last night-2
「……で、今夜動く事は比企から聞いたんだな?」
あれから遊佐と母禮はこのマンション内の案内や、最低限の生活用品を買い揃えた頃には夕方となっていた。
すると「最後にここを紹介しておかないとね」という遊佐の言葉で、夜が深みかかった今、土方の部屋にいるという訳だ。そして母禮は土方の言葉に頷きを返す。
母禮も比企から今朝、何故新撰組が自身の兄を追っているのかを聞いた所だ。ならば話は早いと土方は話の内容を進めている。
「奴はここ最近、出現する場所が決まっている」
「場所は?」
「都営新宿線付近。つまりここと目と鼻の先だ」
「そんな所に……」
新撰組の掟であるのだが、脱走者は罰則として政府に拘束され、以降刑務所での生活を強いられる。最も立場によっては粛清もありうるが、敬禮の場合は明らかに後者に当てはまる。
しかしそんな警戒心すらないのか、彼らの活動範囲内で行動しているのならば、余程捕縛されない自信がある訳だ。最早過信とも言えようそれに土方は、呆れたかの様にこう続けた。
「これは俺の自己分析なんだがよ」
そう言って土方は煙草に火を付けては、広げていた地図を指でトントンと叩く。
「ここからちっと地下鉄を使って離れた所に、『生命の樹』が関与していると噂されるビルがあるみてぇでな。恐らくあの野郎はここ一帯の守護を任されていると読んでいる」
「でも待ってくれ、土方さん。兄上はあの『生命装置』の情報の一部を持っているんだろう?なら何でそれを持った人間を向こうは放置する?」
「簡単な話だ」
そう返せば煙を吸い込んでは吐き、煙草をトントン、と灰皿に落としては呟いた。
「さっきは守護なんて大層な事を言ったがな、あの野郎と『生命の樹』はグルなのは明白だ。だが、奴らは邪魔者を一掃するのが目的だ。なのに何故、邪魔な奴全員をぶっ殺せる機密事項をこっちの裏切りモンに易々と渡すと思う?」
「!」
そう。確かに敬禮は新撰組でも参謀を担っていたが、元はといえば敵。しかし彼は新撰組の内部情報を『生命の樹』に渡したとしても嵩が知れている。
それに引き換え向こうの機密情報を易々と渡す程、向こうは馬鹿ではないだろう。つまり土方が考えた結論はこうだ。
「謂わば捨て駒だよ、本人が自覚してるかどうかまでは知らねぇけどな。あの高杉ならそう判断するだろ」
敬禮がいくら新撰組の隊員を蹂躙しようと、彼に『生命装置』の事を外部に漏らす事はない――否、出来ないと分かっているからこその行動。
一か八かに思える行動だが、あの高杉灯影は事の顛末全てを見切って、土方の推測さえ裏付ける様に仕向けた。
正に状況操作に関しては天性の領域。多少樹戸の意図が絡んでいたとしても、ここまで先を読んで手を打てる人間など、そうはいないだろう。故に高杉の存在に少し怖気を覚えながらも、母禮は呟く。
「1つ、いいか?」
「何だ?」
また土方は煙草を咥えるが、母禮は今の話を聞いて生まれた疑念を土方に対して吐露する。
「それが分かっていたのは結構前からなんじゃないのか?」
「ほう」
すると土方は感嘆の声を上げては「そうだな」と煙を吐きながら一言。
「全くその通りだぜ、ガキ。何で俺らがあの野郎に負けてきたか……分かるか?」
「いや、そこまでは……」
確かに土方の意や敬禮の動向は読めた。だがそれ以上に理解が困難なのは、何故武術の達人揃いの新撰組の人間が、敬禮1人に蹂躙され続けたという事。
確かに敬禮もある程度武術の心得はあるが、それは新撰組内最強と謳われる遊佐や斎藤の足元には及ばない。母禮はそれを分かっているからこそ、いつまで経ってもこれが分からないのだ。
「俺らは全隊員が拳銃を一応持っているものの、国の許可の元、刀を使用した近接戦を得意とする。それが通用しねぇのは隊員の腕がどうとかじゃなく、向こうがどうにかしてんだ」
土方が説明する現状だが、いよいよその種明かしはすぐそこまでに見えてきた。だがあまりにも深刻なのか、重い調子で土方は続ける。
「主に戦線に立ってる第1部隊、第2部隊の隊員の話じゃ、奴は隊員を鎖で縛り上げた上に、腕で潰したりもするらしい。どれもオカルトな話だが、どちらにせよただの人間じゃ対処しきれねぇ。だから俺はテメェに下がれと言ったんだ」
(鎖で縛りあげた挙句に腕で潰した……?)
正に怪奇、全てが空想。更にいうならば魔法。確かにそんな反則技を兼ね備えているのならば、普通の人間では歯が立たない。
もし一太刀浴びせられる可能性があるならば、遊佐や斎藤の両名。そして今まで交戦して生き残った比企ぐらいだろう。しかし母禮はふと思う。
(あの人はいつそんなものを、どこで会得したのだ……?)
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