Out of the frying pan, into the fire
そう土方が頭を下げて暫く。次々に上層部の人間が部屋を後にしていく。
それら全員を見送った後に、土方は机を思い切り拳で叩き、更には腹から精一杯の怒声を挙げる。
「クソったれがッ!ロクな仕事しねぇ癖に責任だけは押し付けやがって!」
「仕方あるまいよ、土方。政治とは何かとこういうものだと相場が決まっている」
若干15歳の少年にこうも言われる事は腹立たしいが、アマンテスの言葉に違いなどない。だからこそ余計に虫の居心地が悪い故に、その怒りの矛先はアマンテスに向けられた。
「つかテメェも俺より10歳以上も歳下なんだってな!?なのにタメ口聞くわ、人をコキ使うわ、少しは敬え、称えろ、崇めろ!」
「そうそう、その調子その調子」
「ふざけてんじゃねぇぞ!ガキ!」
「ふざけてなどいないさ」
「あ?」
突然真剣に低くなるアマンテスの声に、土方は眉を顰めながらも一旦言葉を止める。するとアマンテスはどこか諦めを含んだ達観したかの様な視線を、会議室の窓へと向けては呟く。
「俺は俺なりにこうしているんだ。俺がしっかりしていれば、部下は忠実でいられるか?その問答はノーだ。ただ普通の態度では嘗められて終わる」
忘れてはならないが、アマンテスはまだ子供でいながら、欧州規模の魔術結社の長である。しかしそれは祖父や親が築いた地位をお下がりとして貰った訳ではない。
全ては己の力だけで築き上げた地位。魔術という異端を以て、それらで悲しむ子供や人間を救えたのなら――その一心でここまでやってきたのだ。
「なら歳相応に我が儘なフリをしておけば、部下も誰もが諦めてくれる。だからこそ俺は常に内側では諦めてるんだよ」
「テメェ、まさか……」
そう。大人や未だ蔓延る不条理を敢て子供なりの不条理で返す事、それこそが全ての最善策。故にアマンテス・ディ・カリオストロという少年は、自身のプライド以外は全て捨てなければならない。
正直これについては肉親どころか、部下、往年の友人である母禮にさえ語った事はない。だが今土方に自身の矜持を語ったのは、それこそ自分にとって捨ててはならないものが土方と同じであるから。
仲間――魔術師という同胞。この先訪れる衝突で幾人の同胞が死ぬかは分からない。だが、それでも彼は同胞を守りたいのだ。それは自嘲交じりの一言が全てを語った。
「自分を偽ってもう7年、いい加減慣れた。俺は俺の道を行くが、今回ばかりは協力させてもらおう。これが世界と奴らの全面戦争になる前にな」
「……言うじゃねぇか」
その意気や良しと土方は完全に先程まで溜めていた怒りを払拭する。
何せ自身より10歳以上も歳が下の少年が、ここまで固い覚悟を持つのならば、それこそ死線に放り投げられた時に、背を預けられる。
だからこそ背を叩いては、土方はアマンテスにこう告げる。
「よろしく頼むぜ、相棒」
「ああ、よろしく頼むぞ」
その様子に頬笑みを返すアマンテス。しかしいくらここで意気投合をしても、安心など出来ない。否、寧ろ土方にはある別の疑念があったのだ。
「んで、だ。さっきの会議の最中で気になった事がある」
「霊脈の事か?」
「ああ。テメェはさっきすんなりと滑らかな具合で言ってくれたからよ、あの老いぼれ共は見落としたみてぇだが、霊脈からちゃんと場所も指定してあるって、どこだ?」
そう。土方はあの時アマンテスの言葉を聞き逃す事などなかった。
きちんと場所まで指定されているじゃないか――と。だとすればこれさえ割れれば、今でも阻止は可能。
ある意味これを彼らに聞かれなかったのは幸いなのかもしれない。だが、アマンテスはその一言にどこか悩んだ様に返す。
「予知能力は携えていないんだがね。ただ、ここで大きなビルはないだろうか?」
「ビルだと?そんなモン多すぎて逆に絞れねぇぞ」
確かにこの東京に於いて、ビルの数など幾百以上もある。しかし「そうではない」とアマンテスは首を横に振った。
「いや、それこそシンボルとなるものだ。東京タワーが吹き飛ばされた今、それ以外にシンボルとなるビルはどれだ?」
「まさか……」
土方はこの瞬間確信した。もしこの読みが当たっていたとすれば、今度こそ首都だけでも再起不能となる。
どこか顔色の悪くなった土方に対し、アマンテスはただただ聞き返す。
「場所は?」
「北千住から東武スカイツリーラインの終点地、東京スカイスリーだ!」
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