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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
Overnight war
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mug-2



「何……?」



 分からない。斎藤には全く理解など出来ない。


 高杉(えいゆう)斎藤(じぶん)の差など。


 確かに樹戸の言う通りなのかもしれない。覚悟なければあらゆる困難を超える事は、更に難しくなるという理屈(あたりまえ)など。


 だが斎藤が分からないのは、覚悟の有無ではなく、覚悟という本質そのもの。


 18年間生きて来た中で彼が経験したのは、殺し殺されるという世界のみ。


 建前上仲間はいるが、別段彼らと勝利を誓った訳でもない。更にいうなら仲間の様に、守るべき友や警察官として民を守る事さえ理解出来ない。


 そう、斎藤所以という男は今までそう生きて来た。全てに対し、己以外誰も彼の意識に入る事など出来なかったのだ。


 樹戸はそれを勝手だと言い切った。樹戸が斎藤の送ってきた人生など知るはずもないが、それでも斎藤の言動や表情から、彼が今まで当然と思っていた勝手がよく見える。



「その勝手な貴様のエゴ。つまり殺してきた罪悪感に耐え切れず免罪符を求めるとは、その罪の重さを彼女に押し付けているのと変わらない」



 だから無理だと樹戸は言う。お前と高杉の覚悟の差は、彼女を救うかどうかだけだというのに。



「先程、影踏君が貴様に攻撃をして貴様は歯が立たなかったと聞いたが笑止。散々だが貴様に足りないのは腕ではなく覚悟の差だ。そんな腑抜けが今、灯影の前に奇跡的に立ったとしても10秒ももたんよ」



 故に大人しくしていろ、そう樹戸は吐き捨てては母禮の後を追うかの様にこの場を去った。


 しかしこの一連の流れを見ていた花村は、無力に座り込んだ斎藤を見て、「おい」とどこか怒りに震える声で斎藤の名を呼ぶ。



「本当か? 今の話は全て」


「……」



 花村自身も、斎藤が自分達に対して仲間意識を抱いているとは思っていない。だが母禮に対してだけ心を許していたのも、母禮の為だと思っていた。


 斎藤が自分らを大切にするかなど、正直どうでもいい。否、寧ろそんな事が出来るなど未来永劫思わない。そう、彼らはそれで良かった。だが、母禮だけは違う。


 だからこそ真実を知った今、花村は斎藤が許せない。故に喉奥から徐々に怒りが漏れ出し始める。



「お前はてめぇの為に、母禮を救おうとか考えてんのか?」


「……」


「黙ってねぇで答えろッ!お前それでも国を背負う新選組の第3部隊隊長かよッ!」



 いよいよ花村の不満が怒声で周囲に満ち渡る。残った左腕で斎藤の胸ぐらを掴み、ただ彼から真意を聞こうとする中、斎藤の唇からは掠れる声が漏れた。



「……言える訳がない」


「あ?」



 今にも消え入りそうな呟きだが、花村の怒りは収まらない。しかし、それでもと斎藤は言葉を紡ぐ。



「あの人と……沈姫と過ごしているだけで救われると、俺が笑えるとどうして言える?」



 小さく聞こえた隠された真意。確かに斎藤は母禮に救われたが、それを言う事は自ら禁じていた。


 それも何故なのか斎藤には上手く分からない。だが、言ってしまえば罪だけを背負って生きてきた斎藤所以(じぶん)が救われそうで怖かった。


 だから今まで心の内を打ち明けずにいた。母禮(かのじょ)に「ありがとう」などと言えば、余計な欲さえも掻きそうになる自分自身が、卑しく醜すぎて。



「確かに俺はあの男の言う通りあの人を利用しているだけなのかもしれない……だが、それでも俺の傍で、なんでもいいから笑ってて欲しいなどと言えるはずもないだろう……」



 きっと母禮は自身を許してくれない。それはあの時、人混みの中、彼女が斎藤自身に向けた視線が酷く訴え続けていた。


 しかし歪な関係になった後、何故か彼女は笑っていた。だがそれも結局斎藤を責める事に、目を逸らしていたのも感じ取っていたからこそ斎藤は口を噤んだ。


 これを聞いた花村自身、こんな斎藤を見たのは初めてであった。


 今の言葉で怒りが収まったかと言われれば否。しかしどこか胸の内で、別の熱い感情が湧き出ている事だけは理解していた。だからこそ斎藤の背中を思い切り叩いて、こう言った。



「お前何でそう思ってんならさっき言わなかった? お前、母禮に笑っていて欲しいなら何で母禮に直接言わねぇ? 女は変なとこ鋭い癖して、そういう所は鈍感なんだからちゃんと言ってやれ」



 すると花村は斎藤の腕を引っ張っては、無理矢理立たせ、その背を前へ突き飛ばす様に押してはこう言い切った。



母禮(あいつ)の笑顔を守る為に行ってこい、理由はそんだけで十分だ。国を救うだのなんだのっつー理由は俺らが背負うだけでいい」



 その言葉に思わず斎藤は目を見開くが、振り返る事だけはしなかった。


 これはきっと彼らが与えてくれた好機なのだ。例え自身がいくら仲間意識など持っていなくとも、ただ守るものの為ならば躊躇うな――そう強く訴えている気がしたのだ。


 だから斎藤もまた隊服の上着と刀を携帯すれば、母禮と樹戸の後を追う。


 今こそ、初めて大事な存在を守る為に、いよいよ彼は暗い空の下で1歩を踏み出した。



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