blessing
大鳥敬禮が粛清され、斎藤が真実を告げた瞬間、全ての運命が覆された。
死を望んだ斎藤の意思を曲げた母禮。そして自らの免罪符を母禮に与えた斎藤。
死を下す者と下される者の関係が生まれて数週間が経った。
一難去った後の海は穏やかだが、実は海底の奥底では次の厄災が待ちうけている。
そう、それはきっと近いうちに訪れる事など、今は誰も知らない。
あの男達を除いては、誰も。
「……」
あの妙な告白と断罪から数週間。母禮はずっと考えていた。
斎藤の罪、斎藤の今まで辿って来た過去、そしてあの時流した涙の意味。母禮は斎藤に対し、殺すという楽な道を与える事はさせなかった。
そして斎藤もまた「殺してくれ」など言う事もなく、自身の汚れ切った人生の免罪符を母禮に与えてしまった。
おかしいと言えばおかしい。だが、それ以上にそれを理解しようとしてしまう自分がいる。ある意味あの日から新しく母禮と斎藤は妙な関係を築いたと言っていい。
しかしそれとは別に少し前から、母禮は斎藤からの無言の訴えを受け取っていた。その真意は分からないが、黙っている時間が長すぎる故に、いよいよこう切り出す。
「どうかしたの?斎藤さん」
「……ん、いや何でもない」
何故か、どこか落ち着かない斎藤を見ては母禮は首を傾げる。それともも現在母禮が斎藤の部屋にいるからこそなのか。
同じく20階であり、あの日以来、斎藤は母禮をよくここに呼び、行動もできるだけ多く共にしている。あの時、自身の命に賭けてという言葉は恐らく本物なのだろう。
ただ、考え方が幼稚過ぎて、こうして行動を共にしたりする事でしか守れないと思っているのだろうが――と母禮はまたも勝手に推測していた。
だが一方、その斎藤の自室の外で野次馬が3人程存在した。
21階の非常階段から見ると、僅かだが斎藤の部屋が見える。野次馬3人は双眼鏡を片手に、色んな意味でこの状況を楽しんでいたのだ。
「ちょっと比企さんどいてよ!全然見えないじゃん!!」
「うるさいな!ただでさえここは声響くんだから、バレたら俺らどうなるか知らないよ?」
「でもよ、多分相似や俺ならまだしも、お前がこんな事してたら幻滅するんじゃね?」
そう、3人の野次馬とは遊佐と比企、そして新撰組第8部隊隊長の花村密。
常に幼く悪戯心満載の遊佐と、色々と斜に構え過ぎた気性の花村なら野次馬だったとしても頷ける。だが、どうみてもその中に新撰組の良心がいる図は絶対おかしい。
正直それに対し自覚のない比企は、声を低めて2人へと問う。
「……ねぇ、改めて聞くけど君らは俺をどんな人間として見てる?」
「保育園の優しい保父さん」
「弄り甲斐のあるお兄さ――……じゃなくて。みんなのお父さん」
「……相似。今、君さ思い切り弄り甲斐のある人間だって言おうとしたよね? ……ってやっぱ保父さんに見られるか」
そんな比企の言葉に花村は思う。せめて保父さんと呼ばれたくなければ、あの如何にも保父さんらしいパンダの絵がプリントされたエプロンをどうにかしろ、と。
比企がこうも野次馬もとい、新撰組における3馬鹿トリオとして数えられるのは、彼の心配性の気性が原因だ。
しかし何故かその心配性な気性は、一種のバグを起こしてこうも野暮な行動を取るのである。
これは幹部だけでなく、隊員のほとんどが知っている事実故、ツッコんだり止める者など、どこにもいない。
暫く言い合いを繰り返していた3人だが、「んー」と遊佐はある事を口にする。
「でも最近、所以さんはれいちゃんを穴が開くかぐらいって程見てたし、もしかしたら本当に心に穴が空いちゃったのかもね」
「……相似、まさか心を奪われたとか言う某有名映画みたいなオチじゃないよね?」
「あれ?バレちゃった?」
「てへ☆」といった具合に舌を出し、頭を拳で軽くコツンと打つ気持ち悪いポーズをする遊佐。それを無視して比企と花村の2人はまた双眼鏡を覗くが、そこには誰も映っていない。
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お久しぶりです、織坂一です。
このWill I change the Fate?もようやく第2章へと入りました。
前書きにもあるのですが、一難去って一難という事で、ここからようやくとある真実を見出す為の闘いが始まります。
今はそんな要素など微塵にも含んでいないのですが、後数話でその出来事が明かされます。
前章では敬禮を粛清し、それで母禮も事を成す事はなくなりましたが、斎藤の免罪符という立場を与えられます。
ここからもこの2人の曖昧な関係を繋げたまま、さらに母禮の人生を左右する人物が登場します。
第1章でもかなり長かったのですが、この第2章はさらに長くなる予定です。
カクヨム版を読んでいただけると分かりますが、第2章はバトルが詰め放題なので、ここからが本番です。
母禮の人生を変える人物とは誰か、母禮が見つけ出す真実は一体なんなのか、今後も期待して頂けると幸いです。




