provocation
コンコン、とノック音を耳にして、ぼんやりとした意識で目を開けると外から自分を呼ぶ声が聞こえる。
時間を確認すれば、時刻は午前7時過ぎ。あまりにもこんな朝早くに外で人の呼ぶのは近隣に迷惑であるし、待たせるのも良くない故に玄関まで向かえばドアを開ける。
「なんだ……遊佐さんか」
「おはよう……って、うっわ、すごい顔してるよ!れいちゃん……本当に女の子?」
あまりにも態とらしいリアクションに思わず、顔を顰める母禮。確かに寝起きではあるが、デリカシーがないと悪態を吐けば、遊佐は笑う。
「ごめん、ごめん。冗談だって。もう朝の7時だし、朝ご飯の時間だから起こしにきたんだよ。ご飯食べるでしょ?だったら、さっさと顔洗っておいで。食堂まで案内するから」
「あ、ああ……すぐに終わらせるから待っててくれ」
そう言っては洗面台へと戻り、すぐに顔を洗う。歯磨きも済ませたかったが、何せここに来たのは約4時間前で、備え付けの歯ブラシも存在しなければ、人を待たせている。
そのためタオルで顔を拭いては、鏡を見てフーッと息を吐くと頬を叩く。
「よし!これで完璧だな!!」
急いで風呂場のドアを閉め、玄関まで走りドアを勢いよく開けては一言。
「おはよう、遊佐さん」
「はい、おはよう……って、相似でいいって言ったじゃん」
ふと遊佐が漏らす落胆の溜息。恐らく遊佐が玄関で母禮を待っていたのは、僅か3分ぐらいだろう。故に文句こそないが「遊佐さん」と呼んだ事が彼の中ではどうしても引っ掛かるらしい。
諦め混じりの溜息の後に、やれやれという調子で首を横に振っては先に歩き出す様子は流石にぐっ、とくるものがある。
「まぁ、いいや好きに呼んでもらって。ここのみんなは僕の事を名前で呼ぶからさ」
「それって、幹部の人しか呼んじゃいないんじゃないか?」
「え?何で分かったの?」
「何でって……」
何故、と遊佐は問うが、そう言われると母禮は昨夜遊佐に言われた発言を思い返す。
「職務上、こんなのはよくないんだろうけど、あまりにもお兄さんが強そうだからこっちの方が有意義だと思って選んだんだけど」
昨晩聞いた、思わず怖気を覚えた言葉。
不謹慎だの、仕事に不真面目だのという問題以前にこんな台詞を易々と吐いてしまう事自体人として何かが違う。
変わっているとかその様なレベルではなく、それこそ人の命さえただの玩具としてしか見ていないような感じの様な響き。
積み木よりもパズルの方が面白そうだからそっちをやろうという様な軽さで。
無論、こんな台詞を聞いた上で一緒に生活している身となれば、正直いつ自分がその身勝手さで殺されるかどうか分からないのだ。
だからこそ迂闊に親しくなどできない。できるとしてもほんの一部であり、それこそ昨日出会った土方や斎藤といった面子なのだろう。
しかし、この遊佐相似という男も馬鹿ではないはず。ふと、母禮をじっ、と見てはそっぽを向き、「そりゃそうだよねー」と暢気に答える。
「こんな僕の事、理解ってくれる人なんてそういやしないから。ただ、れいちゃんはそうじゃないのか、少し問いかけただけだよ」
「遊佐さん……」
「ね?」
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