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一方、新選組の本拠地の近くで、母禮は突然消えた花村とアマンテスを探しに本部を飛び出ていた。
先程聞こえた爆発音からして、花村が先程遊佐と根城が闘っていた場所の近くにいるのは確かだと少し離れた路上へと出た瞬間だった。
頼む、生きていてくれ――そう強く思いながら走る中、顔をあげたその時だった。
そこには倒れ意識を失った遊佐の姿と、サイボーグとしての姿を見せる花村に樹戸が対峙している。
「遊佐さんッ!花村さんッ!」
母禮は必至に大声で叫ぶも、その声は届かない。例え聞こえていたとしても、彼らには聞こえない。何せ母禮がいる場所と、彼らが全てを懸けて闘う場所は隔絶されているから。
物理的な意味では決してないが、母禮があの空間に相入れる事など出来やしない。何故なら彼らの意思と母禮の意志は違うから。
この場に1人取り残されたままの母禮は、そのままその光景を見ている事しか出来なかった。
そして、その刹那にショートした電流が、甲高い音を立ててこの一帯に走る。
◆
こんな泥沼の戦闘の中、花村は思い出す。遠いある夏の日の事を。
時は数年前。暑い中冷房の効かない部屋を抜け出し、マンションのロビーで比企に頼んで作ってもらったかき氷を片手に、高杉と花村はこの暑さに項垂れていた。
気休め変わりの団扇で生温い風を仰ぎながら、2人して「あちぃなー……」なんて声を漏らす。
「こんな時、某猫型ロボットだったら何か得してそうじゃねぇ?」
「そりゃ違ぇねー……」
架空の存在を羨むも、自分達は人間。故にこの過酷な現実からは逃げられない。ならばせめて仲間が見かねて作ってくれたかき氷に縋ろうと、高杉は乱雑にかき氷をかき混ぜた。
「なぁ、高杉」
「ん?」
そんな中、花村は高杉へと言葉を投げる。正直今はこのすぐに溶けてしまう氷の城をなんとかせねばと戦っている為、花村には視線を向けずにいた。すると花村は真剣な声音でこう問い掛ける。
「そういやお前さ、惚れた女の為に新選組の頭やってんだよな?」
「あー……まぁ、間違っちゃいねーよ。それがどーした?」
「ん?クサイ上にカッコイーとか思ってよ」
「なんだよそれ、馬鹿にしてんのか?」
高杉が杏子の意思を継ぎ、新撰組の設立や現在組織として率いる理由は、今から3年前に酒の席で花村に話した事がある。
あの時は喧嘩をしやさぐれた花村に対し、少しは自制しろという意味も込めて話したという。
例え如何なる状況であろうと、守る何かがあれば、人は獣にならずに済むのだ――と高杉はこの話の後にこうつけ加えた。どうやらこの話は色んな意味で花村の中に残っていたらしい。
しかし叱責を兼ねたというのに、こんな軽い調子で言われれば気分も悪くなる。だがどうせ出来の悪い舎弟のちょっかいだと悪態を吐いては、今度は高杉が自制するも、何故か漏れたのは弱音だった。
「……だが、やっぱそう簡単にいかねーよ。疲れるし、めげそうになる事もある」
「お前でもめげる事なんてあんのかよ?しっかしいいねぇ、そんな守れる大事な何かがあって」
何せもう杏子はこの世にはいないのだ。だから、彼女が常に生徒に掛けていた叱責はもう過去のものでしかない。
なんならいっそ過去に耽らせてくれとも思うが、そうはいかない。否、そうはさせないと高杉は憂いを呑むとこう返す。
「お前にはないのか?」
「生憎だがそんなモンはねぇ」
確かに常にやんちゃばかりで、友人は多けれど自制心がなく危なっかしい彼が、何かを守るだなんて考える事などないだろう。何せ彼は今まで守られる立場にしかなかったのだから。
しかしそう辛辣に返してしまえば、花村はきっと煩いだろう。だから高杉は軽くこう返す。
「ふーん……まぁできたら教えろよ? ヒーロー志望さんよ」
――きっと、数年前のこの思い出にはこんな意味があったのだろう、花村は今にしてそう思い小さく自嘲する。
(守るモンなんて、もう記憶の彼方に飛んじまったけどな)
まだ人間だったあの頃。まだ守られるばかりだった自分の立場。だが高杉との離別で残されたのは、悔恨のみ。
しかし現実に生きている以上、夢には生きれない。そう言った葛藤に花村は長く悩まされたが、結局それを払拭出来た頃には、自分には譲れないものや守るべきものがあった。
それは仲間だったり、友人だったり。いつの間にか高杉の様に兄らしくなった自分を別に誇らしくなど思わないし、彼の中で何かが変わる訳でもない。
今は今。だから、今だけはこの戦場を乗り切らなければ、先には進めないからこそ宣言する。
「かかってこいよ、お前さんのその能力全て打ち返してやるから」
「戯言を!」
電流が樹戸の元に降りかかる前に、白衣から取り出されたスマートフォンが操作され、花村は心臓に鋭い痛みを覚える。
カシャン、ピーッ、カチカチ……と色んな箇所から不吉な音が響くも花村は笑ったまま樹戸へと宣言した。
「俺の勝ちだ、クソったれ」
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