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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
Overnight war
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moment-2




「何?」


 そう短く呟いた瞬間に、何かが樹戸の胸を貫く。


 胸元へと視線を移せば、そこには花村の張ったコネクトが樹戸の胸元を貫通しており、幾分か遅れて喉奥から血が込みあげては吐いた。


 しかし先程の勝利宣言と、今の状況を見ても樹戸は一切表情を変えておらず、寧ろその顔には苦笑を浮かべていた。


 生命装置は確かに作動したはずなのに、花村には一切無効。だがその経緯も開発者である樹戸だからこそ分かり切っている。


 

「……まさか体温調節や脳の電気信号さえ改造してあるとはね……()()だとこれは通用しない」



 樹戸の言う生命装置のトリックはこうだ。


 1度人の体温を分子レベルで一気に血液を逆流させ、脳にショックをあたえると同時に体温をマイナスまで温度を下げる事によって対象は死を迎える。


 逆に生き返させる方法として脳で身体に電子信号を送る事が必要不可欠。


 そしてそこから脳内の熱量を引き上げ、視覚を使い促進させ、脳と視覚をリンクさせる事で成せたる。これが全てのトリックだ。


 ちなみに未だ仮死状態となっている場合も、視覚を使えば十分生き返させる事は可能でもある。



「これをまさか空中に撒き散らす事によって、特定の人物を殺すたぁ相当な技術だぜ」



 散々樹戸の攻撃に対し、苦渋を噛まされた花村だが、ここまできたらいよいよ感服するしかない。


 同じく科学を極めた者――否、それ以上にここまで狂えた同種として。


 無論樹戸は生身であり、心臓は避けたがそう回復出来る状態ではない。最早花村が足で頭を潰せば、呆気なく樹戸は死ぬ。



(嗚呼、本当に……)



 要は樹戸は負けたのだ。それこそ頭脳や能力の差ではなく、意志の強さの違いで。故に苦笑を浮かべたまま、掠れた声で小さく呟く。



「……私はここで退場(ようずみ)だ。さぁ、早く止めをさしたまえ」


「それはお断りだな」



 すると花村は、樹戸の胸に貫通したコネクトを一部展開させる。身体の内部で血管の損傷や細部に至るまで、樹脂でできたゴムでカバーして応急処置を施す。


 確かにこれは花村にとって、譲れない闘いだったのに違いない。それに花村も樹戸も命を懸けて戦った。


 しかし、花村は言う。これは殺し合いではないのだと。謂わばこれは男2人がある男の尊厳を守る為に命を懸けただけ。殺す事など花村は最初からする気などないのだ。


 だから樹戸に背を向けると、乱雑に頭を掻きながら伸びた声音でこう返す。



「結局俺()甘いんだよな。何にせよ、お前もアイツの側で国に喧嘩を売ろうとした大馬鹿野郎だ。高杉(アイツ)がお前を救わないなら俺が救ってやる」



 そうして花村は、自分らの闘いを見守っていた母禮を視界に入れると、小さく笑みを返す。そして最後に樹戸へこう言い残す。



「まぁせいぜい今度は国家転覆とかじゃなく、人の為にその知恵を(ふる)えよ、天才」



 一方樹戸は先程から続く甘過ぎる処置に、言葉を失っていた。


 負けを想定していた訳ではないが、仮に敗北したとなればいよいよ高杉に合わせる顔もない。何よりこうも固い友情という結束(みち)を魅せられても、現実主義者の樹戸には分かるはずもない。


 だからこそ、今は素直にただ今の闘いについて、こう述べた。



「……君は灯影がヒーローであるように言っていたが、君自身十分その資格はあるんじゃないのかな?」


「さぁな。おい、母禮。コイツの応急処置も頼むわ。コイツがある以上、相似の様子は俺にでも戻せそうだからな。先に行ってろ」



 樹戸の言葉が聞こえていたのか、花村は軽くそれすら流していく。もし自分にヒーローの素質があったとしても、まだ守るべき仲間達全員の帰還を果たしていないのだ。


 しかしその身に負った傷は尋常ではない。故に花村もここでリタイアなのだが、別段腹の虫の居心地は悪くないし、何より花村もまた自分達の勝利を信じている。


 だが、母禮だけは違う。確かに根城と樹戸という強敵は踏破した。だが遊佐が助かる見込みも嘘臭いと言う。何よりアマンテスが相手をしているのは、あの影踏なのだ。


 彼らを疑いたくなどないし、まだ信じきれない自分が嫌になるが、ここで自己嫌悪に陥っても仕方ないと軋轢している。そしてその不安はすんなりと口から零れた。



「まだアマンテスが見つかってないのだ!」


「あのガキなら大丈夫だろ」


「え?」



 あっけからんとした普段の花村の様子に、母禮は頭から冷水でもかけられたかの心地になる。だがそれは決して裏切りや諦めからなどではない。



「相手してるガキももうとっくにやられてるらしいし、もし生きていたとしても欧州一の魔術結社とやらのボスの実力はそんなにも安いモンなのか?」


「いや……それは……」



 そう、花村は心の内から信じていたのだ。別段仲が良い訳でもないアマンテスさえも。


 何より樹戸の演算補助が受けられず、キャパシティオーバーになったと樹戸も言っていたし、更には「彼の脳は限界だろう」とまで言った。これはある種の敗北宣言の様なものだ。


 だからこそ、花村は母禮の頭をポン、と叩く。



「だったら信じろ。絶対に戻ってくるってな」


 そのままクシャッと頭を撫で、微笑む様子に母禮も笑って。



「ああ、信じるよ」



 そしてここで科学の結晶とサイボーグの決闘は、ここで幕を閉じた。



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