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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
1.Down,dawn,dawn…
3/102

Chance meeting



「何だ?物捕りか?」



 彼らがこれだけの必死な形相を浮かべながらも、その大きな琥珀色の瞳はどこまで行ってもそれしか読めなかった。


 否、東京の様な首都であれば、大鳥邸が構えられていた土地に比べれば物騒だろう――そんな暢気な認識を母禮はしている。



「んなワケないだろうがッ!」


 

 勿論、怒声が聞こえても母禮は小首を傾げたまま。確かに母禮は社会的常識はあるものの世の中の事件その他に関しては疎く、現代の事件も詳しい事は何1つ掴んではいなかった。


 相変わらず男達は無様に、自身らより小さな少女に助けを求めるがまま。だが果たして何故そこまで怯えているのか母禮には分からない。

 

 すると、突然暗闇の中からザッ、と足音が聞こえ、物音のする方へ全員の目線がそちらに向けられる。と同時に「おや?」という明るい調子の声音が響く。


 夜闇の中で僅かに見えるのは、黒を貴重とした軍服。


 右腕の腕章には赤いダンダラ模様が施されているのだが、これが彼らを表す唯一の印であり恐怖の対象。そう、この逃げ惑う彼らは()()に怯えていたのだ。


 何があったか母禮には皆目見当もつかないが、この男達も何らかの事情があって追われているのには変わりない。ようやく事態を理解した今、最早母禮に無視などできやしなかった。



 これが大鳥一族としての呪いであり諚。



「おい」


「はいィイッ!?」



 母禮は逃げ腰の男達に声を掛けては、腰に下げていた十字架をベルトから静かに抜く。この時、母禮が身に纏う空気は、先程までとぼけていた世間知らずのお嬢様なんかではない。


 強いていうならば剣士。それこそ数多の戦場をくぐり抜けてきたかの様な勇猛さは、女らしさなど微塵にも感じさせない。そして自然と低くなった声で男達にこう告げる。



「おれが時間稼ぎをする。後は言わなくても分かるな?」


「す、すまねぇ!!」



 すると、「あーあ……」と明らかに呆れた様な声がぽつりと夜に溶ける。


 それを発したのは20代前半ぐらいであろう青年で、未だ幼さが残るその風貌の通り、子供の様に声を伸ばした。だが次に発せられた言葉は明らかに子供のソレではなかった。



「全く……お兄さんが邪魔するから逃げられてしまったじゃないですか……結局さ」



 そう言えば、周りにいた彼を除いた隊員4人が刀を抜き母禮を囲む。


 今の現状からして、軍服を纏った彼らは何らかの組織で、かつ政府などから認められた合法組織。何より1番幼さを感じさせる青年が、隊長である事は言うまでもない。



「職務上、こんなのはよくないんだろうね。けどあまりにもお兄さんが強そうだからこっちの方が有意義だと思って選んだんだけど」


 お兄さん――どうやら母禮を少年と間違えているようだが、最早そこはどうでもいい。何せこの時代でさえ、今や女が剣の類を握る事はまずない。


 しかして青年は仮にもお上に許された身でありながら、明らかに自分の興味のままにしか動いていない。そしてそれは青年が浮かべる笑顔が現していて、相も変わらず明るい調子で呟く。



「まぁ、逃げなかったお兄さんも今この場で後悔してください。時間ならたくさん与えますから」



 正に残虐さと冷酷さの塊。まるで罰を下す執行人の様に呟くが、どうみても普通と言えるような人間の言動じゃない。が、それでも母禮は怯まずに心中で人数を確認する。


(4人か……多いな。だが)



 スッ、と鈍色の十字架を剣の様に構えると母禮ははっきりと自身を囲む隊員にこう告げる。



「来たれ、『大鳥』に対する狼藉は高いぞ」


「お、大鳥……?」



 その瞬時に母禮の周囲を囲んでいた隊員達の顔色が変わると、一気にこの言葉がこの場一帯に伝染する。



「馬鹿言うなよ……奴は逃亡中なんだぞ!?」


「余所見とは」



 一瞬の躊躇いに容赦なくまず正面にいた2人を抜き去ったその刹那、そのまま肩甲骨を稼働させて、バットを振る様に十字架で横薙ぎに払う。


 これで背後にいた残りの2人と正面から向き合う。上段から振りかざす1人と突きを放つのが1人。しかしカチリという金属を嵌めた様な音が響いた瞬間、母禮は何故か低い姿勢へと身を移した。

 


「余裕か?」



 そう呟けば、蛇の様に地を這い、更に隙間を潜り抜けて、先と同様、男達の背後を取る。そこから下段へと十字架を構え、切り払う。



「がっ!?」



 足元から仕掛けられ、アキレス腱へ痛い一撃を喰らう2人の隊員。だがあくまでこれらは全て峰打ち。そのまま崩れ落ちる隊員を見て、母禮はこう言い放つ。



「奴らが何者だか知らんが、これは掟だ。お前らが合法的組織だろうと排除させてもら――……」


「あ」



 瞬間この場に響いた青年の突拍子もない声。それに続く様に母禮の背後から怒声が響く。



「甘いんだよ!小僧がッ!!」



 何故か先程逃げたはずの男達の内の1人が隠していたのか、ブラックジャックを母禮の頭部を目掛けて振りおろす。


 突然の出来事に対処出来ず、思わず目を瞑ってしまったその時だった。



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