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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
1.Down,dawn,dawn…
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Consciousness ambiguity-2



 母禮が頷く事は、勿論土方には分かりきっている。故に先程の事態など無かったかの様に、土方はこの後の方針を下す。


「ならそれまではここにおいてやるよ。相似、適当に部屋を見繕ってやれ」


「別にいいけど、詳しいここの構図についての説明は明日でいいんですよね?」



 それにこの土方の自室の惨状もある。しかし何より今後の方針の事が大事であるし、方針が決まった以上、余計な時間など割きたくない。これが土方だけでなく、遊佐や斎藤の本音である。


 しかし噂によれば『新撰組』は基本女性の入隊を認めてはいないはず。男所帯であるからというのもあるだろうが、何せ前線で荒事に取り組む以上、女性が入る余地などあまりないだろう。


 あくまで母禮は状況提供者。荒事に立つ事を、土方は認めてはいないはずだ。


 土方当人、これ以上話す事はないのか遊佐を一瞥すると、今や荒れた部屋でデスクと書類だけでもどうにかしようとしている。



「ああ、今は適当に部屋に案内しろ。時間も時間だ。テメェらも部屋に戻ってさっさと休め」


「はーい。んじゃ行こっか、れいちゃん」


「あ、ああ……」



 そういって土方の部屋を3人は後にする訳だが、母禮は未だ落ち付けない。それも先程から、こちらを見ている斎藤の視線が原因である。


 はたしてその視線は先程の事が関与しているのか、それとも別の何かか――よく理解出来ないまま、母禮は遊佐の後に着いていく。しかしその刹那脳裏にとある疑念が過る。



 あの斎藤とかいう男が、()()()()()()



「れいちゃん?」



 全ては一瞬の出来事。ふと突然遊佐に名を呼ばれ、ハッと我に返ると母禮はこう返した。



「な、何だ?」


「ここ、階級によって部屋の位置とか関してくるんだけど、一応れいちゃんは捜査協力者だし、女の子でもあるから僕の隣の部屋でもいい?ちょっとばかし広いのが逆に難点だけど」


「そんなに広いのか?」


「うん、まぁね」



 そんな会話を交わしながら次にエレベーターが停止したのは20階であり、案内された部屋のドアノブを遊佐は掴んだ。



「後は自分の目で確かめてごらん」



 と言われ、玄関から部屋を見た先からもう広々とした空間が広がっていた。説明曰く、基本1LDKだが、下手すると普通のマンションより広いのではないであろうかと錯覚する程だ。


 キッチンや洗面台、シャワー室も設備され文句なしの部屋に対し、母禮のテンションは上がりに上がる様子に遊佐は「よかった、よかった」と笑う。



「監視役は所以さんだけど、なんか困った事があったらいつでも聞いてくれて構わないからね?」


「あ、ああ。助かる。よろしく頼むぞ、遊佐さん」


「嫌だなぁ、相似でいいよ。それじゃあ今日はゆっくりとお休み」



 相変わらず終始軽快に笑う遊佐。しかし彼も疲れているのか呼び方に対しては深く追求せず、手をひらひらと振りながらも、就寝の挨拶と共にすぐに部屋を後にした。


 ガチャリ、と無機質な音を立てて玄関の扉は閉まる。一応後ろを振り返り、誰もいないか確認した後に備え付けであるソファーに荷物を置いて、母禮は先程の事を考える。


 言うならば己の暴走と混乱。そして引き起こした惨状。それは母禮が大鳥家の人間だからこそ起きた現象だった。


 大鳥家は代々会津の地に身を構え、国の為に尽力し日本の政策の暗躍を担う一族だ。


 しかしそれはあくまで建前であり、世間から恐れられるのも今まで挙げてきた数え切れない偉業よりも、その絶対的な(れいがい)が原因である。


 まず1つ。大鳥の血を引く者は、例外なく『呪い』を背負わされる。これは民を憂い、民の為なんの理由があろうとも守り抜くという、謂わば天から賦与された力。


 2つ。その為、幼い頃から自身の持つ能力が決定(きめら)れる。これは各個人によって異なり、自身が願った事が大きく反映されるが、どれも現実的な物に限定される。


 例えば空を飛ぶなどという非現実的な願いは一切通用しない。あくまで人体に影響を及ぼさない範疇での反則技を持つ事が可能なのだ。


 そして3つ。だからこそ人の感情とは常に隣合わせで、主に負の感情を背合わされる事が多く、その大体を占めるのは支配欲である。


 それと比例するかの様に、大鳥家は家督相続で揉めたりする為、一時期はその負の連鎖が、殺害という手段で埋め尽くされていた。


 それを防ぐ為に、今は前当主が存命の内に予め次期当主を任命し、前当主が一生を終えるまでは副官として、見習いをする訳である。


 しかし、これらの事もあり、昔よりか負の感情の恐怖から遠ざかったとも言えるのだが、大鳥母禮だけは違った。


 彼女は10年前の6歳の時に両親を殺され、亡くしている。原因はなんなのかはさっぱりと分からなかった。


 何せ全てを守ろうとする者には、見える見えないの問題の垣根を超えて敵は多く存在するのが常だ。だからこそ犯人は分からない。


 母親に押入れの中に放り込まれ、目の前で父母の首が斬り落される光景を見た彼女は、あの日とてつもない恐怖に襲われると同時に多大なる『呪い』を身に宿してしまったのだ。



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