triumphal return-2
しかし、これではスプリクトは不完全だし、高杉もまた樹戸程超能力者としての適性は高くない。
だがそれでも、影踏以上の適性評価はあったと審査はクリアした。そこは彼が天運に恵まれていたと言ってもいいだろう。
「これで一応簡単な事だけはできるか。ちと半分は自前でやるっつーのは痛いけどよ。魔術としては……コイツか」
そして見遣ったのは、部屋から出たときから手にしていた傾国の女。
あくまで樹戸から奪取した演算方法は、万が一の時の為の保険だ。寧ろ今この状況だと高杉が頼れるのは、この傾国の女しかない。
その最後に切り出すはずだった秘策を、握り締めては徐々に力を込めていく。
(これでいざという時に頼りにはならん……なら、やるしかねー……コイツを完全な形で動かす為にも)
そう、この傾国の女という魔剣には2つの顔がある。そのうちの1つの顔で、完全な形とされるのは、この傾国の女が隠し持つ最大の魔剣としての要素。
だがそれの召喚など言ってしまえば、如何なる術式を以ても無駄。故に傾国の女の真の姿を見た者は誰1人としていないとまで称された程。
しかし傾国の女を完全体で起こすには、ある方法で傾国の女を納得させなければならない。だからこそ高杉は握る右手の力を徐々に強めていく。
いよいよその力の入れ方は、正に傾国の女を握り潰さんとばかりに。そう、それこそ傾国の女のもう1つの顔を顕す為の儀式なのだ。
(俺様は決めてんだよ)
高杉灯影という男には、譲れない意志がある。そして何よりここに至るまで様々なものを犠牲にもしてきた。
本来施錠が甘いと言われる扉でも、普通に回し蹴りで壊せる事はないだろう。ましてやこの傾国の女を握り潰す事など、更にあり得ない話である。
しかしだからそれがなんだというのだろうか? 常識さえ覆せずただ従う事ならば、誰だって出来る。
今まで犠牲にしてきたもの、何より守り抜くべきの者の為に戦うのならば、今を超えなければならないのだ。
「俺様が……」
手の皮は摩擦でほぼ擦れて、肉が見えて更には肉さえ抉る。これぞ傾国の女の真の姿を見せる為の試練故、傾国の女が自ら意思を持って高杉を喰っているのだ。
その意志の強さと肉体の限界を、血の味で知る為だけに。そして、パキッ、パキッ、と白銀は除々に剥がれていく。
白銀は血に濡れ、赤く染まるもその中に隠された鈍色が嘲笑う様に、見え隠れしている。そしてその嗤いさえ覆すと、高杉は腹の底から決意を口にした。
「俺様が全てを守ると!その為にぶっ壊す!」
その刹那、バキッ、という音と共に完全に白銀は砕け、そこには黄金が輝いている。
「これだ」
黄金に聳えるソレは、蕾の形をした物で、またとある力の象徴。
名はガ・ホー。ケルトの伝説にでてくる英雄・ダーマットの持つ大小2本の槍の小を司ったものだ。
その真名は「黄槍」の意とされる物でマナナーン・マック・リールから貰ったもので、この槍で傷ついた者は回復できないと言われている。
これこそ傾国の女が魅せる『武』としての側面。
傷が癒えなくともひたすら吼えろと、そして自らを使役し、癒えぬ傷を万物に刻み込めと言う意識下によって姿を現す。
何より、英雄・ダーマットの如く優れた戦士であれ。然して彼の様に勝手を貫くな。それを守るのであれば、森羅万象全てを覆す恩恵を与えてやる――そう、ガ・ホーが黄金の下で笑う。
(これで全部揃った)
そう、これで全てが揃い、これでいよいよ新撰組に、否、日本という国を敵に回しても劣る事のない力さえ今ここに有したのだ。
傾国の女の破片を踏みつぶせば、足元に魔法陣が描かれ、部屋の天井どころかスカイツリーさえ打ち破って天に魔法陣を描く。
傾国の女による霊脈の操作に、超能力。そしてなにより、魔術を補う武具は全て揃った。
それだけではない。ガ・ホーが与えた絶対不回避の攻撃と、霊脈から流し込んだ魔力それらは天に描かれた魔法陣にある。これを発動させれば、恐らく東京は一瞬にして灰燼と化す。
故に普段力に溺れない高杉だが、この時得られた高揚感は、思わず彼を狂わし、喉奥から愉悦の笑みを溢す。
「ははは……ッ、はッ、これで俺様の勝ちだ。いくら5000の数を誇ろうとも、今ならばたった1人で全てをぶっ壊せる!」
高らかにそう叫んでは、更に声を上げ、最後の仕上げと言わんばかりに声をあげた。
「全員傾注!」
先程から慌ただしい命令のせいか、今にも来る最後の決戦の為に準備を進める部下へと高らかに告げる。
「今から雌雄を決する時がきた! 今だ、この機会を逃せばこの革命は成り立たない! 故に戦え、この一戦だけはもぎ取ってみせろッ!」
指導者の一言に歓喜を受けたか、多くの部下は拍手を送り、高杉を褒め称えた。まるで、本当にこの世の救世主であるかのように。そして今、時は来た。
「来いよ、野郎共。決戦の場所はここだ」
雌雄を決する最後の戦い。 勝った者こそが正義となる。
だから始めよう。狂った英傑と彼が残した剣の最後の足掻きを。
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