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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
1.Down,dawn,dawn…
27/102

decapitation-2



 憎い、憎い、憎い、憎イ、憎イ、憎イ、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!



 止まらない激情。たったの3文字が重く醜く、母禮の脳内と心をこれでもかというばかりに憎悪が埋め尽くす。


 今の母禮に外の光景など見えない。見えるのはただ憎く、それでも嫌いになれない男の顔だけ。逆もまた然りで、斎藤もまた母禮以外見えていなかった。


 しかし斎藤は後悔などしていない。何せ今日は最初からこの話をする為に外に誘ったのだ。


 

「俺が」



 その真意を説明する事などなく、罪人となり得た男は告げる。



「俺が憎いか?大鳥」



 被害者であり、罪に嘆く少女は答える。



「憎い」


「だとしたら、どうする?」



 斎藤自身、殺される覚悟ならば最初からあった。自力では母禮は斎藤の腕の域に達しないものの、母禮の持つ傾国の女の能力は未知数だという事はその身で味わっている。


 もしかしたら、自分を殺せるかもしれない。そういった期待すら、罪の意識で痛む胸が、僅かに期待を孕んでいた。しかし何故、斎藤はこうも自らの死を望むのか。


 だが、その期待は母禮が憎悪を口にするたびに、大きく膨らんでいく。



「おれは何をしても貴方を許さない」


「なら殺すか?」



 最後の一言。今だ今だと望み、待ち焦がれた答えを期待したが、次の瞬間、それは一瞬にして潰えた。



「殺さない」



 母禮は言う。お前は憎いが、お前を殺す恩情など与えなどしないと。


 当然、彼女によって与えられた死を待ち望んだ斎藤の中では、再び自身の死を逃した事に萎えた感覚を覚えたのか、押し黙る。そんな斎藤に対し、母禮はただ無情に告げる。



「貴方が例え殺してと言っても泣き叫んでも絶対に許さない。逆に生かす事で貴方には生きる十字架になってもらう」



 生きる十字架という何とも非情たる響き。その響きに斎藤は背筋に悪寒すら覚える。


 生殺しなどと可愛い事象(もの)ではなく、それ以上に重い罪。そう、今斎藤が背負っている罪それらが倍にして加重されたのだ。



「だから貴方が勝手に死ぬ事は許さない。おれだけが貴方の生を人生を握る手綱となる」



 最早斎掛ける声音に情などなく、ただただ死刑宣告を告げる裁判官の様に、母禮は淡々と言い放った。しかし、これはある意味苦痛でもあれば譲歩である。


 母禮はもう何がなんであれ、誰かを亡くしたくはない――それが事実。けれども殺せないのならば、生殺ししかない。


 だからそれを少しでも慰める為に、哭け、苦しみもがけと言わんばかりの憎悪の声に、斎藤が喉奥から出したのは、悲痛な叫びで、異様な言葉だった。



「――……ありがとう」


「え?」


『ありがとう』――とは何か? 正直母禮には何も理解など出来なかった。


 何故この男は自身が殺されるかもしれない状況に自身を置きながら、更には生きて殺される事に感謝を呟くのか。


 先程まで抱えていた困惑とは違う困惑に襲われる中、ただ斎藤は歓喜の涙を流し、幸福と言わんばかりに咽び泣く。



「ありがとう……これで、これで俺は……ッ」


「どうして……泣いている?」


 その言葉に斎藤は涙を拭う事無く、ただ次々を吐き出す。まるで泣くのを我慢していた子供の様に。何よりここでようやく、斎藤所以という男が今まで犯し(いきて)来た(りゆう)が、その薄い唇から語られる。



「産まれた時から俺に居場所などなかった。常に徘徊する獣道の中で、仕方なく新撰組へと入隊した……殺す事しかできない俺が更に人を殺して殺して、そればかりだった」



 事実、斎藤は上流階級の生まれだが、父親に殺されかけたのを返り討ちにしたという過去がある。


 上流階級の出身である父が殺人未遂を起こしたのも問題だし、それによって殺戮が続くなど知られれば、明日からは批判と共に過ごす日が待ちうけていた。


 故に勘当された訳だが、この非情な時代の中、斎藤(かれ)に恩情を掛けた者などいない。掛けられた恩情、それはまた人を殺せという負の連鎖。



「もう掌は血に染まって、身体は重たかった。結局どこへ行っても助けなど呼べず、繰り返すばかりのこの道を……どうしても終わりにしたかった……ッ」



 しかし彼が死ねなかったのは、彼がよく誰よりも死ぬ恐怖を覚えているからこその事。だからこそ斎藤は自分で自分の生に幕を引く事など出来ない。


 かくん、と糸が切れた人形の様に斎藤は膝を折って、母禮の手を取る。



「だからアンタが……貴女が俺の心を殺すというのなら喜んで死のう。貴女が俺の免罪符になるというのなら、喜んで受け入れよう。俺は貴女を守り抜いて死ぬ」


「……」


「俺の……斎藤所以の命に賭けて必ず。だからどうか、俺の前では貴方自身を偽らないでくれないか?」



 そう、斎藤はあの時――初めて母禮と邂逅した時に、母禮に対しある違和感に気付いていた。


 無論その違和感は徐々に接していけば浮き彫りとなった。そして母禮は、本当の姿をようやくここで現わす。



「じゃあ、……『おれ』じゃなくて、『私』でいいの?」



 柔らかい本来あるべく女性としての口調はまだ幼い。そして後1つ母禮は自身を偽っている。



「ああ。だから、貴女の本当の名前を教えて欲しい」



 現に斎藤はあの時、敬禮を殺した時に、彼が最期に口にした名が、母禮の物だと理解はしていた。


 10年前に両親が殺され、義兄が会津から旅立って、自身も義兄を追って故郷を離れた時に命名した(なまえ)。そう、彼女の本当の名前は。



沈姫(しずき)。大鳥沈姫っていうの」



 母禮の本名を告げても、斎藤から返事はない。けれども握る手の強さがそれを証明している。


 本来ならば、郊外の神社で交わされるはずの断罪の儀は、新宿の人気のない薄汚れた街並みで交わされた。



.

お久しぶりです、織坂一です。

この「decapitation」でWIF第一部の第1章が終了しました。


かなり長いものでしたが、やはり母禮が辿るべき真実は、義兄の敬禮の安否かと思わせましたが、寧ろこれが始まりなんですね。


斎藤との関係はまぁ……初期からあったものですが、やはり斎藤は遊佐とは違う一面も出したかったですし、もう元は5年以上前に執筆したものなので、何故斎藤がこうなったのか真実は闇の中です。


ですがここからが始まりで、敬禮が死んだぐらいでは収まりません。

変な関係となった斎藤と母禮、そして新撰組と残った組織は『生命の樹』なので、この2つの組織がどう動くかで運命は変わってきます。


所々『生命の樹』側も第1章では動いていたので、今後とも彼らが、そして何よりこのWill I change the Fate?という作品の結末がどうなるのか、御期待下さい。



織坂一

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