Down,dawn,dawn…
会津から夜の東京・上野に現れた少女の名は大鳥母禮。
彼女はとある人物を探しに、会津からここまで訪れた。
しかし高騰したありとあらゆる難題と、持ち金に悩む中、男達と偶然ぶつかった。
一方、特殊警察『新撰組』の方でもある動きがあった。
彼らが血眼になって探す男の名は『大鳥』
母禮はこの日を境に、この世の荒波へと呑み込まれていく。
時は2065年。今の日本はこれ程までにかという程荒れ狂っていた。
国債による金銭の破綻から始まり、少子高齢化による年金問題だけでなく、国のデータバンクである役所さえ個人情報の漏洩が起き、政治面でも生活面でも人々は飢え、生きる事が難しくなったのが今から30年前。
それ以降日本は荒れに荒れ、さらに30年経った今、なんとか国家としての体裁は保っている。
しかし名所以外は基本廃墟が目立つようになってきた上、農家なども倅が都会で暮らし始めるという傾向がいよいよ止まらない。
その影響で、とうとう食料面でも問題が生じ人々はこの時代を「第七の革命期」「第二の幕末時代」と呼んだ。
事実この混乱した日本では強盗やテロ、殺人等、一般の警察機構だけで賄う事など出来る事などできなくなっていた。
それに応じ首都・東京には専用の対処機関がいくつも配備され、中でも特化していた武装集団が存在していた。
その組織の名は『新選組』
今の警察機構のトップとして君臨しており、多くの強盗、殺人、テロを解決する万能性。そして卓越した剣腕と勇猛さから、かの有名な「新選組」の名を頂いたと言われている。
各10実働部隊が配備され、都内の大型マンションに身を構えた合計150人近くの隊士は所属する部隊であり男所帯だというのだが、今この門を叩こうとしている少女がいた。
一見ぱっと見、少年の様に見えるがそれにしては背丈は小さい上、髪も金髪で高くポニーテール状に結ってある。よくよく見れば少女と分かるだろう。
しかし、そんな姿に不釣り合いな2メートル近くの鈍色の十字架の様なものを腰に下げている。
少女はカーディガンのポッケから財布を取り出し中身を確認するが、中には1000円札が4枚と小銭が18円。その中身に思わず言葉を失う。
少女・大鳥母禮は会津から、この上野近くまで訪れていた。
ここに向かうまでには不自由しないだけの金を入れたはずだったのに、自身の予想以上の出費に今眩暈さえ覚えそうになる。
それもそうだ。東京は首都であるが、今は税も異常と言える程までに上がっている。
故にカプセルホテルなどには手は届かないし、そもそもネットカフェで一時避難するぐらいが精一杯な状態だった。
(果たしてこれで足りるだろうか?)
ここ上野から『新選組』が新宿に構えたマンションまでの交通費も考えなくてはならないし、今は何分夜だ。早く宿を決めてしまわないと厄介になる。
ちなみに現在は物価と税金の上昇と共に電車賃も値上がり、2駅通るだけで1000円はかかるとここで示しておこう。
うーん、うーんと悩んでいると突然ドンッ、と誰かが母禮の肩にぶつかる。
突然揺れた身体のバランスを立て直し、そのまま振り向く。すると息を荒げた男2人組はぜぇぜぇと肩で息をしながら助けてくれといわんばかりに、母禮を盾にし「ア、アンタ……!」と声を震わせる。
「た、助けてくれ!今、奴らに追われてんだ!!」
この漆黒の闇の中響く、大音量の懇願。この時、母禮は男らを静かに見やった。
ただ恐怖に支配された隷属の様な視線を、その琥珀色の瞳でしっかりと見据えて。
◆
「山崎、まだ見つからないのか?」
「はい」
一方とある新宿にある大型マンションの一室で交わされる会話。
正にここがかの新選組の構える本拠地である。薄暗い部屋の中で会話というよりも情報課内部からの報告は続く。
聞けばどうやら、否、今この『新撰組』では隊員のほぼ半数を割いて、とある人物の行方を追っている。
ある意味これは彼らの失態なのだが、それ以上に彼らには逃げた彼を追う理由があった。決して逃してはならない難敵とでもいおうか。
いよいよ報告を受けた男は痺れを切らしたのか、顔を顰めては舌打ちを漏らす。
「チッ、今立て続いた事件の処理をしてる間に逃げたか」
「あんの野郎」と忌々しげに吐き捨てる男――新選組のナンバー2である土方幹行は言葉を噛み殺す中で「致し方ありません」と山崎と呼ばれた情報課に所属する隊員からの静止を受け、僅かながらに怒りを抑える。
「彼は仮にも古代名家『大鳥』の当主なのですから」
「だったら会津で大人しく動いてりゃいいだろ。それをしねぇ以上、当主もクソもねぇじゃねぇか」
嫌味をたっぷりと吐き出し「はぁ」と1拍溜息を吐いてはそのしゃがれた声を重くさせて、土方は静かに呟いた。
「そういや今日は何部隊が出てる?」
「確か第1部隊と第3部隊です」
「そうか、ご苦労だったな。下がれ」
「失礼致します」
トントン、と煙草の箱から煙草を1本取り出し、静かに火を点け煙を吸い込む。刹那息を吐いては誰もいない部屋でぽつりと呟く。
「これで相似と斎藤も駄目だったら終わり、か……やってくれるぜ、大鳥」
『大鳥』――そう、これが今彼らが死力を以て追う男の名前。吐き出される紫煙と同時に混ざるその呟きは、どこか諦めの意思すら感じさせた。
だが、諦める訳にはいかないのだ。奴を仕留めなければ、もう直にこの新宿が地図から消えるのだから。
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