Scale-2
そう、花村は知っていたのだ。あの高杉灯影が失踪した真の理由を。
親友として、戦友として悩み続け、葛藤に苛まれる高杉の本当の思いを。彼が失踪する何年も前から、ずっと。
だからこそその葛藤は、決意は高杉だけのものではないのだと、花村だけはいつも傍で真剣に向き合っていたのだ。だからこそ声を振り絞っては、彼の決意を語る。
「アイツは1人の女の笑顔を守る為だけにこのふざけた国にたった1人で喧嘩売ったんだよ。一から全て始めて、ここまで登り詰めてきたアイツの苦労と覚悟はそう安いモンじゃねぇ」
「……ほう?」
花村の慟哭に対し、何故かこの時感情論や情さえ掛けない樹戸は大人しく話を聞いていた。
そこに何の意思や目的があるか定かではないし、花村もそこは追求はしない。否、寧ろ追求する気力もなければ、今彼が重要視しているのは高杉の思いについてだ。
例え長い仲であろうと、ただの部下であった樹戸にはきっと分からない。だからこそ教えてやるのだ。
「だからだ、だから俺らの誰か1人がアイツの覚悟を分かってやらねぇで、何が親友だって呼べんだよ!俺の守りたいモンはたった1つだ!俺がサイボーグになったのもたった1つの理由だ!」
しかし、それで? と樹戸は胸の内でそう急かす。決して口にはしていないのに、この時だけは花村は樹戸の催促が聞こえているかの様な気がした。だから答える。
「ダチを救うつもりなら俺はいくらでもやってやる!例え敵同士となってもそれだけは変わらねぇんだ!お前には分からねぇだろうが、アイツは今でも悩んでいる」
悩む? あいつが? 馬鹿を言え、奴は悩んでいるのではなく、狂っているのだ。
自身を壊した全てに、自身が捨てて来たものに、英雄として、兄として、友として、仇敵として自分を取り巻く森羅万象全てに対して。
そう樹戸は呟くも、この言葉だけは通じる事はなかった。だが、それで構わない。そして呼吸を整え、重く、深く、花村は再び決意する。
「だったら俺が命を懸けてでも止めてやる、今のお前のやり方は間違ってるってな」
だからこそ花村自身も、元あった花村密を自ら葬った。何せ人間という脆い器では、彼を荒波から守ってはやれないから。
幾ら頭が切れようとも、高杉は決して腕っぷしに覚えがある訳ではないし、ああ見えて未だ不完全なのだ。他人には見せないが、繊細で、時には涙脆くて。
全てをひっくるめた高杉灯影という男の肖像――無論、彼の英雄気質さなど、花村だけでなく、新撰組の隊員なら全員が知っている。故に、花村の中での後悔は勿論あった。
「英雄気質が狂気になった仇なら、あの時力になれなかった俺らを恨んでもいい。それでも絶対に俺はアイツが帰ってくるのを待ってるさ」
だから、何でもいい、いつになってもいいからいつかは帰って来い。そう今も尚思っているから。
「これが俺のッ、花村密が決めた全ての真実だッ!」
自らを奮い立たせるかのように花村は慟哭する。嘗ての友の辛さを背負えなかった罪をここで贖うが為に。それが今だと確信しているのだ。
だからこそ譲れない。遊佐や今いる隊員だけではなく、今はいない友の為にも。
そして樹戸は大人しくそれら全てを聞き届けていた。花村の決意を聞いた今、ただ残された問いは1つだけ。それを花村へと切り出す。
「……それは結構な事だ。だが、今の君に勝算はあるとでも?」
「あるに決まってんだろ」
ガシャコンッ、と再び左腕の義手を動かし、先程接続させた義手を左腕に組み込み強化させる。
「俺だって馬鹿じゃねぇんだ。いくら幾百、幾千、幾億の演算をこなす脳を持ってる奴相手でも負ける気はしねぇよ。足元、よく見てみな」
「何?」
そう言われ、足元を見ればそこにはバラバラになり焼け焦げた花村の右腕があり、まさかと樹戸は悟った。
「今の俺でもこの腕を使えば、さっきのお前さんのシンクロトロンの代わりぐらいは使えるんだぜ?」
瞬間、バチッ、と不吉な音が立てては千切た腕は爆発し、そのまま花村は前へと走り出す。
「いくらお前が科学を極めようと――」
強化させた左腕を思い切り樹戸へと振りかざして、そのまま樹戸へと拳を打ち込む。
「人間である以上、負ける気がしねぇんだよッ!」
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