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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
1.Down,dawn,dawn…
6/102

The worst fact-2



 あれ程国を思い、わざわざ単身東京まで下っては掟の為に戦うと告げた(かれ)はとても優しく、人を殺すどころか虫さえ殺せない程、優しい心根の持ち主だった。


 それだというのに何故そんな兄が妹と自ら決めた信条を裏切ってまで大量に死者を出すのか。それが母禮には信じられなかった。



「馬鹿な……」


 全てはこの血の宿命と国の為――これが大鳥家(われわれ)の信条で絶対的なルール。だというのに、(かれ)はこうも軽々とそれを裏切った。



「現当主が『大鳥』の掟を破り逃げるのか……?」


「ん?よくわかんないけど、まぁそうなんじゃない?逃げたって事は。…あ、お饅頭食べる?」


(嘘だ)


 そんな、と彼の裏切りへの対してのショックは大きい。だがそれ以上に、何故かあの清廉で美しかった(あのひと)が酷く汚わらしく見えて仕方ない。


 汚い、気持ち悪い、こんな醜悪な(じじつ)を突きつけるあんな人など。



「此ノ身ニ宿ル血ノ宿命ハ絶対ノ掟」



 何処からか、母禮と全く同じ声をした何かの意思が、母禮の脳内に蜂蜜でも流しこむかの様に流れていく。



「まぁ、こうなったからはテメェに逃げられるとコチラは困るんだ」


(ああ)



 最早、自身(のうない)の声以外は全く聞こえない。遊佐が、土方が何かを言っているようだが、そんな雑音(もの)など聞こえない、知るか、存じない。否、()()()()()()()()


 と同時に自分の体内を駆け巡る血は、そうだろうと言わんばかりに母禮の拒絶さえ頷き、そして呟く。


 

「ナラ兄ニ代ワリ、代弁者ヨ」


「だから情報提供者として……」



 母禮の意識外で土方が話を進めていく。だがそれらは全て流され、この時彼の言葉はここで行き止まりとなった。



「血ヲ」


「我が兄……」


「解放セヨ」


「敬禮ッ!!」



 ビキッ、という音と共に怒声が響いた瞬間に、ようやく遊佐と斎藤は異変に気づく。


 今聞こえた不吉な何かに罅が入るかの様な音と、急に響く母禮の声から異常事態だと素早く3人は応じる。遊佐と所以と呼ばれた青年は、腰に下げたままの刀の柄に手をかける。


 これ程、事件現場でも感じた事のない殺気に思わず冷や汗を流す遊佐に対し土方は呟く。



「ごめん、冗談言ってらんないね」


「当たり前だ。というより……」


 土方は刀を携帯してはいないが、一応彼も刀を扱う事は出来るし、今は指揮する立場であれどつい数年前までは遊佐達と同じく最前線にいた身故に、今の事態が、今の母禮が如何なるモノなのかは殺気で理解出来る。



「化物か?このガキ」



 そう、()()。今の母禮は(のろい)に取り憑かれた何かだ。


 一瞬しか視認出来なかったが、不吉な罅割れ音が聞こえた時、彼女の全身の神経らしきものが浮かびあがったのを、この場にいる3人は見逃さなかった。


 血管ならまだしも、神経がはっきりとああも浮かび上がる事などそうないだろう。だからこそ、今の母禮は果たして人間であるのかさえ、疑ってしまう。だが、大鳥の人間は皆等しくそうなのだ。


 この場に充満した殺気が水風船の様に張り避けた瞬間、ダンッ、と地面に何かが叩きつけられたかの様な音が響く。


 と同時に鈍色の十字架を持った、母禮の身体が何故か沈んだ。次の瞬間クレーターが地面を抉る様な音が響くと、ズンッとマンション自体が揺れる。



「地震、か?」


「否、マンションの下を」



 今、一体何が起きたのかを視認出来たのは、奇しくも遊佐と所以と呼ばれた青年のみだった。遊佐は距離を取って、向けられた謎の剣戟を振り払い、土方もそれを回避はした。


 一方青年も何かしらの対処はした様だが、状況を読めない土方に対し、マンションの下を見る様に進言した。


 青年の言葉に急かされ、急いでベランダへと出てみればそこにはマンションの下がクレーン車で地面を抉ったかの様に地面が掘り返されていた。



「地面まで割れてる……だって?」



 刹那に起きた異常。何故攻撃を受けた自分らが傷を負わなかったのかも不思議だが、確かにマンションの状況を見ればこれ以上不思議な事はない。


 そして何より、攻撃をしてきた母禮は十字架を床に叩きつけただけで、それ以外の動作は何もしていない。土方がその横を通り過ぎた時も攻撃など一切せず、機械の様に止まったまま。だが。



「そして俺も、食われ――……」



 何故かこの瞬間、グラリ、と青年の身は崩れ落ちる様に倒れる。


 青年が倒れた瞬間、遊佐と土方は今一体何が起こったのか、ようやく理解した。


 まるで大岩に思い切り強打したかの様に、左膝の皿が砕けていて、太股から足首は鱠切りにでもあったかの様な惨状に2人は青年へと駆け寄る。



「斎藤ッ!」


「所以さん!」


 ()()()()と青年は言ったが、それは比喩でも何でもない。何せ今母禮は、このマンションが構えられた地形ごと()()()()()()()


 


.

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