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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
1.Down,dawn,dawn…
13/102

esthesia-2




 もう一度振り上げた手。2発目が遊佐の頬を打ちつける前に、母禮は手首を掴まれる。それを止めたのは、それこそ正に先程まで話に上がっていた人物。



「斎、藤……さん?」



 今の騒ぎを聞きつけたのだろうが、母禮が名前を呼んでも尚凍てついた表情のまま、母禮の手首を掴んでいる。そして口を開いた。



「何を話してるかは知らんが、騒ぐのはやめておけ。他の隊員の迷惑ともなる」


「……でも」



 ぽつり、と呟いた母禮の言葉を斎藤は聞き逃さなかった。



「だから?」



 一瞬にして、次の言葉を封殺するかの様な一言。母禮もその冷たさに思わず黙るが、当の斎藤はその態度と声音を変える事無く、淡々と言葉を紡ぐ。


 それは酷く、あの時遊佐が母禮に向けた怜悧な視線よりも冷たく、彼女の胸中を抉る刃物(ことば)だった。



「こいつの口車に一々乗るな。一応ここの規律では隊員同士での私闘は禁じられている。それが守れないならば、それ相応の処罰を受ける事になる」



 これは事実である。新撰組は一応警察機構ではあるが、その凶悪な事件を扱う事から刀剣類だけでなく、自衛隊や軍が使う武器すら所持している。


 それもあってか隊員同士で死闘や喧嘩をする事は、絶対的に禁じられている。無論それは生半可に決められた温いものではないのだ。



「言っておくが謹慎処分などという甘ったるい処罰だと考えるなよ。下手をすれば、アンタの一生に関わる」



 嗚呼、規律なのは分かった。そういった視線を斎藤に向けるが、それ以上に母禮の視線はある事を強く訴えている。



「何故、止めたのか……と言った様子だな」



 何故、貴方が? 関係ないだろう? そう、貴方には関係ないのだと。



 しかし斎藤は母禮の後ろに立っている為、表情など微塵にも見えない。ただ何故理解したかというのであれば、母禮自身がかもし出している気を読んだとも言えよう。


 現に母禮も視線が交わる事がないと知っていながら睨んだ。だが理由は至って簡単だと斎藤は告げる。



「大鳥。俺はな、この新選組で1番汚い仕事が回ってくる。裏切った同僚の処分や先程の処罰、何度も犯罪を繰り返す犯罪者の検挙が多い第1部隊に続き、その数はほんのごく僅かしかない」



 これもまた新撰組において事実であり、周知の事実である。実質犯罪者の検挙数が多いのは第1部隊だが、身内から出た錆は全て第3部隊へと周ってくる。


 しかも検挙数が第1部隊と変わらないとなれば、それだけこの新撰組という組織も汚辱を喰い、身内を殺してまで生き延びてきた事は自明だ。



「到底自慢できる事ではないが、これは警告だ。相手の安い挑発に乗って力を行使するのは愚の骨頂」



 そう、それの正当性は恐らくこの斎藤所以という男がよく知っている。知り過ぎている。もう呆れたのか、いよいよ侮蔑交じりの声音で言葉を紡いでいく。



「しかも今回は相手が悪すぎる。……まさか、昨日の様な技を以てすれば勝てるとでも思うのであれば、それはただの思い上がりだ。それに忘れたか?」



 何を――? そう返そうとしたが、何故か声が出ない。


 それはもう羞恥からであり、それだけではなく、先程遊佐の言葉から知ってしまった彼の闇を痛い程理解してしまったから。そうして止めと言わんばかりに斎藤はこう言った。



「アンタの監視役はこの俺であり、今の事は昨日の手当の礼だ。ここにいる新選組の幹部をあまり甘く見るんじゃない」


「……分かった」


「ならいい」


 そう母禮が短く答えれば、斎藤は手を離し、また厨房へと戻っていく。だが母禮としては惨めな気分でしかなかった。



『ここにいる新選組の幹部をあまり甘く見るんじゃない』



 確かに、斎藤の言った事は紛れもない事実。多少剣の腕が立っても、恐らく斎藤や遊佐にその技は通じまい。そして何より自身が反則性(チート)を振りかざせるのも、この身に宿す呪いの恩恵。


 自身が戦う力はアマンテスが与えてくれた。しかし、それを以てしてでも新選組の幹部の人間はそれより遥か上の実力をゆく。


 ましてかの裏で有名な新選組の遊佐相似を相手にしようとは無謀極まりない。だが、あの言葉が再び蘇る。



『もしかして、大事な人が所以さんによって奪われた……とかありきたりな話じゃないだろうねぇ?』



 その問題に関しては未だ不明だ。なぜなら、ただ似ているというだけで犯人扱いをしたとして、それは冤罪かつ証拠不十分。


 けれども、あの日父と母を守れなかった自身の無力さを思い出すだけで、怒りがこみ上げてくる。そんな気持ちを押さえ込んで、母禮は足早に食堂を出て行った。






「ねぇ、ちょっと。ちょっと待ってって!」



 食堂を抜けて長い廊下を渡ってエレベーターを待っている際に、誰かに声をかけられる。


 横目に見れば、そこにはパンダの絵がプリントされた正しくは子供用のエプロンを身に付けた青年がそこにいた。すると青年は母禮へと近寄って声を掛けた。



「君、昨日ここに来た情報提供者さんでしょ?」


「それがなんだというのだ?」


「いや、だから朝ご飯」


「は?」



 突拍子もな言葉に目を丸くする母禮だが、「ほら」と笑って青年は母禮に包みを渡す。





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