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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
Will I change the Fate? 後日談 Leave footsteps
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土方は『グレゴリオ』という存在を知りながらも、アマンテスに対しては「知らない」と嘘を吐いた。


はたして彼は何故アマンテスへと嘘を吐いたのか?

そして彼は『グレゴリオ』という存在へ何を成そうとしているのか?


その答えは、彼にとってある大義が意味を成していた。



「Will I change the Fate? ~Leave footsteps~」第2話、終結。



土方が『グレゴリオ』のことを知ったのは、偶然であった。


2ヶ月前の新選組と『生命の樹』の間で起こった戦争の後、アマンテスは魔術協会に今回の事を報告するbべく、魔術師の掃討を行ったのだ。


というのも、あくまで『生命の樹』に所属していた魔術師が魔術師なのに違いはない。魔術協会が魔術師を管理する場所なのであれば、問題のあった魔術師を報告するのも『地の這う蛇』が魔術協会に依頼された事案だ。


しかし、アマンテスが魔術師の掃討を終了し、フランスへ帰国して以降、新宿をはじめとした一部の界隈にて毒を用いた事件が多発し始めたのだ。


この事件は捜査されるも難航を極め、新選組へと捜査は回された。そしてこの毒殺を行う殺人鬼の正体を追う中、土方はあることに気づく。


それはこの殺人鬼があまりにも荒唐無稽な殺害方法を用いること。ある事件ではたった数滴の毒のようなもので2人の人間を溶かし、背中をくっつけるというのが本事件の主な特徴。


そしてまたある事件では、犯行の際、殺人鬼が一瞬にて消えたこと…など。このほかにもこの殺人鬼は普通の人間にはできないことをやってみせた。なにより土方がこの殺人鬼を魔術師と断定したのも、あの戦争の渦中に自らの身を投じたからだ。だからこそ納得はできるが、それを上に報告すれば明らかに土方は不審な目を向けられる。


だからこそ自分の足で、ときには裏から情報を買い、地道にこの事件を調べていった。そしてそこに浮上したのが『グレゴリオ』という集団。


とある日、不良がよく(たむろ)っているパチンコ屋の裏で、若い少年が不良少年たちにこういっていたという。



「俺は神の成り損ないと行動を共にしている」


「そして俺は選ばれた人間だから、そいつが世界をぶっ壊すのに手助けをしてるんだ」



正に冗談。不良たちも頭がおかしいといった感じの顔色で話を聞いていたが、その少年は自身が巷を騒がす例の殺人鬼であることも明かした。そしてその不良少年たちはそれを聞いた翌日に殺人鬼によって始末された。


この馬鹿げた話云々の一連を聞いたのは、幸いにも新選組の予備隊に所属する隊員だった。彼が巡回の際に不良たちに遭遇し、夜間の出歩きに対し注意喚起をしようとしたが、話の流れからして不穏だと感じとって注意を辞めて物陰で話を聞いていた。そう隊員から報告を受けた後に土方はこう返した。



「なら、後は第3部隊に始末させる」



しかし、そういってからもう1週間は経過している。そしてこの1週間、土方は様々なことを考えていた。


これからのこの国の未来、もし『グレゴリオ』がこの国に何か害を及ぼした場合の未来、そして今ここに残る新選組の隊員たちの未来——それら全てを混ぜ合わせて考えた結果はこうだ。


恐らく、『グレゴリオ』は近い将来、『生命の樹』以上の厄災となるだろう。


もしそうなったら、アマンテスたちだけでは頼りないかもしれない。そもそも新選組の隊員たちでは神の成り損ないや魔術師たちに太刀打ちできない。そんなときに彼に偶然芽生えた“豊穣神”の術式。



(これだ)



土方はこれを見て確信する。これさえあれば、自分の手で『グレゴリオ』をかき乱せるかもしれない。


『グレゴリオ』を直接潰すことは無理でも、『グレゴリオ』を瓦解させるきっかけは作れるはず――そう確信してからは、彼は仕事の合間を縫って、自分の“豊穣神”の術式のコントロールに勤しんだ。そして今となってそのコントロールは大分安定してきている。ゆえに後することは1つだけ。



「後は…あの殺人鬼のガキを…」



彼が自身を『グレゴリオ』の人間だといった。ならば、その器を潰す――とも考えたが、それでは『グレゴリオ』内部の瓦解はできないし、なによりもっと手早く瓦解させるなら、その神の成り損ないを直接潰すことである。ゆえに土方が辿り着いたのはこの答え。



「…さて、悪趣味なお遊びはここまでだ。クソガキ」



そして今、土方はその殺人鬼の前に立っていた。


彼がいつも徘徊しているこのパチンコ店の裏で待ち構えていれば、殺人鬼はあっけなくここへとやってきた。


殺人鬼の名前は『死者と踊る者(トーテンタンツ)』。魔名か本名のどちらかなのは、この短期間で調べあげるには残念ながら情報不足だった。しかし土方にとってはどちらでも構わない。なにせ自分が今から行うのは()()()()()だ。


要はこの少年を殺して、自身が少年に成り代わる。そうすることで『グレゴリオ』内部へと入り込み、あわよくば神の成り損ないであるディオニソスを殺す。


なりすましを行うためにも、いくつかの術式が必要で、当然土方はその術式を調べては学習し、既に頭の中に術式を展開する手順を叩き込んである。


少年が土方の存在に気付き対峙した瞬間に、土方は鼻を鳴らして笑ってはこういった。



「テメェが『グレゴリオ』の魔術師か?」



そして『死者と踊る者』と豪語した少年は嬉々としてこう土方に返す。



「ああ、そうだぜ。つかお前誰だよ? ここ最近の俺の殺しをこらしめにきたってか?んなモン無駄だよ、バーカ」



少年は見た目からして幼いが、中身もかなり幼かった。そしてなにより好都合なのが、彼は土方と口調がよく似ている。ならばこいつは最適な優良物件だ。


そう吟味した土方は、何も答えることなく、その場でただ片手を振るった。たったそれだけの動作だった。


地面は突如抉れ、少年の足元は粉々となるが少年はそれを回避する。そして顔を引きつらせてこう土方へといった。



「へ、へぇ…やるな、おっさん。こんな術式『グレゴリオ』のメンツの中でもディオニソスぐらいしかできねぇわ」


「ああ、そうかい」



ここから『死者と踊る者』と土方の耐久戦が始まった。


しかし、毒を用いた術式は土方の肌に触れることなく、全てが『何か』によって弾かれる。少年は隙を作るべく肉弾戦を仕掛けるも、あくまで土方も新選組の隊員。無論、護身術のいろはは叩き込んであるので多少は少年の攻撃を防ぐこともできた。


ただいくら少年が攻撃を繰り返しても、徐々にそれは少年にとって不利になる流れとなっていく。そして土方が少年の前に手を突き出したときのことだった。


少年の突如背中に激痛が走り、背中から不吉で鈍い音がした。このとき少年の背骨は砕け、内臓を何か所か潰されたと知るのは、残念ながら少年の背骨が砕けた音が鳴った瞬間の事だ。



「ッ…!? はぁあああああッ!?」


「…意外としぶといんだな。手ごたえはあったし、背骨も確実に粉にしてやったのに」



無論、内臓も潰されたため、少年は困惑の声と共に大量の血を吐き出した。彼自身元傭兵ではあるが、ここまで反則的な能力こそ、先ほど彼が口にしたディオニソスぐらいしか所有していないことを知っている。しかしそれも先ほどまでだ。



(こいつ…まさか……)



少年は焦る。普通の人間より頑丈な体なのも彼の自慢だが、土方の所有する“豊穣神”の術式はあまりにも反則的すぎる。それは圧倒的に力量的な意味と破壊力において。


少年が無様に地を這う中、土方は手のひらにあるものを錬成させる。


見た目は氷で作った小さな杭のようなもの。そして杭の周囲にはいくつもの魔方陣がかけあわせている。



「! まさか…!」



そしてそれを目にした瞬間、少年は思わず声を上げ、背中に悪寒が走る。しかし今の彼に逃げることなどできない。そんな彼を土方は見下しながら「ほう」と感嘆の息を漏らす。



「殺人鬼でも一応魔術師の端くれだったか。そうだ、これが等価交換の術式」



等価交換といえば何かを対価にし、対価にしたぶんだけの恩恵を得られるモノ――それは魔術においても同義。しかし魔術における等価交換とは様々な区分を持つ。土方の行おうとする等価交換の術式は肉体の交換である。



「…知っているだろうが、この等価交換の術式をテメェに打ち込めば、テメェは俺になり、俺は魔術師・『死者と踊る者』になる。ただそれだけだ。だがこれにはさらに細工をしておいた」


「細工…?」


「等価交換の術式の成立後、術式を打ち込まれた側は即死のデバフ…?ってのか?それを打ち込むんだよ」


「嘘だろ!? んな馬鹿げたもん、普通なら作れない! そもそも等価じゃねぇから術式が乱れる!」


「そうだな、等価ではない。そもそも俺がテメェになったとしても、普通なら記憶の引継ぎすらできない。()()()()()()()()()()()



こうも淡々と荒唐無稽なことを述べる土方を目の前に、もはや少年は精神的にも抗う気が失せてしまった。


土方のいうことは確かであるが、これも本来魔術の定義を乗っ取ると不可能な出来事。なにせ自身の体を対価にして、相手の体を奪うだけが『等価交換』の効力であって、その先は保障できない。


それゆえに体の持ち主のどちらかを殺して、一方的に体を乗っ取り、さらには記憶の継承まで行うなら、もっと別の――それ以上の何かを対価にせねばならない。当然、土方は術式を書き換えた以上、その真意を知っている。


きちんと理解(わか)っているのだ。だから問題はない。ゆえにこう少年へと付け加える。まるで餞別を送るように。



「ただそれも今だけだ、後できちんと代償は払ってやるよ」


「…お前、まさか…」



このとき、少年は土方がこの先何をしようとするかについてある予測が浮かんだ。しかし、だとすれば、この男は狂っている。


自身に成り代わろうとする理由の検討など最初はつかなかったが、この予測を立てた瞬間、一体土方が何をしようとしているのかも読めた。あくまで彼がこの後未来に及ぼすある事態なのだが。


ゆえにその常人ではありえない正に狂人といえよう思考に、思わず少年は恐怖に震え、歯をカタカタと鳴らす。


なにせ彼は傭兵としての経験があるとはいえ、いつも圧倒的な力で敵を殺してきた。だから普段なら自身が狂った側。しかし今は違う。否、覚悟の差が違うのだ。そしてそれを土方は自らの言葉で吐露する。



「そういうわけだ。テメェらをかき乱して、あわよくばディオニソスさえぶっ殺せれば別にいい。それで俺の国を守る大義は成り立つ」


「狂ってる…じゃあお前はなんなんだよ……」


「強いていうなら、そうだな……」



そして土方は、等価交換の術式を少年の脊椎へと打ち込む。


「づぁ……ッ!」


()()()()()()()()()()()



そう、たったそれだけ。


土方幹之という男はいつもその正義という大義のためだけに命を賭けている。


かつては高杉灯影という友の残したものを正義とし、それを守り、育むことこそが大義だと信じた。


そして2ヶ月前の一夜の戦争も、国を守る立場の人間として、その役目を果たすことを優先したため、親友の高杉を救うことを後回しにした。


そして今彼が信じる正義は国の安寧。それを乱すものがいれば排除することこそ大義。だから『グレゴリオ』という国の安寧を乱すものを排除すべく、今土方はこうしている。


かつて、ある女性もいっていた。 アンタの正義はどこまでいっても純粋な独善、だからどこまでも狂えそうで正直怖い――と。しかしその女性はこうもいっていたのも土方は思い出す。



「けれど、だから幹行さんは正しくあれるんだよ。そんなところが好き」


「……正しいのかなんて、俺にゃわからねぇよ、キサキ」



そういって、彼女の名前と自身の迷いをぽつりと吐き出した後、ロキの体はズブズブと地面に呑まれてゆく。


先ほどは、交換した瞬間に体の持ち主に即死の呪いを持ち掛け、術式を発動した術式と意識が交換させられると説明したが、実はこの言葉にも1つだけブラフがあった。


あまりにも荒唐無稽な話だが、実はこの意識の交換は即座に行われるものではない。本来なら術式を打ち込んだ直後に術式を打ち込んだ術者の意思を関係なしに交換されるが、土方はそれさえも書き換えていたのだ。


だからこそ、この後支払う彼の代償というのはあまりにも重い。


少年の体は新選組が管理するあるビルの倉庫にひっそりと転移させた。そして、彼が目覚めるのは、そう長くない先の事。そして土方はポケットから煙草を1本取り出しては咥えて静かに火をつける。一息吸った後に夜空を見上げ、こう彼女へ伝えた。



「もう俺にできることは全部した。後は好きなだけ持っていけ、バカ女」



バカ女——はたして彼女が何者なのかは、今現在では土方(かれ)しか知らない。そしてこの願いは彼女を彼の元に引き寄せ、1年と半年後の2067年にいよいよ『死者と踊る者』(土方)の意識は目覚める。


決して、交換した後は土方は完全に土方幹行として稼働するわけではないが、それでも彼の中での狂った正義がある限り、だれであろうと土方幹行という男は土方幹行でしかない。


そして、この1年半年後に彼の身に何が起こるのかさえ、今は彼以外知る由もない。



昨日に引き続き、こんばんは。織坂一です。


さて、これで土方さんが『グレゴリオ』を知った意味が分かりました。

そしてこの後、土方さんは第二部序盤で退場となるのですが、それを見ると等価交換のせいなのかと思うかと思います。それについてはまた後程判明します。


この後は、残るところ第3話で、樹戸さんに話が引き継がれます。

3話は特に後日談としてもそうですし、第二部に続くのに大事な回でもあります。

なので、楽しみにしていただけると幸いです。



織坂一

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