Out of the frying pan, into the fire-2
コンコン、と無機質な病室のドアをノックすれば「どうぞ」と声が響く。
「遊佐さん、大丈夫か?」
現時刻、午後4時半。ようやく一通りの処置を終えたという事で、その報告を聞くなり母禮と斎藤は遊佐の見舞いに来ていた。
残念な事に未だ重体、更には亡くなった隊員も多い為、少し落ち込んだ様子の母禮とは反対に遊佐は明るい調子で母禮へ声をかける。
「嫌だなぁ、そんな顔して。僕なんか現場でモロ被害を受けたんだよ?でもさ、僕も含め新選組の全員は常に命懸けなんだ」
「そうだけど……」
「命を落とす事が生き甲斐だとか幸せとは言わないけれど、覚悟はしているから」
「……すまん」
いくら母禮でも彼らの矜持は分かっている。否、分かり過ぎている。だからこそ今の事態がどれだけ残酷で、遊佐が無理に明るく取り繕う姿が悲しくて仕方がなかった。
「もういいってば。それに2人に怪我がなくてよかったよ。……で、さ。土方さんが『生命の樹』の居場所の特定をしたって聞いた?」
「ああ」
最早母禮はショックで黙りこんでいる。故に遊佐の問い掛けについては、母禮の頭を撫でていた斎藤が代わりに答えておく。
遊佐も怪我をしたとは言え、その身分は一応新撰組の第1部隊の隊長である。故に我侭であるとは言え、土方には予め何か進展があったら連絡が欲しいと事前に頼み込んでいたのだ。
しかし幾ら遊佐でも馬鹿げたと思ったのか、半分呆れながらこう口にする。
「東京スカイツリー……だってね。全く、どんな神経であんな所を本拠地にするのか……」
「正気ではない事は確かだ。だが、それも奴ならありえる気もするが」
「ちょっと待ってくれ、斎藤さん、遊佐さん。奴ならと言ったが、まさか知り合いなのか?」
思わず2人の異様なやり取りに母禮も気を持ち直す。何故こうも2人は今回こんな事を仕組んだ黒幕――つまり『生命の樹』の重役の存在をあたかも知人であるかの様に話すのか。
すると遊佐は母禮を一瞥した後、視線を逸らして重い調子でこう呟く。
「ねぇ、れいちゃん。新選組の隊長って見た事ある?」
「? 見た事ないな」
今まで言及しなかったが、母禮の所属する予備隊の隊長である土方は、あくまで副隊長であり現在は隊長代理の身分だ。
だがよくよく思い返して見れば、いなければならないはずの隊長の姿など見た事などなかった。
「でしょ?それに僕は出会った最初の日に言ったよね?ここは階級によって部屋の階が違うって。最上階の24階には土方さんと、オーナーの三木さんしか住んでない。だとしたら隊長さんはどこで寝て生活しているんだろうね?」
遊佐の言う階級による部屋順など洒落同然だが、それも事実。そしてこの荒事を処理する長が別にどこかで生活していたとしても、緊急事態に対応など出来るはずもない。
「という事は……」
「そう。あの『生命の樹』リーダーである高杉灯影が、以前まで新選組の隊長を務めていたんだ」
「一体、何で……」
『生命の樹』は確かに改革を遂げようとする融合結社。謂わば英雄。だが、その裏は反逆者。
彼が何故新撰組を抜けたのかも気になるが、そもそも民と仲間を守るはずの人間が、何故それら全てを裏切る行為に及んだのか。
まるで、敬禮の様に。
思わず黙りこむ母禮だが、一応ここまで話したら引き返せない。故に遊佐は高杉失踪の真意を語る。
「その事に関しては誰も真相を知らないんだ、僕達幹部でもね。あまりにも突然の失踪だったから、最初も上は騒いでたけど、1ヶ月経つ頃には上も放っておけ、だって。ホントに笑えないよね」
「だが、これで本拠地が分かった以上、ここから先は俺達と奴らの全面戦争となる。その時まで遊佐、アンタも復帰できていればいいんだが……」
すると、遊佐は深刻な様子を払い、普段の様に少年の如く笑って「勿論」と答える。
「その時までには必ず戻る。僕だってあの失踪の真実を知りたいしね。勿論指名されると思うけど、所以さんも出るでしょ?」
「ああ」
確かに遊佐と高杉がどのくらいの付き合いかは、実は斎藤さえ分からない。だが何にせよ、遊佐達古参の隊員でも、やはり高杉の失踪については納得がいかないらしい。
それにいくら怪我人とは言え、遊佐は例え土方に止められようと戦線に出るつもりであった。勿論現段階において最高戦力の斎藤が前線から外される事もない。
すると遊佐は、気が抜けた様に首をこてんと傾げては、独り気にこう呟く。
「だとしたら今は、あの人に任せようか……と言うかあの人の仕事ってこんぐらいしかできないしね」
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