の先でいいんだよな?」
普段ではあり得ない程の軽快な調子の声音。だがその目つきだけは普段とは変わらない。
茶色の鋭い双眸の下にあるクマと、重みを感じさせるその声は正に新撰組隊長代理の土方幹行その男であった。
◆
突如、ガタンッ、ガタンッと救護室のドアが何かにぶつかったかの様な物音を立てる。
それに気付いた救護班が、新しく運ばれてきた患者かと思い、ドアを開ければそこには真っ青な顔色をした遊佐を肩で担いだアマンテスがいた。
「ゆ、遊佐隊長!」
「先程マンションの側に避けられていた。幸い命に別状はないようだが、休ませてやってくれ」
「了解しました!」
そのまま遊佐は救護室の奥へと運ばれていくが、それを見た花村は、アマンテスに申し訳なさそうに手を軽く挙げた。
本来ならば花村が連れていく所だったが、今は軽快そうに見えるも彼もまた多大なる重傷を負っていたし、コネクトを体内に回収した後、1度意識を失った。
丁度生命装置の起動を樹戸が止めた為、間一髪ではあったが、花村に出来た事など本当に些細な事だ。
決死の力で誰もいない場所へと遊佐を運んだが、それが限界だった。
花村にとっては情けない話だが、自身の事を優先したが故に放置された遊佐を連れてきたアマンテスには感謝しかなかった。
遊佐を隊員に預け、アマンテスはふらふらとした足取りで玄関から出ようとした瞬間、花村が「アマンテス」と声を掛ける。
「お前さん、傷の方は大丈夫なのか?」
「ああ。右腕1本粉々にされたが、今回復魔術で幾分と蘇生している所だ。問題はない」
花村の問いに対して、アマンテスも別段彼を責める事はなく、淡々とした様子で答えた。
流石にあの闘いは正に死闘だったが、負った傷は大した事はない。何せ影踏の思惑ではあの後にアマンテスを嬲り殺す予定だったのだ。
あくまで影踏はその下準備をしていただけで、故にアマンテスも右腕のみ犠牲になった程度で済んだ。しかし鎖で縛られた為、身体の方もあまり健康的とは言いにくいのだが。
それを花村は嘘だとは思う事なく、どこか安堵したかの様に嘆息交じりにこう短く返す。
「そりゃあそうかい」
「……貴様はその怪我では行けそうになさそうだな」
一方花村もまた無残な姿のままであった。
右肩はかち割られたように切断され、一部義手を再生した箇所も焦げるだけでなく、体内の部品が折れたり潰れたりして破損している。
さらにはシンクロトロンの攻撃と、雷撃を浴びた為、全身の皮膚も夥しいものだ。
幸いなのは彼自身がサイボーグな為、パーツさえあればまた元通りになるという事だけ。どちらにせよ超人と対峙した人外は非常に幸運だった訳だ。
しかしだからといって、このままでは戦えるはずもない。少し早いリタイアにどこか不満気な様子でこう続ける。
「残念ながら、な。お前さんも早く行きな。先程負傷していない隊員に全員出動命令が下った、今丁度斎藤も出て行った所だよ。お前さんも母禮を救いたいんだったら、さっさと行ってこい」
「言われなくともいくさ。下は煩いから上しか方法はないがな」
確かに地上は正にパニック状態だったのは、アマンテスも知っている。何せ影踏との決戦後、途中で見えた人混みに苛立って、彼は先程言った様に空を飛んでここまできた。
空を飛ぶのは決して心地の良いものではなく、再びそうしなければならないのかと短く嘆息する。そして花村はそれに苦笑してはこう返す。
「撃ち落とされんなよ?」
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