wolf-2
「何!?相似を置いてきただと!?」
あれから10分後。母禮は比企と限界を超えそうになった隊員と斎藤を連れ、マンションへ戻り、土方へ報告すれば土方は声を上げた。
「何馬鹿な事してんだ!今すぐ増援を……!」
「けれど、これ以上送った所で無駄に人が死ぬだけだよ、土方さん」
痛手を負った比企が、息を切らしながら苦しげに返す。確かにあの場に居合わせた全員なら誰もがそう思うだろう。しかしそれだけの事態だと土方も予測は出来ていた。
何せ予備隊どころか、あの第2部隊と第3部隊がほぼ壊滅という事態。例え報告だけしか聞いていなくとも、つい最近まで戦線に出ていた土方にはよく分かる。
だが、それ以上に今の土方は現実が分かりすぎているから、どうも珍しく感情が先走ってしまう。
「だったら尚更だ!アイツを見殺しにするのはどちらにせよ、痛手なのに変わらねぇんだ。いくらテメェらでもここで食い下がるってのか!?」
土方自身、これが自身の我侭など百も承知である。しかし、ここで動かなければ、彼は言った通り、遊佐相似という存在を見殺しにする事となる。
しかしそれさえも見越した上で、同じく遊佐だけでなく土方の仲間でもある比企は悔しそうにこう返す。
「……悔しいけどそうだね。俺も現に肋骨が折れてるし、斎藤も疲労が半端ない。あの化物とたった1人で戦ってたようなものだからね。これはもう、相似を信じるしかない」
「……ああ」
比企の態度を見て、ようやく土方も落ち着きを取り戻す。しかしそれでも悔しさなど拭えず、土方は静かに拳を握っては微かに震わせていた。
一方、母禮は比企と斎藤に他に怪我がないか診ていた所、斎藤の身体は傷は浅いが上半身傷だらけであった。
この傷口を見た瞬間、母禮は思わず声を失った。
一体これはどんな傷なのか。 否、まずそもそもこんな傷を数十も抱えながら闘い続けた斎藤にすら畏怖を抱く。
内からこみ上げる恐怖を呑んで、母禮は斎藤へとこう問い掛ける。
「斎藤さん……貴方はこんな状態で戦い続けたのか?」
しかし、この刀傷は普通の剣戟による一太刀の浴びせ方とは違う。奇妙な一閃の痕に母禮は疑問に思うも、斎藤は短く息を吐いては「ああ」と答える。
「流石に一々避けると致命傷を負う可能性があったからな、だが大丈夫だ」
本人は大丈夫だと言うが、どう見てももう1度戦える様子ではないのも確か。
それだけではなく、今はこの出来事のパニックで交通規制も敷いているから、負傷した隊員を病院に運ぶ事もできずに、ただただ母禮は己の無力さを呪いながらも思う。
あの時、遊佐はトリックが見えたと自分達に言った。しかし果たしてそれだけで勝てるというのだろうか、と。
別段遊佐が信用ならない訳ではない。寧ろ信用しきっているからこそ、逆に彼が例え刺し違えたとしても根城を仕留める事さえ考えてしまう。
ただどちらにせよ、今の母禮に出来る事は負傷した隊員への手当と仲間を信じる事だけだ。
だがまたおかしい事が1つ。待機を命じられたはずの第8部隊とアマンテスの姿がない。
「一体、どこにいったんだ?花村さんとアマンテス」
ぽつりと出た疑問。だが、彼らは既にこの窯の空けられた地獄へとまた身を投じているなど、誰も知らない。
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