Suddenly-2
「下がれッ!」
瞬間、ガシャァンッという音と、激しい地割れと共に共にコンクリートが抉れた。
母禮の声に反応できた比企と2人の隊員は回避できたが、1人はそのまま巨大な腕らしきものに押し潰されていた。
「くそッ!土方さんが言っていたのはこの事か!」
それは背中から生えた巨大な腕であり、その腕の大きさこそまるで伝承ある巨人の腕の如し。あんな物が覆い被されば確かに一溜まりもない。
だがこれを初めて目の前にして、母禮はある事が引っかかる。そう、これは大鳥家にあった歴代『大鳥』の当主の呪いについての文献にあった内容。
非現実的でなければ、与えられる呪いは決して呪われた対象の生身にさえ干渉さえしない訳ではない。
例えば、自分の腕を増やしたいと願ったのなら、外部から腕を捥いで自身へくっつけるなり融合させてしまえば、それは自身の身体として適用される。
そして何より遥か昔に、そんな反則的ともいえよう物理干渉を成した呪いを身に宿した当主が大鳥家には存在したのだ。
「その腕は確か3代目当主の……」
文献にしか残されていなかった為、最早夢物語として語り継がれた伝承だが、こうしてそれを目の前にするとそれこそ悪夢としか思えない。
つまり敬禮も例外ではなく、その3代目当主と同じ『呪い』を身に宿したという事。
だが、ここで合致しない1つの不条理がある。それでも尚その不条理を無視して、敬禮は嗤う。
「目敏いな、確かに俺も『呪い』を背負っている。さて、それは何故だと思う?」
「まさか……貴様……」
何故なのか――そう、これには大きな矛盾があった。
そもそも大鳥家に伝わる『呪い』とは大鳥家の血を引く全員が対象な訳ではない。『呪い』を引くのは本家直系の者だけであり、分家の人間は例外となる。
しかし大鳥家では当主となる者は男のみと限定されている故に、直系の血筋を引く母禮が当主になれないのもこれが理由。
それだけではなく、現在大鳥家の直子は母禮ただ1人。つまりこの大鳥敬禮という男は分家から連れて来られた人間に他ならず、母禮とは本来従兄弟に当たる。
では何故、この男が『呪い』を継承できたのか?
それも3代目という大昔の人間でありながらも、これもまた『大鳥』として異端な『呪い』を使いこなす事を可能としたのか?
母禮はアマンテスから聞いた事があった。インドや日本で伝承される呪術の一部では生贄の髪や爪、臓器を生贄に、自身の身体に直接何かを影響させる事が出来るという事を。
つまり敬禮は大鳥本家の誰かの臓器を使ってはその術式を完成させた解答が妥当であって、現にそれを成功させた事は今、母禮達に見せつけたばかりである。
それが示す意味はただ1つ、墓を掘り返したという死者への冒涜。
(ああ……そういえば)
この時母禮は、あの日あの時、10年前の事を思い出す。そう、父は言っていた。「何故お前が」と。
そして父が亡くなる前に当主は未だ確定されておらず、敬禮が当主候補として挙がっていた事。
これらの事実から浮かび上がる犯人とは、ただ1人。それこそ彼が本当に母禮にとっての殺意の怨敵。
「父さんと母さんを殺したのは貴様なのかァアアあああああああああああああああああ!!」
吐き出された哀しき少女の慟哭。それを真実なのだと報復を誓った男の嘲笑が夜闇に合唱を奏でていた。
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