esthesia
そう笑って首を傾げる様子がとても痛々しく、思わず胸元をぎゅっと掴んだ。
(ああ、そうか)
とある事を1人で納得しては、2人でエレベーターに乗りこむ。そのまま食堂としてあてがわれている部屋に行けば、そこには何人かの隊士が台所に立ち自ら料理を作っていた。
「ほほう、朝飯は自分で作っていたのか」
「そそ。昼とか夜は任務が立て続くから食事は各個人で取るけど、朝は朝方まで続いた任務を担当していた人を除いて、みんなでとってる」
遊佐は平然とテーブルへと向かうが、当然母禮にとっては居心地は良いとは言えない。その居心地の悪さから辺りをキョロキョロとしていれば、厨房の奥にいた見知った顔を見ると心臓が跳ねる。
無論、それは隊服であるYシャツを捲っている斎藤の事。ここからじゃ遠く見えないが、鍋をじっと見ていることから、味噌汁でも作っているのだろう。
「そんなに所以さんが気になる?」
「え?」
すぐ側のテーブルから聞こえた突然の問いかけに対し、裏返った声で返事をすれば、遊佐は軽く笑い飛ばす。
「何その驚き方。にしても昨日からずーっと所以さんの事見てたからさ、何か訳ありなのかなって」
「事情ならば――」
「あるにきまってる……って?」
母禮が答えるよりにも先に遊佐が答えれば、母禮を見ては軽く手招きする。
まだ朝食が作り終わっていないためか、和気藹々とした中でもちらほら空席も見える。勿論遊佐の隣には誰もいない。
要はさっさと来いという事。手招きされるまま遊佐を追い、隣に座ると「で?」と遊佐は興味心々に聞き返してきた。
「その事情っていうのは?」
「別に深い事はないさ」
「へぇ?そう言っちゃう?」
どこか気を悪くする母禮に構わず、喉の奥でくつくつと笑う遊佐。思わず恐怖を忘れて母禮は遊佐を睨みつけるが、遊佐はそれを一切合切無視を決め込んでは「中々やるじゃん」と呟く。
まるで作晩、初めて会った時の様に。挑発的で、獲物を視界に捉えた獣の様に。
だからといってこちらが怯む必要はどこにもないが、場所が場所故に黙り込むと、遊佐が相変わらず愉快そうに口を開く。
「もしかして、大事な人を所以さんの手によって奪われた……とかありきたりな話じゃないだろうねぇ?」
一瞬にて腹の臓腑を沸騰させるその一言。
ガタンッ、という大きな音の後にパァンッ、という甲高い音が和気藹々としたこの食堂に響き、誰もが音が聞こえたへと視線を向けた。
目線のその先には、立ち上がった母禮の姿と頬を思い切り叩かれた遊佐の姿に辺りは戦慄する。
「あの遊佐隊長に張り手を食らわすだって?」
「というか誰だよあのガキ。よくあんな事ができるな……」
「……命知らずが」
所々で声は上がるこの始末。当然だ。何せあの恐怖の対象ともいえる遊佐に対して、挑発されたとはいえ突然張り手をかますのだから。
無論、当の本人達は周囲の事に気付く事はない。ただ遊佐は「へぇ」と暗く冷たく低い声で呟く。その挑発的な瞳には怜悧な色をただ静かに含みながら。
まるで、無謀な挑戦者に向けるかの様な怒りと喜びが混ざったおぞましい視線。しかし、何をする訳でもなく、口元を緩めたまま遊佐は言葉を紡ぐ。
「そう怒らないでよ。大体そんな所かと予想を立てただけだし、もしかしたらただの思い違いかもしれないからね」
「このッ……!」
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