line of sight
「大鳥が誘拐されただと!?」
母禮が誘拐されてから数時間後。斎藤はあの後急いで新選組本部へと戻り、計画を練っていた土方の元に急いで母禮の事を報告する。
同じくこの時土方の部屋を訪れていた、比企とアマンテスも思わず目を見開く。
「そいつは一体何者だ?」
無論土方は斎藤へそう聞くが、斎藤自身あの高杉影踏という少年の事など一切知らない。知ったのは彼があまりにも人間とかけ離れた真似が出来るという事だけ。
故に斎藤は、悔しさからか歯を食いしばり、喉奥から僅かに声を振り絞っては答える。
「『生命の樹』の構成員である高杉影踏だそうだ。流石の俺でも対処は何1つも……」
「まさか向こうにそんな手練がいるなんて……」
あの斎藤所以が何も打つ手がなかった。それは詰まる所、現在戦力になる新撰組の隊員の中での最強がいる事を意味している。無論、それは斎藤以上の実力を秘めた化物が。
しかしこの報告を受けて、土方は思う。何故今になって動き出したのかと。
確かに、彼らはもうこの日本を塵にするだけの力は有している。だが昨日の事はあくまで威嚇と下準備でしかない。
(何故あの大鳥が狙われる?こちらに対しての交渉材料にしちゃ、はっきり言って安いモンだ。なら……)
そう、何故彼らは母禮だけを的確に狙ったのか。そこだけが土方の中で腑に落ちなかった。
昔からあの高杉は突拍子もない発想と、盲打ちといわんばかりの作戦を練っていた。
盲打ちと言えど、説明すれば筋が通っている。しかし時として筋がはっきりと見通せない事や予測不可能な末路を迎えた事があったのを土方はよく知っている。
それでも尚、最後の局面となれば全てが彼の思惑通りになる。なら高杉は今度は一体何を狙っているのか?
それも流石に理解出来ない。故に険しい顔をしたまま、斎藤へと再度こう尋ねる。
「相手は魔術師なのか?」
アマンテスの質問に対し、斎藤は俯いたままである。これで全ての策は潰えた。
ならば、母禮を向こうに送り込んだまま攻めるべきか――そう土方が思案している最中だった。
「粒子型高速光線砲。確かそんなモノを相手は使っていたらしいね」
突然土方の思案どころか、この困惑に満ちた重い空気を、軽いおちゃらけた声が破る。
細長い体格で黒淵の眼鏡をかけた男が勝手に土方の部屋に上がってくると、土方はその態度に思わず目を細める。そう、この男が噂の南条筑紫だ。
「南條、テメェ何でそれが……つかどこから話を聞いていた?」
「なんかバタバタしてたみたいだったからね。随分前に勝手に土方さんの部屋に仕掛けた盗聴器で話を聞いたのさ」
登場から早々、更に空気を壊す爆弾が投下される。これも南條自身が快適に職務を過ごす手間なのは皆隊員は知っていて、無論土方もその被害者だった事が判明した。
思わず鋭い視線で、土方は南條を睨む。だがここで叱責してもどうにもならないし、ある意味手間が省けた。
何せ情報課の総指揮的な立ち位置である彼ならば、普通の警察機構では手に入らない情報もごまんと入ってくる。
最悪影踏の素姓についても知れるかもしれない。だから土方はそれに賭けた。
「んで?仕入れた情報はあんのか?」
「うん。後手に回ってお通夜みたいな状況から始まるかと思ったけど、案外幸先明るいみたいよ?『生命の樹』の構成員の情報を全て手に入れた」
早速問題に入ろうとした時点で、南條は既に情報を掴んでいたらしい。
何せ『生命の樹』が表立ってテロ行為をしているなら、公安や警察機構も内部を知ろうとする。
だが彼らは政府との繋がりがあるどころか、そういった暴力紛いな騒動においては常々隠蔽しているのだ。
だからこそ構成員がどの立場であれ、樹戸の様な身分証を持つならまだしも、一般人であれば情報が掴めない。
それを知るという事は即ち、南條もまた彼らと同じ方法を用いただけ。そのため、どこかバツの悪そうな表情を浮かべては、ノートパソコンを開く。
「あ、勿論僕の作ったプロテクトサイバーからさ。……で、まぁその内容なんだけど、幹部は高杉灯影を含めてたった4人。こいつらを先に落とせば僕らの勝ちも同然だね」
.




