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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
Overnight war
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rainfall-2



「……そんなものは、やってみないと分からない」


「何?」



 僅かな沈黙の後に、母禮は小声でそう樹戸に反論する。


 確かに樹戸の言う事は正しく、現実的である。自分達が圧倒的に不利な状況は変わらず、恐らく母禮が高杉の前に立つ事すら叶わない。


 だが、それでもと。母禮は声を上げた。



「貴方みたいな科学一辺倒の現実主義者の戯言などどうでもいい!例え無謀だとしてもやってみなければ分からんのだ!それにおれには高杉灯影を救う理由がある!」



 そう、母禮は高杉灯影という男を救わなければならない。それは初めて出会い、言葉を交わしてからは決して揺るがない事実。


 亡き母への想いを背負い、仲間を裏切ってこの国に立ち向かった。


 寧ろ無謀と言うなら高杉の方で、彼自身様々なものを犠牲にし、踏みにじって今がある。


 決してそれは簡単に贖えるものではないし、許されない事も多くある。


 だがきっと高杉はそれさえも受け止め、彼の悲願が成就しても、高杉はきっと救われない。だからこそ母禮はこのままではいられないのだ。



「彼は言ったぞ。今は亡きおれの母の笑顔を見たさに国に挑んだと。そしてその母の不滅な思いと母が残したおれを守ると」



 今まで高杉が何をしてきたかなど、正直樹戸と新撰組の幹部しか知らないだろう。否、もしかしたら彼の苦痛を理解した人間は本当にいたのかさ、疑ってしまう。



「だから過去などどうでもいい。だが、こんな手を使って国を変えたとしても天国におる母は笑わない、そんな国でおれが……今ここにいる民が笑って過ごせるとは断じて思わない!」



 母禮は思うのだ。仮に可能性がなかったとしても、感情というものは数値にする事が出来ない。何故なら、時として感情によって人間は様々な事を成してしまうから。


 それこそ悪事だったり、高杉が先に傾国の女の能力を解放したのも然り。普通では成せない事も、精神が凌駕してしまえば、何が起こるのか誰にも分からないのだ。


 故に、数字だけが全てと論ずる樹戸などには分かるはずもない。そう母禮は糾弾するようにこう言い放った。



「だからこそおれは行くぞ。あの男を止める為に、救う為に。あの男の本当の笑顔を取り戻してくる」



 その母禮が本心を言い切った瞬間、対する樹戸は呆れた様に溜息を1つ漏らす。だが意外な事に母禮の肩を軽く叩いた。そして視線だけでこう伝える。


 “高杉灯影(やつ)を救えるのは、結局君だけだ”――と。


 そんな樹戸の行動に母禮は思わず目を見開くが、樹戸が託した言葉は本能でなんとなく理解はした。そうして傾国の女を持っては、そのまま走り出す。



 「おい!母禮ッ!」



 咄嗟に花村が母禮を止めるが、花村自身も重傷故に身体が上手く動かない故に、制止など出来なかった。


 そして花村の制止を聞く事などなく、母禮はエレベータに乗りこみ、そのまま本部の外へと向かっていく。


 しかしその様子を見て、斎藤も先程負った傷を押さえながら立ち上がる。



「ならば俺も共に行く」


「馬鹿言ってんじゃねぇぞ、斎藤!」



 更には母禮だけでなく、無謀に挑もうとする斎藤の胸ぐらを思い切り花村は掴み言いかかる。



「そんないつ開いてもおかしくねぇ傷幾つも抱えてる野郎が馬鹿言ってんじゃねぇ!今は土方さんの指示を――……」


「譲れないんだッ!」



 突然この場を割く叫び声は、この場にいる全員を黙らせた。目を丸くさせる花村や他の隊員を他所に、斎藤は喉奥から自身の決意を口にする。



「俺はあの人を救うと決めた……あの人は俺の免罪符だッ!俺を唯一殺せる人間だッ!そんな人をどうして救わずにいられると――……」



 そう斎藤は慟哭する。だがここで誰もが声を失ったのも、たった1つの言葉だった。


 斎藤が今口にしたのは、単なる己のエゴ。その勝手さに、そして何より母禮と築きあげた関係がそうなのだと納得した比企と花村がいた。


 しかし、誰しも口を出せない時だった。


 その刹那、ガンッという鈍い音がこの場に響く。まるでコンクリートに思い切り頭を叩きつけた様な鈍い音が。


 そして今起きた出来事もまた、現実的なものではない。何せあの樹戸が斎藤の側頭部を蹴り飛ばしたのだ。



「樹戸……アンタ……」



 斎藤の側頭部を目掛けた蹴足は重く、真剣な話、樹戸は全身全霊渾身の力で放った。それだけでなく、多少念動力の膜を張った為、正に大岩に思い切り頭を叩きつけたようなもの。


 あまりの威力に斎藤はその場に蹲るが、その様子を知らんと言わんばかりに冷たい瞳で樹戸は見下す。



「哀れだよ、本当に哀れどころかそれを通り越して呆れる。かの天下の斎藤所以という男がここまで安いとはな」



 本当に呆れる。手に負えない。そう樹戸は思う。そして何より樹戸が今情けないと思う事はたった1つ。



「私達『生命の樹』は、こんな安い依存なしでは生きれない男を危険視していたというのか。全く、笑わせる」



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