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「あのなぁ……斎藤」
斎藤の放った殺気立つ一言に、1度手を付けていた弁当を置いては花村は言う。
「いいか?科学ってモンは超能力はまだしもヘタすればこの世の物質全てを味方にできるようなモンなんだぜ?」
先程は南條との談で、超能力者は果たして超人錬成と同義かと言われれば否となった。
だがもしスーパーコンピューター並の演算をこなす脳と、非現実を現実に顕象できるだけの何かがあったなら?
それこそ素粒子と何らかの物質を掛け合わせてしまえば、荷電粒子砲なんてものは何の代償もなく使用出来るのだ。
あくまで人間の脳や機械の演算能力には限度がある。しかしそれを超えれば、超能力者という存在は空想上のキャラクターではないのだ。だからこそ花村は警告する。
「そうしたら、お前は自分で自分の首を絞める事になる。つまりは無駄骨だ。母禮を守り通したいのは分かるが、少しは頭冷やせ」
その言葉に斎藤はぎりっ、と歯を食いしばり、衣服を掴む力も強くなる中、誰もが斎藤の無念に同情した者は多い。それを指摘した花村でさえも。
だが、どうすればこの厳しい現状を変えられると言う?
物理的な刃が通用しないとなれば、ここ新選組に所属する者は皆、高杉影踏を踏破できないという訳であるが、しかしこの場でたった1人だけイレギュラーな少年は笑う。
「その役目、俺が買ってでようじゃないか」
常套手段で対処出来ないイレギュラーがいるなら、また別のイレギュラーをぶつければいい。
簡潔に言ってしまえば至極シンプル。だが別段アマンテスは自身の実力に溺れた愚物なんかではないのだ。
魔術もある意味、自身をエネルギー源とし、魔力を攻して空想を実現化させた。これだけ考えるなら科学と魔術とは紙一重な様なものだろう。故にはっきりとアマンテスは断言する。
「俺も形は違えど特殊な能力を持っているのだからな」
「……って事は残った俺達は、残りの生命装置の破壊と薄気味悪いねーちゃんと高杉を片付ければいい事になったぜ」
「アマンテス、済まない」
方針は決まり、斎藤はアマンテスの方に向かって、一礼するが「ふん」と軽く鼻であしらわれた。
「礼などいらん。そもそも俺は日本政府から依頼を受けてここまで来たのだ、それに母禮は長年の友人の様なものだ。どちらの理由を取るにせよ、これは俺の成すべき事なんだよ」
そう言い張ったアマンテスに対し、花村は「まぁな」と呟く。
「少なくとも土方さんから指名は来ると思うぜ。俺も呼ばれると思うけどな」
「やっぱり花村も呼ばれるのか……本当に恐ろしいよ」
どこか勝ち誇る表情を浮かべる花村に対し、比企は苦笑してから、一言嫌味かそれとも善意か分からない不確かな言葉を口にした。
「自分で自ら身体を弄るんだから。俺らには全く理解できないよ」
そう、花村密と言う男も非現実の顕象物。はたして彼がどうして己の身体を捨てたのか――それは今ここにいる誰にも分からない。
◆
カタ、とフォークを置き立ち上がる樹戸と目線が合うと同時に母禮はこう言い放つ。
「いいだろう、応じてやる」
すると樹戸はにこり、と薄く笑ってはこう返す。
「そう言ってくれると非常に助かるよ、これ以上あいつの我侭で体調も崩したくはないのでね。さておいで、案内しよう」
母禮も樹戸に続いて席を立ち上がり、彼に案内され立ち止まった先はとても大きな宮殿の様な、この場にそぐわない場所だった。
まるでここだけが異世界にでも隔離でもされたかの様な出で立ち。これには流石の母禮も驚きを隠せない。
「一体ここは……」
母禮がそう呟くと、扉の前に樹戸は控える様に立ってはドアを開く。
「それも、あいつに聞いてみるといい」
樹戸がそう答えると同時に開いた扉。すると部屋の奥で声が響く。
「よう、大鳥母禮……いや、大鳥沈姫。初見だが俺様はお前を歓迎するぜ。無論、似た者同士な」
白のジャケットに同色のマフラーとタートルネック。雑に言うなれば彼が身に纏うのは白ばかり。
しかしそれを否定する訳でもなく、どこか孤高さと優雅さを感じさせる。そう、その純白そのものの如く、森羅万象物に染まらないその姿が。
ただ彼の瞳が母禮を捉えたとき、高杉はただただ笑っているだけだった。
敵意などそこにはなく、ただただ旧友に会った懐かしさを感じさせながら。だからその様に母禮は思わず息を呑む。
「……高杉、灯影」
「それでは、ごゆっくり」
そして白く重い扉の閉まる音と、樹戸の声が刹那の時に消える。すると奥では高杉が目を細めては母禮を手招く。
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