equivocalness
ドゴォッ、と突如響く轟音にアマンテスは一瞬だけ、轟音のした方向へと視線を向ける。すると目の前にいる影踏はアマンテスへと言葉を投げかけた。
「そこまで仲間が心配?」
「ふん、別に仲間ではないがな。しかし、向こうにいるのが本当に多数であるならば幾分か苦戦しそうだ。だから5分で片付けてやろう」
「上等だよ。科学と魔術の混合っていうのを見せてやる」
そう互いに啖呵を切りあった瞬間だった。次の瞬間、暗闇に包まれたこの場の情景が一気に変わり、青い空が黒を呑んだ。
第一手を打ってきたのは影踏の方で、今のこの怪奇現象も魔術によるものに他ならない。だからこそアマンテスは今打たれた手に、軽く舌を打った。
先手を打った上に影踏が展開したのは幻覚系魔術。しかしこの術式自体に特にこれといった作用はない。精々錯覚を招いた直後に次に仕留める為の餌。
北欧神話に登場する5感を司る神による幻覚作用。故に今、確実にアマンテスの5感は一瞬にて封殺された。
(だが、次の術式展開までそう時間がない)
そう、殺傷能力こそ無いしフェイクであるが、これの本命は次の攻撃手段を読ませない事が第一である。
果たして次はどんな術式を展開するか。それとも超能力を使用して攻撃を測るのかと考えたらキリがない。
だがアマンテスの読みが正しければ、後方に控えられた本命の攻撃が発動するまで後、6秒。
「A_K_E」
アマンテスが高速で詠唱を唱える。対抗策として打ったのが、ルーン文字を使用した相手の術式解除の詠唱である。
そのためアマンテスの術式が作用し、仮初の光景はバキンッと音を立てて崩れるが、そのまま鍍金を剥がされた光源の球体は光線を放つ。
「ふん」
意とも介さずそのまま杖を振り、召喚した精霊に先導させ、光線の軌道を捻じ曲げる。
それだけでなく、影踏へとゆっくりと歩み寄れば、アマンテスの背後から数多のナイフが顕現され、それは確実に影踏の身体を貫いた。
「ッ!?」
影踏も襲いかかるナイフを防ごうとするが、断然アマンテスの方が速い。瞬時に盾の魔法陣を描くも、やはり完全な回避などとは行かず、身体の所々にナイフは突き刺さる。
ここまで見れば、圧倒的にアマンテスの方が有利。だからこそアマンテスは影踏へこう投げかけた。
「どうしたよ、軍神。このまま俺の攻撃を受け続けるつもりか?」
「まさか」
しかし対する影踏は、ニタ、と不気味に口角を釣りあげて笑う。次の瞬間アマンテスの首元、頭部、腹部を狙い光線が走ると同時に辺りが炎上する。
(ムスペルヘイムと粒子型高速光線砲だと!?)
影踏が今展開させたのは、地獄の釜であるムスペルヘイムの顕現と、粒子型高速光線砲の2つ。いよいよ魔術と超能力が掛け合わされた攻撃は、アマンテスに襲いかかる。
「ニュンヘー!」
再び高速詠唱を唱え、盾として妖精を使役し森を形成させるが、些か不完全な状態で半分は粒子型高速光線砲で消し飛び、ムスペルヘイムによって焼かれた。
火に対し植物で対抗するなど愚の骨頂だが、先程からアマンテスは妖精を使役したりルーン文字を使用して戦っている。
これも数多に系統の違う術式を立て続けに使役出来ないからこその弱点で、それを愚かだと嘲笑う様に影踏が嗤う。
「生粋の魔術師なのに、こんな基礎的な事も分からないのか?」
「何だと?」
影踏の言葉に、眉を顰めアマンテスが反応する中で変わらず影踏はこう返す。
「軍神テュールはかの凶獣フェンリルを討伐する際に片腕を食われた。つまりお前が俺にナイフを浴びせた時点で俺は自分自身の血液を失う事によってようやく軍神としての能力を慄える」
そう、彼が先程言った『セフィロトの軍神』とはこの軍神テュールの術式を扱う事に起因した呼び名だ。
つまり影踏は挑発を誘い、態と攻撃をその身に受けたのだ。全ては自分の得意とする術式を展開させる為だけに。
「つまり、ここからが軍神の本領だ」
「抜かせ!」
先程顕現させた森の焼けた部分から具現した蔓を影踏へと向けるが、それはいとも容易く影踏の血液に触れた事で蒸発した。
影踏もアマンテスが森の焼け跡から蔓を具現した瞬間に、血によって盾を描き、それは広範囲で影踏への攻撃を防ごうと作用する。
そして地面から出でた鎖もまた、軍神の命令に従うといわんばかりに凶獣を縛るが如く、アマンテスへと放たれた。
アマンテスはなんとかその鎖を回避するも、空気が頬を掠ったと同時に衝撃波が襲ってくる。
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