Mudslinging-3
こいつ、と緩やかに死に向かう遊佐は一瞬で確信を持つ。彼は最初からこの戦いを見ていたのだと。しかも気配を感じさせる事など微塵もなく。
遊佐が戦闘に気を向けていたのもあるが、そもそも樹戸は比企が戦線を離脱した頃からこのやり取りを見ていた。
つまり、遊佐がこの場に来る前に樹戸はいた訳だ。だがそれでも尚、遊佐だけでなく、斎藤や母禮、比企さえも気付かなかった。
あくまで彼は非戦闘員と見ていたのが、新撰組の落ち度。そしてこんな、残酷な場面で怜悧さすら感じさせない淡白な声音でこう遊佐へと呟く。
「それでは、さようなら」
今、ここで遊佐相似の命が終わる――そんな時、樹戸は何かを感じ取ったのか、その場から半歩横へと飛び退いた。
次の瞬間、電流が樹戸のいた場所へと流れ、同時に飄々とした声がこの場に響く。
「勘がいいな、お前さん。……ったく、南條のヤツもデマ掴んでんじゃねぇよ」
そこに現れたのは巨体。飄々とした様子で仲間の文句を言うも、そこに不機嫌さは一切感じさせない。
そして樹戸も同時に何かを感じ取ったのか、この巨体から距離を取るが巨体からの追撃はない。代わりにこう樹戸へと問い掛けた。
「で?お前があの樹戸榊であってるよな?」
「……君は?」
「新選組第8部隊隊長、花村密。ちょっとその偉大な生命装置を直接この目で見たくてな。……まぁ、前置きはここまででいい」
この場に現れたのは花村で、彼は上機嫌な様子で距離を置く樹戸へ対し笑う。
よくもまぁ自身の攻撃を避けたと。何より花村からの宣戦布告をこうも素直に堂々と受け取ってくれたと。
そして同時に、先程まで仲間の死体を蹴っていた男にも、そこそこの情はあって安心したとでも言う様に。ここで彼はこう宣言する。
「勝負しねぇか?人間とオリジナルの根比べってのをよ」
◆
「さて、ここらで平気か?」
一方、新選組の本拠地から出たアマンテスは1人の男に対して声を掛ける。アマンテスもまた花村と同時に新撰組本部を抜け、このとある神社まで来ていた。
場所は新宿の総鎮守と呼ばれる花園神社。暗闇の中、鳥居を潜り境内前まで進んでは立ち止まった。
「全く、苦労させられるな……ただ1人の構成員の尻拭いをさせられるとは。随分な重役出勤ぶりだ」
出てこい、というかの様にこの場にいるもう1人に言葉を投げかければ、ようやく彼は闇の中から姿を現す。
「本当に。樹戸さんなんて胃薬を飲んでから向こうに行った程だ、それにお前らも随分と計画を滅茶苦茶にして……兄さんは笑ってた」
夜闇から出て来たのは高杉影踏。彼もまた根城の独断行動の後に、東京スカイツリーからわざわざこの花園神社へと、実の兄である高杉の命令により出向いていた。
勿論互いにこの場所で落ち合う約束などしてはいない。しかしそれでも奴ならば――とまるで互いが長い因縁であるかの様に、ここに示し合わせたのだ。
影踏の口から出された言葉は冗談かは不明だが、嘲笑うかの様にアマンテスはこう吐き捨てた。
「貴様らのボスは中々気が長いらしいな」
「まさか。もしそうならこうする事はないだろ?」
そう影踏が呟いた瞬間、アマンテスの周囲全体が爆音と共に一気に破壊される。無論、無残にもどれもアマンテス以外原型など留めていない。
そしてアマンテスは怖気づく訳でもなく、「ほう」と感嘆を漏らしながら未知の現象にこう返す。
「それが例の粒子型高速光線砲か。成程、威力は思ったよりあるんだな」
「これで消し炭にされたいならそうするけど、どうする?」
「馬鹿を言え」
いつの間にかアマンテスはその手に杖を顕現させると、軽く振っては影踏の背後で大爆発を起こさせる。
対する影踏もまた動じる事はないが、アマンテスは高らかにこう言い放った。
「科学か魔術か好きな方を選ぶといい、俺はどちらでも構わないがな。何せ両方ともイレギュラーな物に変わりはない」
アマンテスには超能力が超人錬成だとか、演算が必要になるだとか、魔術と紙一重なのだという事はどうでもいい。
彼にとって大事なのは、現実で叶わないなら空想をぶつける。その為ならば、方法や手段の根源となるものが何であろうと使うのみ。
「まぁ魔術で俺に挑んでも適うはずもないだろう。欧州一の魔術結社『地を這う蛇』の長にはな」
「お前が噂の魔術師、アマンテス・ディ・カリオストロか。けれどもセフィロトの軍神を嘗めるな、お子様」
そして影踏もまたアマンテスと同じである。これは勝つか負けるか、死ぬか生きるかのどちらでしかないのだ。
生命を操る根源と人間の異端。生粋の魔術師とセフィロトの軍神。
遠く離れた地で起きた2つの戦いは今、動き出す。
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