rainfall
「終わったぞ、樹戸さん」
「申し訳ないね、敵同士だというのに」
「いいじゃねぇか、敵だろうとなんだろうと。なぁ?」
「……土方さんはいい顔をしないだろうがな」
隊員達の治療の為に宛てがわれている部屋で、負傷した樹戸と花村の応急処置を終えた後に斎藤が呟くと同時に母禮は顔を伏せる。
根城と樹戸の敗退後、死者と負傷者の数が確認された。
死者32名、重軽傷者64名。全隊員の内の約7割を失い今の現状がある。恐らくこの後の『生命の樹』制圧に向かえる隊員はせいぜい20人が限界だろう。そんな中、部屋の外で慌ただしい足音に耳を傾ける。
「な、何だアレ……」
ぞろぞろと廊下やエントランスに出る隊員達の様子を見ようと全員部屋から出見てみれば、樹戸以外の全員が目を見開いては絶句する。
「空に、魔法陣……?」
「とうとう灯影が動き出したか。恐らくあいつは根城さんや私、影踏君が戦闘不能になった事を知っているんだろう。だからこそ動いた、全てを片付ける為に」
平隊員だけでなく、斎藤や花村の様な歴戦の猛者さえ息を呑んだ。だが唯一、樹戸だけが淡々と語る。
確かに、樹戸や根城は相当な強敵だった。現に今ここにいる負傷者や死亡が確認された隊員は、根城によって殺されている。
未だアマンテスの安否だけが不明だが、何故かやたらと今目の前に広がる現実が夥しい。
まるでこの世の終わりを告げる審判。否、この抗争は、悪夢はここから始まるのだと言うかの様に。それだけの力を高杉たった1人が有しているのだと言うなら、正直手立てはないに等しい。
しかし母禮は黙って、俯く。
「……」
「母禮?」
花村が押し黙る母禮に声を掛けると、母禮は部屋の壁に立てかけてあった傾国の女を手にする様子に対し、斎藤が慌てて口を挟んだ。
「行くのか?」
「当然だろう、おれだって新選組の一員だ」
「無謀すぎるよ、お嬢さん」
横から聞こえた声は、樹戸のものだった。無謀と冷淡に言いきった樹戸に顔を向ければ、樹戸は表情を変えずに無謀と言った理由を口にする。
何より今の状態がどんな状況であるか、高杉灯影がどういった状態にあるのかを。
「贋作とは言え、確かに同じシンボルであるそれを使えば、京都の開放した霊脈の流れを断ち切る事ができるかもしれない。ただそれは仮定の話であって、確証等どこにもない」
まず1つは、あの天に浮かぶ魔法陣が京都で解放した霊脈によるものだと樹戸は言い切る。
それは事実であるし、アレがある以上、高杉灯影はいつでもこの国を灰にするだけの力を有しているのも事実。
であればもうそれを断ち切るには、同じ血を引く贋作の力が必須となるが、どうしてもこれは曖昧すぎる。
だから更に脅威として言えるなら、と樹戸はこう付け加えた。
「それに先程私の外部スプリクトにエラーとハッキングされた痕跡が残っている。恐らく灯影は私が使える演算方法を全て自分自身にスプリクトさせた」
もう1つの脅威は樹戸の超能力の模倣。こればかりは広範囲に被害を及ばせるものではないが、高杉と対峙すれば免れない大きな脅威だ。
「完成度は私のに比べたら半減されるだろうが、今、唯一手の打てるであろう花村君は動けない」
そう、皮肉にも樹戸自身残りの2分は外部スプリクトからの演算で補っている。その為、彼が持つデータは全て本拠地である東京スカイツリーにあるスーパーコンピューターの中だ。
現にそれを高杉は盗んだのも、また事実。最後に樹戸は事の深刻さを指摘していく。
「それだけではない。向こうの兵力は新撰組の数倍であり、魔術師もいる。だがそれを対処するのにも兵力がいる」
要は残った20人だけでは、兵力に差があり過ぎると樹戸は事実を語る。そして何より魔術師がいるならば、あらゆる危機さえいつ顕現して襲ってきても可笑しくない。
「あのアマンテス=ディ=カリオストロが不在……いや、いたとしても彼1人で『生命の樹』の魔術師全てをいっぺんに相手できるはずもない。ここで君1人動いたとしても不可能だ」
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