Mudslinging
止まぬ剣戟と、続く攻防戦。
あれから2人は構える暇などなく、瞬時に刃を斬り結んだ。
最初は何度も交じ合わせ、1合、2合、3合……と止まぬ中、まるで泥試合でも繰り広げているかの様な有様。
だが泥試合といっても、ここまでの兵となれば技量もあるが、どちらが如何に自身の間合いへ侵入するかが勝利を決する。
結論からいえば、今現在遊佐はまんまと根城の間合いに足を踏み込んでしまった。故に先程から彼女の攻撃を受け続けている。
無論彼女が繰り出す、謎の一閃による傷の数も夥しいもの。しかしどれも致命傷に至らないのは、やはり有効範囲を読みとった遊佐が、うまく動いているからこそ。
しかし、先程からこの様子を見ている根城は高らかに嗤う。
「オイオイ、散々偉そうな事抜かしておきながら何だぁッ!?ゴキブリみたいにちょこまかと動きやがって。それで私に勝つ勝算とやらは出てきたのかぁッ!?」
「トリックならもう見えてる」
「あ?」
今遊佐は、およそ12合も交わした刃を跳ね返して刀を構え直す。その様は少し可笑しく、右手がぶらんと無重力に垂れさがっていた。
そしてどこか身体も頼りなさそうにゆらゆらとしている。その様子に根城はまた笑う。
「なんだぁッ?その構え方!テメェらが収めたお上品な剣術には見えねぇぞ」
「僕もこんな事したくはないんだけれどね」
そう不機嫌そうに返す遊佐。だが彼自身根城と12回も刃をまじ合わせて、彼女の技量は嫌という程に学習している。
ただ気になるのは先程から「トリックが見えている」という一点だけ。しかし既に根城の手の内と技量が分かった今だからこそ、不服とはいえ、留めを刺す一撃に出る。
「だったら」
根城が低く呟くと再び振るわれる一撃。遊佐はそれを正面から受け止めずに回避するも、次の第2撃は最初の一撃よりも加速して放たれる。しかし遊佐はこれも見切っては回避。
そして必殺の第3撃目で、ゆらっと意図的に揺れては一気に根城との間合いを詰める。
その瞬間、遊佐はまるで彗星の様に根城の懐へと流れこみ、刃を首筋目掛けて放つ。体感にしていうならばほんの一瞬。刹那ともいえる0.0000000000000000001の世界。
遊佐は今、全身の力を左脚だけに集中させた。全身の筋肉から力を抜いて、踏み込む瞬間、溜めた重力を全て左脚に乗せて一瞬にして間合いを詰めた。
そしてそのままこれも力を入れず、水を薙ぐ様に刀を首元目掛けて流す様に振るう。この刹那の内に行われた動作はこれだけだった。
「――ッ!?」
しかしそれさえ察知した根城は、寸での所で身を捩り、首を断たれる事は回避した。だが肩にかなりの深手を負う事になった。
しかしこれでもう根城は手加減という余裕を見せられない。出血の止まらない左肩を抑えては「野郎……」と恨めしそうに呟く。
「だから言ったでしょ?トリックはもう読めてるって。よくやるよ、そんな一太刀だけで二太刀分だけの剣戟を相手に浴びせられるなんてさ」
「……」
そう、遊佐が見ていたのは根城の剣筋ではなく、彼女の振るう剣裁きの速さだ。これが遊佐のいうトリックで、遊佐はこう解説していく。
「1度に相手に間髪入れずに倍の数だけ剣を振るってるんだから、無論空気さえ凶器にできてしまう。だからこんな細々とした掠り傷を負うのは当然だし、それに最初からその武器が気になってたんだけど」
一太刀で二太刀分の最速の一撃。確かにこれは脅威だが、これにはもう1つのギミックがあった。それが根城の持つ武器である。
一見この刀は普通の刀に見えるが、細かく見えれば少し違う。どちらかというと柄の方が長く、刀身も併せてその全長は2メートル半以上。
「どちらかというと真っ当な剣の踏みこみ方じゃなく、薙刀を振るうのにも似てるよね。まぁ確かにお下品な我流だとそこまでだけど」
つまり彼女は刀を振るうというよりも、薙刀を振るう踏み込みさえ取りこんで独自の型を生み出した。故に彼女には筋肉と遠心力の使い方が必須となる。
事実、根城は中流階級よりさらに下の生まれだ。元々治安の悪い街で育った彼女にとって、力こそ全て。
だから各種の格闘術は無論の事、剣術も我流ではあるが熟練者の技を盗み見て鍛錬した。日々の労働で筋肉を鍛え、時間のある時は野や山を駆けまわった程だ。
だがその成果もあってか、彼女は筋肉の使い方はもちろん、それらの使い訳さえ意図的に可能。これら全てが根城桜という化物を生んだ結晶なのだ。
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