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大鳥母禮は斎藤所以の救世主である。この事実に変わりはない。だがそんな幸せがいつまで続くかなど。
「分からないだろ?」
母禮が斎藤の部屋を後にしたのと同時刻。東京のとある場所に構えた『生命の樹』の本社で高杉灯影はワイングラスを揺らしては呟く。
まるで遥か遠くにいる斎藤の幸せを嘲笑うかの様に。しかし、母禮は高杉の事を知る由もないのに。
それでも尚、お前の様な男には無理だという様な口ぶりで、その幸福を否定した。
「理不尽な事に時間っていうモンは平等だ、そんな中で幸せも不幸も刻まれる。大方人間っていうのは負の感情に敏感なのも至極当然」
この広々としすぎたオフィスの中で、高杉が語るのは幸福に対しての定義論。そしてそれはゆっくりと彼しかいない部屋で虚空に吐き出されていく。まるで誰かに忠告するかの様に。
「例え人生が99%幸せで出来ていても、残り1%の不幸があれば、それは不幸が多く取れた人生であると錯覚するモンだ。なァ、そう思わねーか?影踏」
「感情論を気取った詭弁には興味はないよ、兄さん」
高杉の独り言がオフィスで響く中、突然許可もなく入ってきたのは高杉灯影の実弟である高杉影踏。
確かに無人であったはずなのだが、影踏もまた高杉が言い放った詭弁とやらの一部を聞いていた。しかしそこに興味など一切も感じられず、その感情論を気取った詭弁とやらを、くだらないと吐き捨てる。
それに少し気を悪くした灯影は手元にあるグラスにあるワインを飲み干しては「で?」と尋
ねる。
「そろそろ完成するのか?」
「もう少し、と言った所だな。樹戸さんの生命装置も完成したそうだし、後は狼が上手くやってくれれば下準備は全て終了。それと小耳に挟んだ話なんだけど」
「何だ?」
「あの大鳥啓介が新選組の手によって粛清されたとさ。生命装置の事を話したかどうかは知らないが、恐らく今新撰組の奴らは平和ボケでもしてると思う」
「やはり俺様の読んだ通りだな」
「……流石にそれの予知は確かなんだ?」
影踏が口にした『それ』とは、事実影踏と樹戸しか知らない。確かに高杉は相手の手を読む事については天性があるが、それを補助する物もあるのは確かな事。
「まぁな。片割れは大鳥の妹が所持してるっていう話だったが、まさかアイツも新選組に身を置いてんのか?」
「そうだね。大鳥啓介の件で分かった事だけど、『大鳥』の一族は年中動く事しか頭にないらしい」
「へぇ、流石ヒーロー様だ」
そう軽く口笛を吹きながら、調子が良さそうに呟いては空になったワイングラスをテーブルに置く。
「だが、本物のヒーローってモンはもうちょっと違うはずだ。まぁ見てろよ阿呆共。本物のヒーローの腕前を見せてやるからよ」
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